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教育から探るイスラエルの強さの秘密(2)ユダヤ教育のシンボル・ヘブライ大学 その2 議論から生まれるもの

教育から探るイスラエルの強さの秘密(2)ユダヤ教育のシンボル・ヘブライ大学 その2 議論から生まれるもの

2018.08.16

Updated by Isaku Aoki on August 16, 2018, 20:45 pm UTC

ユダヤの教育法の特徴的なことの一つに、教師が生徒に一方的に教えるということがない、という点が挙げられる。一方的な教育は、先生の独演会であって、独り言を語っているにすぎないと考えるのである。ユダヤの口伝律法の集大成であるタルムードには、次のようなことが書かれている。

「教師は一人で生徒に話をしてはならない。もし生徒が黙ってそれを聞いているようであれば、たくさんのオウムが育てられるようなことになるからである。教師が話したら、生徒はそれに対して質問をしなければならない。そうして教師と生徒の間のやりとりが多ければ多いほど、教育の実績は上がるのだ」

この考えがイスラエルの教育には行き届いていて、小学校などでさえも生徒たちに議論したり質問することを積極的に促す。「良い質問は良い答えに優る」というユダヤの格言にもあるように、子供たちに次々と問いを出させて議論させて考えさせている。

私が学んだイスラエルのヘブライ大学でも、その精神が顕著に表れていた。それは数人の小さな授業はもちろん、数百人も聴講生がいる教室でも、お構いなしに生徒たちは教授の話を遮るようにして自分の意見をぶつけるのである。

▼ヘブライ大学の授業風景
ヘブライ大学の授業風景

先生はさぞ気分を害しているのではとヒヤヒヤしながら教授の顔を見ると、怒るどころかむしろ真剣に、時には嬉しそうにその生徒の意見を聞いている。しかも、その意見に対し的確に反論し、時には、「その意見は面白いから後で私の事務所に来なさい。もっとゆっくり話そう」というやり取りさえもあった。私はワクワクしながらそれらの授業に出たのを覚えている。

最近、NHKのクローズアップ現代「“幸福”を探して人類250万年の旅 リーダーたちも注目! 世界的ベストセラー」で特集されたりして日本でも話題になった世界的ベストセラー「サピエンス全史」(上・下)も、そのようなユダヤの伝統的教育の雰囲気の中から生まれた。

▼ヘブライ大学教授の著作「サピエンス全史」
ヘブライ大学教授の著作「サピエンス全史」

著者であるヘブライ大学のユバル・ノア・ハラリ教授は本書において、人類の歴史を通して最も大切なのは、私たち人間がフィクションを信じる力であると訴えている。そして7万年前に起きた認知革命や1万2000年前の農業革命など、人間が発展を遂げたターニングポイントともいうべき時代を4つに分けて解釈し、人類250万年の歴史をまったく新しい切り口で解説している。それが混迷した現代を生き抜くヒントが詰まっていると言われて注目され、世界48か国で訳されて、200万部以上を売り上げている。

この本は、ハラリ教授のヘブライ大学における教養課程の授業、「世界史入門」がベースになっている。ハラリ教授がヘブライ大学の授業で投げかける内容に生徒たちが反論したり議論を戦わせる中で、世界の有識者が注目するような内容が生み出され、その授業の中身が書籍化されて、世界の多くの人に読まれ、多大な影響を与えるような思想が生み出された。まさにユダヤ教育が生み出した賜物と言える一冊なのだ。

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青木 偉作(あおき・いさく)

エルサレム・ヘブライ大学社会学部政治学科卒。日本経済新聞社記事審査部スタッフを経て、現在、大阪大学・ユダヤ文化研究会ヘブライ語講師。主な訳書・著書に『ハマスの息子』(幻冬舎)、『ユダヤ人に学ぶ日本の品格』(PHP)、『ユダヤ人の勉強法』(中経出版)、『まずはこれだけヘブライ語』(国際語学社)等がある。