今回で第2回目のあきた寺子屋。キャッチコピーは「秋田の魅力、ここほれワンワン」。
「首都圏在住・地域ゆかり」が集まることで地元を変える - 「2018あきた寺子屋」レポート
2019.02.18
Updated by SAGOJO on February 18, 2019, 12:01 pm JST
今回で第2回目のあきた寺子屋。キャッチコピーは「秋田の魅力、ここほれワンワン」。
2019.02.18
Updated by SAGOJO on February 18, 2019, 12:01 pm JST
東京で首都圏在住の同郷の者たちや地域ゆかりの者たちが集まる機会はそう珍しくもないかもしれない。しかしその「集まり方」一つで、地域に革新をもたらすうねりの端緒になることがあるとしたら、どうだろう。
今回は、秋田県人が、年1回開催している首都圏のイベント第7回「2018あきた寺子屋」のレポートだ。昨年に続いてスマートニュース本社で開催された。本イベントでは、「秋田の魅力、ここほれワンワン」をキャッチコピーとし、地方創生の観点から秋田の魅力を掘り出し、新事業や活動のきっかけづくりを行うために催されたもの。イベントは3部構成で、行政、起業、外貨獲得の3つの方向から、それぞれ秋田の活性化に関ってきた3名の講師による講演と、全員参加型のワークショップによる討論が行われた。主催は秋田産業サポータークラブ(秋田県)、運営協力として一般社団法人 創生する未来、全体のファシリテータには、組織変革のコーチングに定評がある場活堂の泉一也氏が務めた。
イベントに参加したのは首都圏に住む秋田ゆかりの20-30代の若者や企業関係者、また秋田の自治体や銀行関係者たち。終了後、参加者間で、地域を変える動き出すために連携する動きが生まれているというこのイベント。どんな手法で運営されたのか、見てみよう。
3部構成のトップバッターは、行政・政治面から秋田県仙北市の門脇光浩市長が務めた。仙北市は、豊かな自然に囲まれ、市の中央に田沢湖、乳頭温泉や玉川温泉などの温泉郷があり、スキー場などの豊富な観光資源を抱えている。近年はインバウンドを含めた観光事業に力を入れている。
しかし、同市の人口減少率は激しく、13年前よりも人口が5000人も減り、現在は2万7000人まで落ち込んでいる。そこで、なんとか地元を活性化し、人口減少に歯止めをかけようと努力を続けている。たとえば同市は、2015年に国家戦略特区に選ばれ、ドローンや自動運転といった先進的な取り組みを推進中だ。将来のビジネスにつなげ、優秀な人材や企業を呼び込もうとしている。
門脇氏は「国家戦略特区では、イノベーションを起こし、新しいビジネスを始められるように、国に規制緩和を働きかけることができます。新規事業が上手くいきそうであれば、全国展開していただければよいと思います。いま我々には、そういうことを試みるための時間や場所があります。しかし自治体が最も必要としているのは人材です」と説明した。
そこでディスカッションのテーマは「仙北市に魅力的な人材を集めるには?」に決定。その後、ワールドカフェ方式でグループごとにディスカッションが行われた。これは、グループごとにカフェのような雰囲気で対話することで、メンバー間の意見交換を通じて相互理解を深め、一体感も得られる手法だ。
まず5人1組で1つの「島」を作り、メンバーの誰かが進行役のホストになる。ホストは最後まで島から動かないルールだ。グループで話し合い、その内容を模造紙にマーカーで書き込んでいく。次のテーマになったら、ホスト以外のメンバーが他の島へ移動し、新たにグループを編成する。各グループで話し合うだけでなく、グループ間の交流を促すことで、参加者全体に一体感を醸成することができる。
このようにして25分間の討論を終え、各グループごとに結果が発表された。特に印象に残った意見をピックアップしよう。
・秋田は教育が熱心なので、わらび座の農業体験を教育素材として、ブランド力を発信
・魅力的な人材を集めるためには、受け入れ側の秋田の閉鎖的なマインドを打破する
・優秀な国際教養大学の学生が仙北市に残ってもらえるような施策を考える
・秋田犬をフィーチャーして、女子にSNSで発信してもらう
・新幹線だけでなく、田沢湖を飛行艇や飛行船が飛ぶ空港にする
・農業特区として若い人に有機栽培を行ってもらい、その野菜でレストランを展開したり、海外に輸出することで、経済を回していく
本セッションでコメンテータを務めた合同会社ツクル代表の三宅創太氏は「仙北市は特区になったが、まだ改革が進まず、アクセルとブレーキを同時に踏んでいる状況です。みなさんにはブレーキ側の意見も考えてもらいました。このブレーキを外し、市民がつながるように、自分事のアプローチを取っていただきたいと思います」と語った。
経営・地方での起業面からは、トラ男/Kedamaの武田昌大氏が、起業のきっかけや、現業の取り組みを紹介した。
北秋田市で生まれた武田氏は、東京の大手ゲーム会社に勤務していたが、故郷の消滅を危惧して一念発起して起業。秋田には素晴らしい素材が多くあるが、それを発信する方法をデザインしなければならない。そこで同氏は「価値をみつけ、人につなげること」をビジネスのコアに置いた。具体的には農業と古民家をテーマに、秋田の価値を伝えようとしている。
コメどころの秋田県は2016年度、食料自給率で北海道を抜き全国1位となった。だが、米価は下がり続け、高齢化の波も押し寄せている。そこで休日に農家に飛び入り、農業について学んだという。気づいたことはコメの流通面での課題だ。せっかく生産した100種類のコメが、すべて混ぜられて「あきたこまち」として出荷される。農家からダイレクトにブランド米を顧客に売れる流通経路をつくりたいと考えた。
同氏は専業農家の三代目3人と手を組み、男前農家集団「トラ男」(http://www.torao.jp/)を結成し、Webサイトで純米の通信販売を開始。東京でも純米の試食会を積極的に開催したり、さらに東京・日本橋におむすび屋「ANDON(あんどん)」(https://andon.shop/)をオープンした。
しかし、こうした取り組みだけでは、秋田に人を呼び込めない。移住してもらう関係づくりのために「古民家シェア」というアイデアを出し、クラウドファンディングで資金を調達。秋田県・五城目町にある築135年の茅葺古民家を利用し、「シェア・ビレッジ」を立ち上げた。
本プロジェクトでは「年貢」と呼ばれる年会費3,000円を支払うと、誰でも村民になれる。好きなときに村に行き、農作業などで村民同士と交流できる。また都市部の村民を対象に定期の飲み会「寄合」も始めた。現在は、香川県の三豊市仁尾町にもビレッジを展開中だ。これからも全国にある古民家をシェア・ビレッジに変えていく意向だ。
武田氏は、地元を活性化させるために、広域連携としての取り組み「バーチャル市民の“北北市”(北秋田市&仙北市)のビジョン」を討論のテーマとして提案。これをもとにグループごとにディスカッションが行われた。以下、討論の結果をいくつか紹介しよう。
・北北市の仮住民票を発行し、バーチャル上で、さまざまな市民サービスを行う
・山をメインに山菜採り、マタギにクマ狩りの指南、田沢湖でトライアスロンを開催
・北北市だけでなく、クマなどの動物も含め10万人(?)の連邦国家にする
・バーチャルからリアルに移行するために、広域連携を大仙市まで広げて「北北大市」とし、大曲の花火ハーフ大会を開催
・空港がある北秋田市と新幹線がある仙北市を内陸線で「きりたんぽ列車」を走らせ、両市の観光客の移動を促す
・林業の復活を目指し、バーチャル住民が納税すると秋田杉などがもらえるようにする
・「シムシティ」のようなバーチャルな空間を構築し、商店街をつくったり、わらび座の演劇を鑑賞できるようにして集客
コメンテータを務めた創生する未来代表の伊嶋謙二氏は「バーチャルな北北市は面白い。さらに動物も含め10万の連邦国家にするという大風呂敷を広げた発想も地域活性化には重要です」とコメントした。
最後は、外貨獲得とインバウンド面について、戸嶋一葉氏だ。同氏は、仙北市の出身で、現在はITと日本酒のPR事業や動画制作事業を行うプリズムテック合同会社のファウンダとして活躍。しかし、もとは日本マイクロソフトで、インフラ事業やクラウド事業を担当する理系女子だった。
現在、戸嶋氏はコンテンツ力を最大化し、「人の縁をつなぐ」「夢を実現する」「絆を深める」をコアに、テック系スタートアップ支援や、WingArc1stなどのコミュニティマネージャを務めたり、TECHMONSTERではVirtual Youtuberも担当。また「かずはの日本酒ちゃんねる」や、秋田純米酒処で日本酒の魅力を啓蒙中だ。
戸嶋氏は「日本酒が大好きで、週末に日本酒のイベントに参加している人と、ITにかかわるプロを結びつける活動をしたい」と考えている。また、中国の巨大市場に興味があることから「中国の若者に秋田の魅力を伝え、外貨を落としてもらう」をテーマに、ディスカッションが行われた。以下、討論の結果をいくつか紹介しよう。
・秋田酒のブランディングを進め、中国の「独身の日」をターゲットに酒を売り込む
・台湾の夜市のような楽しい雰囲気の場所をつくり、お酒を飲んでもらう
・ECサイトの活用、酒蔵の見学・体験によって、旅行者を呼び込み、日本食ファンを育成
・高学歴や富裕層をターゲットに外貨の獲得を狙い、国際教養大学の学生にアンバサダーになってもらう
・秋田酒の美味さの秘密をストーリー仕立てでWebサイトで発信し、日本酒+温泉の合わせ技でプロモーションを行う
コメンテータを務めたヒキダシ 代表取締役CHOの木下紫乃氏は「若者はコト重視の体験を望んでいます。それは国を超えても同じ。多様な人がプロジェクトに絡むと面白いことになりそうです」と語った。
毎年実施されるあきた寺子屋だが、今年は特に秋田を元気にするために、さまざまなアイデアが泉のように湧き出た。イベントで活発に発言していた参加者のひとり、20代の秋田出身女性は、投資系の会社に勤務するやはり秋田出身の30代前半の別の参加者がブログで発信しているのを見て参加したという。彼女の実家は、秋田市内の繁華街にある飲み屋だが、最近は人気が減っているのを帰省するたびに感じていた。東京で働きながらも地元のことが心配になって参加したという。
彼女のように、首都圏で働く地域出身者は、地元に想いを持ちながら、仕事において、さまざまな専門性を身につけ、「いつかは地元のために」と考える人も少なくない。同じ想いを抱える人とつながって話し合うことが、地方活性化の起爆剤として、ユニークな発想を具現化する端緒になる。秋田で起業する、秋田で就職する、とにかく秋田へ帰る、別の地域で秋田に関わるなど、このイベントが目指すのは「秋田のために何かをする」だ。イベント終了後も場を酒場に移して参加者同士、興奮冷めやらない様子で秋田のことを話し合い、またの再会を誓った。
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