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サッカー ボール トロフィー イメージ

ロボットサッカー世界最強チーム UT Austin Villa を見学してきた

2019.03.06

Updated by Ryo Shimizu on March 6, 2019, 21:09 pm UTC

筆者の主催する秋葉原プログラミング教室、サッカー部は、ロボットによるサッカー大会、RoboCup出場を目指して小学生から社会人までが「部活動」に熱をあげている。
今年のジャパンオープンにはぜひ参加したいと今から日夜特訓の日々である。

そんなこともあって、RoboCupにおける常勝校、テキサス大学オースティン校のUT Austin Villaを訪れてみた。
日本ではUTといえばユニクロのTシャツか東京大学(University of Tokyo)だが、ここではUTといえばUniversity of Texasである。

UT Austin Villaは、ヒューマノイドロボットリーグと3Dシミュレーションリーグで圧倒的な強さを誇るチームだ。
この大会では全てのロボットは自律エージェントとして、中央コンピュータを持たず、自分のセンサーとCPUだけで情勢を判断し、高度な戦術を組み立てていかなければならない。
まさに現実のサッカープレイヤーと同じ課題を設定されているのだ。

AI冬の時代と言われたゼロ年代でも、RoboCupだけは生き残れたのは、目標設定が明確で、アプローチする方法が必ずしも今でいう機械学習や深層学習に頼らなくてもよかったからだとも言える。
とはいえ、UT Austin Villaは、強化学習分野のパイオニアである Peter Stoneが率いるチームであり、このチームの強さの秘密は、機械学習と強化学習による「ロボットそのものの運動能力の高さ」にある。


(左:Peter Stone、右:筆者)

ロボットそのものの運動能力が高いというのはどういうことかというと、3Dシミュレーションリーグにせよ、ヒューマノイドロボットリーグにせよ、使っていいロボットは同じ機種であり、改造は認められていない。

3Dシミュレーションリーグを見ると特によくわかるが、UT Autstin Villaのロボットは明らかに他のチームのロボットよりも「速く」移動し、「遠く」まで蹴ることができる。
これは、機械学習によって人間では詰め切れないパラメータチューニングを極限まで高めた結果である。

これは昨年の決勝の様子だが、オレンジのUT Austin Villaのロボットの方が明らかに速く移動しているのがわかる。

この技術を現実世界のヒューマノイドロボットにも応用した結果、ヒューマノイドロボットリーグにおいても相当の強さを誇る。

このため、3Dシミュレーションで訓練したニューラルネットを、ロボットに移植し、ロボットの動きとして現実世界からのフィードバックを受けたものを再度シミュレーションで学習させる、いわゆるスパイラル学習を採用している。

部屋の片隅に置かれた棚には、トロフィが所狭しと並ぶ。

実際、どのようなチーム編成になっているかというと、基本的にはPh.Dを中心に7人ほどの小規模な研究チームになっているらしい。RoboCupの世界ではこれはかなり小さいチームである。他の大学のチームだと、
Ph.Dが20人くらいのチームもあるそうだ。ここに特に優秀な学生などが混じって、日夜ロボットの性能向上のための新しいアイデアを試している。

ここまでの研究を行うには、潤沢な研究予算と高い志を持った学生、Ph.Dがとにかく必要である。
たとえばロボカップのオフィシャルなロボットであるNAOは、買うと一体100万円以上する。それが22体あって、しかもメンテナンスも考えたら膨大な費用がかかることは想像に難くない。その他にも、なにげなくそのへんをさまよっているロボットがふつうに一体500万円くらいかかっていて、それが何台も群れをなしているところを見ると驚愕する。日本の大学では全く見られない光景だ。

他にもPeterの研究室の他のPh.Dと話をする機会があったが、目線がものすごく高いところにあって改めて驚いた。彼らは当然ながら、今の学会で議論されている内容よりも、10歩先をみており、論文は、遠いゴールに向けた着実な一歩のドリブルのように計画的に構成されている。単に学位をとるためとか就職するため、といった低い志で研究していない。

一方、我が国のアカデミズムは、国立名門大学であっても、年々教授ポストが減らされたり、教授や准教授が学内の政治や授業に時間を奪われて研究に専念する時間がなくなったりと、非常にまずい状況にあるように
筆者には感じられる。

これを少子高齢化の結果、と片付けてしまうのは簡単だが、そのような時代になっても、学問的研究に潤沢な予算をつけ、後進を育てる努力を怠ると、国力はどんどん下がっていくことになる。
どこで大規模な構造改革が必要になると思われるが、既存の大学が急に方針を変えるというのはかなり難しいだろう。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。

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