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厚生労働省の「毎月勤労統計」問題をITガバナンスの観点から検討(3)

Discuss Japanese Government's stat scandal with IT Governance

2019.01.30

Updated by Mayumi Tanimoto on January 30, 2019, 07:15 am JST

今回も前々回、前回に引き続き、厚生労働省の「毎月勤労統計」問題をITガバナンスの観点から検証します。検証にあたっては、厚生労働省の毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いに係る 事実関係とその評価等に関する報告書を引用しています。

 

・ITガバナンス体制の検証や提案が行われてこなかった

このことは職員・元職員のヒアリングの中で「単純なプログラムミスだと思う」、「システム更改のタイミングでオペレーションが漏れたのではないかと思う」といった供述が出ていることとも符合し、システム改修の過程において事務処理の誤りを生じやすく、事務処理の誤りのチェックが適正に行われにくい体制上の問題点は職員の間でも認識されていることがうかがわれる。

 

現場では問題は認識されていたわけですが、変更管理を行うプロセスの導入も組織改編も行われず、予算や人員も提供されなかった、ということです。

定期的にコンサルティング会社や外部監査を入れて、ITガバナンスの現状を精査し、適切な対応策を提案してもらう、という活動が行われていなかった、ということです。外部視点を入れることは、業界標準を知る上で重要ですし、自社では気が付かない点に対して提案を得られることが多いので重要です。

また中央官庁では、外部の民間企業出身者が入省してIT業務に関わることが少ないということの反映でもあります。

イギリスだと民間出身者が出入りしますので、業界標準ではないプロセスやガバナンス体制に関して、現場から指摘されることがあります。そういった声を管理職が拾い上げ、提案として上に上げる仕組みもなかった、ということです。

 

・政府全体でのITガバナンスの不在

このように考えると、本件については、システム改修についての処理の誤りを起こした職員の責任もあるが、それ以上に処理の誤りを起こしやすく、誤りが誤りのまま実施されないように適切なチェック体制を整備せず、また、プログラム改修を部下に任せきりにしていた責任は重い。

問題事案の的確な把握を怠った平成15(2003)年以降の統計情報部長及び政策統括官並びに雇用統計課長、雇用・賃金福祉統計課長、参事官(雇用・賃金福祉統計室)及び管理官(雇用・賃金福祉統計室)の責任こそが強く問われるべきである。

報告書では統計情報部長及び政策統括官並びに雇用統計課長、雇用・賃金福祉統計課長、参事官(雇用・賃金福祉統計室)及び管理官(雇用・賃金福祉統計室)の責任が問われていますが、私個人としては、問題の根源はもっと大枠にあるように思います。

つまり中央政府全体でITガバナンスの標準が提示されておらず、各省庁、特に重要な基幹データ等を扱う部署にそういった標準やフレームワークが展開されていなかった、ということです。

展開にあたっては予算と人員も提供されなければなりませんが、これは各省庁ではなく官邸レベルで取り組むべき活動です。

他の省庁でも様々な不備が見つかっているわけですが、これを改善するためには、現場の関係者を処罰するのでは意味がなく、政府全体でのITガバナンスのあり方を検討しなければならないと考えます。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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