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「働き方改革」「生産性向上」など、近年政府からこれまでの働き方に対する見直しを促す政策・提言がなされている。ITに近い業種や先進的企業であれば、ITを活用した「働き方改革」「生産性向上」は受け入れやすいだろう。一方で、それに遠い業種や従来のやり方を重視する企業の場合、その「有用性」を説明するだけでも苦労することも多いのではないだろうか。建設業において、i-Construction、CIM(Construction Information Modeling / Management)といった提言がされているが、実態はそれほど進んでいないという。

今回は「社会に安全・安心をもたらす」をテーマに掲げ、土木・建築設計を支援するソフトウエア・技術サービスの提供を中心に事業を行う株式会社フォーラムエイト 伊藤裕二社長とクリストフ・スーリエ氏(スパコンクラウド神戸研究室室長・VR開発グループ主事)に話を聞いた。

変わりゆく環境とターニングポイント

伊藤:私は24歳の時にフォーラムエイトに入社しました。当時は16名の小さな会社で、まだパソコン自体がほとんど導入されていない時代でした。入社後、パソコン事業部の営業部に配属されたのですが、営業をしながら、顧客管理や販売管理など、データベース化すれば効率的になるのにと思い、自分でいろいろなプログラムを作ったことも一度や二度ではありません。40歳を過ぎたころ、そのような業務ソフトをベースにフォーラムエイトから独立して、起業しようと思ったこともありました。しかし、当時は起業するにもそれなりの資金が必要で、今よりも様々な制約があったので実現するまでには至りませんでしたが。

VRで創る「夢の世界」~シミュレーションで安全・安心な社会を~

伊藤:創業当時からフォーラムエイトは「土木技術者の広場(Civil Engineer’s Forum)」として、すべてのエンジニアを対象に、より良い環境を提供する事をコンセプトに掲げていました。かねてより業務効率化を念頭に置いて営業していた私には、そのコンセプトはマッチしていましたし、IT化の波を追い風に、売り上げを着実に伸ばし、私自身、東京以外にも拠点を増やすため、尽力していました。

そのようなとき、阪神淡路大震災(1995年1月)が起こったのです。
私は当時、大阪支社に所属し、兵庫県明石市に住んでいました。幸いにも私の住んでいる地域は大事には至らなかったのですが、勤務先は被災の中心部です。もちろん通常の交通機関は回復しておらず、自宅から大阪への通勤は実質不可能で、震災から3か月間は会社に泊まりながら仕事をし、週末に4時間かけて自宅に戻る、という生活を余儀なくされました。

震災後まもなく、神戸市内のユーザーをお見舞いして回ったのですが、そこで得た貴重な事例が「復旧仕様」でした。震災で阪神高速道路の橋脚がたくさん倒れてしまったため、補強方法や暫定的に強度を維持するような構造、橋脚そのものの構造などの基準が急遽変更されてしまったのです。そのため私たちは、復旧仕様に対応した設計や診断のためのソフトウエアを無償で提供する事にしました。当時は、専用のソフトウエアがないと設計できない切羽詰まった状況で、まずは復旧を第一に考えソフトウエアの供給を優先しました。日本は地震大国で、いつどこで地震が起こるかわかりません。そのころから、効率化や良い環境を提供するだけでなく、ITを活用し、社会に安全・安心をもたらす、という今のフォーラムエイトの精神が醸成されたのです。

VRで創る「夢の世界」~シミュレーションで安全・安心な社会を~

伊藤:それから数年が経過した2003年、私は創業社長と交代し、新経営体制をスタートさせました。当時はCADソフトの営業やインストラクターがほとんどいない中、女性が営業で活躍していましたので、女性取締役を登用しました。また、これからの海外展開を想定し、外国人取締役も登用し、3人体制として再スタートを切ったのです。

そこには「女性活躍推進法」や「次世代育成支援対策推進法」などにも基づき、全ての社員がダイバーシティーを意識する体制にしたい、という想いがありました。多様な個性・能力を十分に発揮できる働きやすい環境作りに努め、先進的なソフトウエア開発とサービス技術の提供を通して、安全・安心な社会の創造への貢献を目指しています。

建設業におけるIT業界の地位

伊藤:建設業界において、建設コンサルタントや建設会社が主たるプレイヤーであることは言うまでもありません。しかし、ソフトウエア会社やIT企業もまた重要なプレイヤーである、という認識が行政にはまだ足りない、と私は思っています。本気でIT創造立国を目指すのであれば、われわれのようなIT企業もまた、解析やシミュレーションといった技術提案を通して、即戦力になれるプレイヤーであることを理解してほしいのです。一方で建設業界においても、VRや高精度ソフトの導入がまだまだ進んでいません。

われわれが提案しているVRの導入推進は、i-ConstructionやCIMへとつながります。VRや3次元解析ソフトなどを導入すれば、より精度の高い成果物の作成が可能になり、ひいては生産性向上にも貢献できるはずです。

例えば、ある事業をVRによるシミュレーションで完全に再現できれば、企画やアイデアの段階で貫献度や完成度を測定することができる上、合意形成が可能かどうかも判断できます。これは、無駄なものを作らないための大きなコスト削減に結び付く。しかし、その実現には発注者がオープンデータをデジタルシティーとして所有しシミュレーションできるような、大規模な基盤の整備が不可欠です。

この他にも弊社には、3次元の都市モデルを基盤とした津波解析や避難解析、緊急地震速報システムといったさまざまなソリューションがあります。昨年起こった西日本の集中豪雨による災害も、当社のソリューションを有効に活用することで、事前に対策をして防げる可能性もあったのです。今後、建設業界にさらにVRが導入されれば、コスト削減や生産性向上に大いに寄与できるだろう、と思っています。

さらにわれわれは、VRを使った国内外の学生向けデザインコンテストやVRを紹介する小・中学生向けテレビ番組を製作しており、建設業とシステムエンジニアの未来人材育成にも力を入れています。私はこれからも、深刻な人材不足が課題となっている建設産業界を多様な側面からサポートしていきたいと考えています。

日本の企業で働くこと~ダイバーシティーの実態とは~

VRで創る「夢の世界」~シミュレーションで安全・安心な社会を~

スーリエ:フランスの大学、特にエンジニア系では卒業要件においてインターンシップが重視されています。卒業要件の半分程度が、インターンシップにより実際に働いた企業からの評価です。実際にモノを作り、企業からの評価が高ければ卒業ができます。そのような環境ですので、インターンシップで在籍した会社に就職することも多くなります。

私はある程度の年齢になってから海外で仕事をすることは難しい、若いうちが(海外で仕事をする)チャンスだろうと考え、(学生時代は)多くの外国企業にインターンシップを申し込みました。リコーがちょうど私のような仕事ができる人のポジションを探していた、ということもありインターンシップとして採用され、半年間の業務の後に、正社員として採用されました。私自身が日本に元々好印象を持っていた、ということもあったのも(来日した)一つのきっかけかもしれません。

スーリエ:最初の5年間はリコージャパン株式会社に在籍し、マルチメディア、ビデオ、VRに関連した研究活動をしていました。当時は、特にマルチメディアコンテンツの自動メタデータ生成に注力していました。その後(リコージャパンの)社長が交代したことをきっかけに、チャレンジを許容してくれる会社を探し始め、最終的に株式会社フォーラムエイトに転職し、そこから10年が経過しました。フォーラムエイトは自分たちが作りたい製品などを提案すると、「よし、それをやってみよう!」と受け入れてくれることが多いのです。そのようなチャレンジを後押ししてくれる社風がマッチしていたようで、今も楽しく日本での生活と仕事を満喫しています(笑)。

フォーラムエイトならではのエンジニアの働き方

スーリエ:ここ神戸での開発部門に特徴があるとすれば(私のように)外国人が多い、ということでしょうか。神戸の開発部門には現在10人程度の外国人が在籍しています。もちろん、日本人の開発者も多いので、結果的には様々な国の人が集まっています。プロフィールや考え方がバラバラでそれぞれ個性的なのが面白い。海外の良いところと日本の良いところが融合して、働き方に多様性があり、まさにダイバーシティーです。

スーリエ:例えば、個人的に日本人の働き方で参考になるのは、リスク管理と品質管理でしょうか。外国人だけなら大胆にチャレンジしてしまう部分を、日本では一定レベルの品質を保つため、小さな改善の積み重ねで対応することが多いように思います。フランス人はアイデアもたくさん出しますし、クリエイティビティは高いのですが、一方でクオリティ(品質)がそれに追いついてきません。このあたりを日本人が補う関係になっています。

フォーラムエイトの複数の製品は、CSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)PSQ認証を得ていますので、その点でも高い品質であることが対外的に証明されています。

「人」という意味では、私自身は(人事)採用には直接関与しているわけではありませんが、定期的に面接を行う機会は多いです。というのも、フォーラムエイトでは、採用にあたっては現場のマネージャーとの面接が重視されているからです。「チャレンジを後押ししてくれる社風」と話しましたが、採用に関しても、現場に対する裁量権が多いため、(他社と比較して)比較的自由度が高いのではないか、と感じています。

インターオペラビリティ(interoperability:相互運用性)の重視

VRで創る「夢の世界」~シミュレーションで安全・安心な社会を~

スーリエ:製品開発時に重要なのはインターオペラビリティです。特にオープンソースがその守備範囲を広げているだけに、相互運用性のノウハウがキモになるケースも増してきています。今までは、囲い込むことによって契約を継続させようとする考え方が主流でしたが、もはや時代は変わりました。マイクロソフトが最も良い例だと思います。20年前はワードで作られたファイルがMacでは見えなかった。しかし、むしろ見えるようにすることで、逆にマイクロソフトの売り上げは増えたはずです。結局、顧客が喜んでくれるかどうか、その一言に尽きます。むしろインターオペラビリティを拡張した方が、囲い込めるとさえ言えるのかもしれません。

スーリエ:われわれがつくっているソフトウエアは他のソフトウエアとのコラボレーションを非常に重視しています。例えば火災事故のシミュレーションであれば、弊社で扱うソフトウエアでも火災、煙、風、避難経路など一連の解析ができますが、国内外の様々なツールや解析モデルとのデータ連携性を高めることで、活用の可能性がさらに広がり、弊社ソフトやソリューションを広く展開することができます。

実は、このあたりはヨーロッパが得意としています。相互運用性のための法律もあります。別の会社が別々に作ったソフトウエアであっても、顧客のところではそれを連携させ、接続させることが比較的簡単であり、最初からそれを可能にするための設計が施されています。それを数年後にさらに別の会社がアップデートさせることも容易です。それは最初に作った会社が相互運用性を重視しているからです。これが結局、イノベーションを加速することになります。過去の(顧客の)財産を引き取って、新しい開発が簡単になるからです。経済全体としてはこの方が成長するはずで、その意味においてもGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)はよくできた“部品”で、コンペティターではない、と思っています。

VRで都市をシミュレートする「夢の時代」へ

伊藤:30年前、16名からスタートしたわが社は、お蔭様で約250名の社員を擁するまでに成長しました。

社会的なインフラや建設業の充実は日本だけにとどまらず、世界でも重要視されています。そのため、アジアを中心にヨーロッパ、ロシア、中東など、様々な地域で、私たちの製品が活用されるようになってきました。先ほどスーリエが、インターオペラビリティについて話しましたが、ソフトウエアの柔軟性が非常に高いのです。中国においては、ドライビングシミュニレータだけで見ますと、当社がトップシェアです。ご存じの通り、日本はソフトウエアの輸出に関してはまだ非常に少ないのですが、今後は、AlやIoTがますます活性化し、IT化時代がさらに加速します。われわれには、さまざまなデバイスやシステムに適用できるVR (バーチャルリアリティー)という心強い製品群があるのです。近い将来、VRを活用して都市をシミュレーションするという「夢の時代」に突入するはず、そのように考えています。

株式会社フォーラムエイト・代表取締役社長 伊藤 裕二

伊藤 裕二
株式会社フォーラムエイト・代表取締役社長

株式会社フォーラムエイト代表取締役社長。1957年5月生まれ、神戸市出身。慶應義塾大学にて法学を学び、1983年日本構造技術株式会社入社、1987年フォーラムエイト創業社員。その後、1989年同社大阪営業所長、2003年代表取締役社長に就任し、現在に至る。2018年より一般社団法人コンピュータソフトウェア協会副会長、IT社会推進政治連盟 理事。

株式会社フォーラムエイト・スパコンクラウド神戸研究室室長・VR開発グループ主事 クリストフ・スーリエ

クリストフ・スーリエ
株式会社フォーラムエイト・スパコンクラウド神戸研究室室長・VR開発グループ主事

株式会社フォーラムエイトのスパコンクラウド神戸研究室は、スーパーコンピュータ「京」を擁する理化学研究所・計算科学研究センターに隣接する高度計算科学支援研究室内にある。スパコン環境と大規模ストレージ環境を有効活用できるソフトウェア・サービスの開発と運用支援を業務としており、LuxRenderレンダリングサービス(アンバイアスドで低速なCGレンダリングエンジン「LuxRender 」を京に移植して、数百フレームのアニメーションをレンダリングする)、Engineer's Studio、UC-win/Road・CGムービーサービス、風・熱流体スパコン解析、騒音音響スパコン解析、騒音測定シミュレーションサービス、ウルトラマイクロデータセンター、海洋津波解析サービスなどがすでにリリースされている。

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