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LIFULLが不動産会社の広告施策提案にAIを活用、コンバージョン率が3倍に

2018.12.05

Updated by Naohisa Iwamoto on December 5, 2018, 11:25 am JST

不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」をはじめとした不動産情報サービス事業を提供するLIFULLは、データ活用に人工知能(AI)を利用し、新しい価値の創出を目指す。その第一弾として、データを活用して広告配信などの効果を高めるプライベートDMP(Data Management Platform)とAIを連携させて、マーケティング施策の効率化や最適化を推進する。

LIFULLは、2017年4月に旧社名のネクストから現社名に変更し、従来「HOME'S」として提供していた不動産・住宅情報サイトを「LIFULL HOME'S」とするなど、サービスをLIFULLブランドへと統合してきた。LIFULL HOME'Sに加えて、LIFULLグループでは引っ越しやインテリアといった不動産関連のサービスだけでなく、保険や仕事、介護など多様なサービスを提供している。

AI導入でターゲティング精度向上と業務効率化を目指す

こうしたサービスを提供する中で、LIFULLでは「エンドユーザーの膨大なライフデータが蓄積されてきた。こうしたデータベースを活用してソリューション提供を進めていく」(LIFULL HOME'S事業本部 グループデータ戦略部 部長の野口真史氏)という。そこでは2つの取り組みがある。1つは『どんな家に住みたいか』をデータから推測してターゲティングする手法の開発、もう1つはサイト改善やサービス改善のPDCAサイクルを高速化して労働生産性を向上させる取り組みである。そのうちの前者、ターゲティングの予測精度を高めて、コンバージョンを高める部分にまずAIを導入することにした。

▼Appierが開催した発表会でAI導入の成果を語るLIFULLの野口氏、梁取氏、浅利氏(右から)

AIを導入したのは、LIFULLがデータビジネスユニットで提供しているDMP事業。DMP事業では、LIFULL HOME'Sのデータと、外部データ、クライアントとなる不動産会社のサイトデータをなど使う「NabiSTAR」と呼ぶプライベートDMPを構築している。不動産会社に広告施策の提案をするアドソリューションでは、不動産会社のデータとLIFULL HOME'Sのデータを基に、NabiSTARでGoogle AdsやFacebook、Yahoo!ディスプレイアドネットワーク(YDN)などへの広告配信設計を行っていた。

しかし、「従来手法では、広告配信までの『データ分析~課題抽出』『課題解決のためのセグメント設計』『広告配信設計』という3つのステップのPDCAサイクルを回すのに、人手で約7時間がかかっていた」(同社 LIFULL HOME'S事業本部 グループデータ戦略部 データビジネスユニット 企画開発グループ グループ長の梁取義宣氏)。1つのサイクルで7時間かかるため、クライアントごとの案件数、さらにクライアント数を掛け算すると、膨大な時間がかかる。データビジネスユニットのDMP事業を拡大させるためには、効率化とは逆の動きをしなければならないことになっていた。そこで広告配信までの作業の一部をAIに肩代わりさせることで、効率アップを目指すことにした。

Webサイトへのタグ実装でコンバージョン率は着実に向上

利用したのは、台湾に本社を置くAIテクノロジー企業のAppier(エイピア)が提供するオーディエンス分析・予測ツールの「アイソン」(AIXON)である。AIを活用することで、膨大なデータから人間の行動を予測し、マーケティング施策に生かすことができる。LIFULLでは、プライベートDMPのNabiSTARの前段にアイソンを導入して顧客データからコンバージョン予測モデルを生成し、NabiSTARによる広告配信設計を行うようにした。梁取氏は、「アイソンの導入後は、アイソンで予測モデルを作って、広告配信設計をすれば良くなった。データ分析から課題抽出のプロセスがほぼゼロになり効率化が進められている」と評価する。

▼DMP事業におけるアドソリューションへのアイソンの適用

実際には、Appierの協力を得てノウハウを蓄積していった。アイソンをNabiSTARの前段に配置するか後段に配置するかは、検討したところ前段に配置したほうが効果的だと判断した。データの収集はWebサイトへのタグ実装によって行うことにしたが、その際の方針についてもAppierから台湾の事例などを基にした具体的な提案があったという。AIの活用を考える際にはデータクレンジングなどの前処理の必要性があるが、「アイソンではタグを実装するだけで、自動的にデータクレンジングを行った場合と同様の効果が得られた」(梁取氏)。

具体的には、教師データとしてLIFULL HOME'とクライアントサイト双方のコンバージョンユーザーのデータを利用。データソースには両サイトの訪問ユーザーのデータを利用し、予測ゴールはクライアントサイトのコンバージョンを予測した。広告配信設計は、配信媒体にGoogle広告を用い、アイソンで作成したコンバージョン予測モデルをオーディエンスリストとして、1つのキャンペーンで1つから2つの絞り込んだ広告グループ数を対象に、2~3パターンのクリエイティブで行う形を採った。

データビジネスユニット 企画開発グループの浅利大輝氏は、「半年の期間の平均コンバージョン率(CVR)は、LIFULL HOME'Sのみのセグメントデータを使った場合を100とすると、アイソン利用ではパソコンの場合が148%、スマートフォンの場合が114%と向上した。さらにPDCAサイクルによる改善効果が現れている直近1カ月では、アイソン利用がパソコンで188%、スマートフォンでは329%と大幅なCVR向上につながっている。クライアントにも満足してもらっている」とAI利用の成果を語る。

▼アイソンの利用でコンバージョン率(CVR)が大幅に向上する効果が得られている

AIを導入することで、業務の効率化を進めると同時に、ライフデータを基にしたターゲティングの精度を高めて適切な情報を提供するという同社の目的は、クライアント向けのDMP事業でまず大きな効果を生み出すことに成功した。今後も、予測精度向上のための連携データ拡張や、新しい予測モデルの利用・検証、Appierのマーケティングオートメーションツール「アイコア」(AIQUA)との連携などを検討している。そうした検討の成果を用いて、DMP事業だけでなくライフデータベースからソリューションを提供するという新しい価値の創出につなげていく考えだ。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。