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イスラエル最大の法律事務所が日本企業の投資をサポート、本格協業段階へ サイバーテック東京2018レポート

イスラエル最大の法律事務所が日本企業の投資をサポート、本格協業段階へ サイバーテック東京2018レポート

2018.12.15

Updated by Hitoshi Arai on December 15, 2018, 13:42 pm JST

昨年に続いて11月29日、30日の2日間、虎ノ門ヒルズにて「サイバーテック東京2018」が開催された。今年一番興味深かったセッションは、30日にサイド・イベントとして開催された「イスラエルのハイテク技術における投資について」というセッションだった。

このセッションは、Herzog, Fox & Neeman(以下HFN)というイスラエル最大の法律事務所のパートナーであるGilad Majerowicz氏がモデレーターを務めた。

▼写真1 HFNのGilad氏
写真1 HFNのGilad氏

サイバーテックに先立って、28日水曜日の夜に開催されたAniwo社による月例の「PitchTokyo」にもGilad氏は参加し、日本のTMI総合法律事務所(以下TMI)との提携を話してくれた。

それによれば、ますます多くの日本企業がイスラエルへの投資・提携を行っている、あるいは計画している状況を背景に、TMIと提携して日本企業向けのサポート・サービスを本格的に開始した。TMIの田中弁護士がイスラエルに駐在し、日本企業向けの支援を行うという。

無論、海外に投資するような日本企業であれば、しっかりした社内法務部門を持っているとは思うが、権利関係などで現地の法律に基づいた調査をし、デューデリジェンスや各種法律手続きを行うにはには、やはり現地の法律事務所を頼ることも必要なのだろう。そのときに、日本の弁護士が窓口になってくれて、日本語で相談ができるというのは大変大きなメリットだろう。

このセッションでは、デロイト・イスラエルのTal Chen氏とLior Kalev氏がイスラエル市場の状況と、なぜイスラエルのサイバーセキュリティは海外投資家にとって魅力的なのか、という内容のプレゼンテーションを行った。

▼写真2 デロイト・イスラエルのTal氏
写真2 デロイト・イスラエルのTal氏

▼写真3 デロイト・イスラエルのLior氏
写真3 デロイト・イスラエルのLior氏

Tal氏はイスラエル全体への投資状況、技術トレンド、海外企業がどのような入り方をするかのモデルなどを説明したが、インパクトがあったスライドは、この写真に示す「イスラエルにR&D拠点を置いている多国籍企業のマップ」ではないだろうか。

産業分野別、地域別のマップだが、どの産業分野でも圧倒的に米国と欧州の企業が多く、アジアは少ない。特に日本企業は、エレクトロニクスに偏っている。日本企業には、もう少し多面的にイスラエルの力を活用する余地があることを端的に示しているチャートである。

▼写真4 イスラエルにR&D拠点を置いている多国籍企業
写真4 イスラエルにR&D拠点を置いている多国籍企業

Lior氏は、特にサイバーセキュリティ分野について、業界の鳥瞰図(Landscape)を使って解説した。その後、次の図のように、日本企業のイスラエル進出をデロイトとしてどのように支援したかを説明した。

▼写真5 損害保険会社のイスラエル進出支援
写真5 損害保険会社のイスラエル進出支援

チャート上では固有名詞は記載されていないが、この損害保険会社は損保ジャパンである。損保ジャパンは昨年、デロイトのサポートの元に、テルアビブに拠点(ディジタルラボ)を開設した。SOMPOリスクマネジメント株式会社は、この拠点をベースに10月にサイバーセキュリティ事業を本格的に開始した。

Gilad氏は、HFNの日本企業向けサービスを解説した。イスラエルの法律、海外企業がイスラエル企業を保有するときの注意点、投資に関する法律的側面からの注意点、知的財産の所有権に関する問題、といったイスラエル企業への投資、イスラエル企業との協業を考えている日本企業にとっては、重要なポイントを押さえたプレゼンテーションだった。

最後に、Harel Herts Investments Houseを創業したElchan Harel氏により、「イスラエルと日本の架け橋」という題で、ユーモアに富んだ日本とイスラエルの比較の講演があった。同氏は大変な日本通でもあり、プレゼンテーションでの指摘はいちいち納得できるものであり、本セッション全体の品質を高めていた。

▼写真6 Elchan Harel氏
写真6 Elchan Harel氏

商社やCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)が、ビジネスの観点から両国企業の協業に関する様々な機会を発掘してきた段階から、いよいよバックオフィス機能である法務の専門家が日本企業のイスラエル進出支援をサービスとして立ち上げる段階となった。

日本企業にとって、単なるイスラエル・ブームではなく、本格的な協業が幅広く始まることを予感させるセッションであった。

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新井 均(あらい・ひとし)

NTT武蔵野電気通信研究所にて液晶デバイス関連の研究開発業務に従事後、外資系メーカー、新規参入通信事業者のマネジメントを歴任し、2007年ネクシム・コミュニケーションズ株式会社代表取締役に就任。2014年にネクシムの株式譲渡後、海外(主にイスラエル)企業の日本市場進出を支援するコンサル業務を開始。MITスローンスクール卒業。日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員。E-mail: hitoshi.arai@alum.mit.edu