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1)シンプルな「アルジラ」に見る基本中の基本

2019.03.10

Updated by Toshimasa TANABE on March 10, 2019, 11:43 am UTC

「アル」はジャガイモ、「ジラ」はクミンのことである。つまり、アルジラとは、クミン風味のジャガイモ料理という意味だ。

作り方はざっとこんな感じだ(分量などはレシピとして別途紹介の予定)。

材料)
・ジャガイモの皮をむいて食べやすい大きさに切る
・ニンニク、ショウガをみじん切りにする
・玉ねぎを粗みじん、あるいはスライスする(お好みで)
・トマトは粗みじんに切る
・ホールスパイス:クミン
・パウダースパイス:パプリカ、ターメリック、カイエンペッパー
・ガラムマサラ
・サラダ油、塩、水

調理手順)
・鍋にサラダ油を熱する
・クミンシードを入れ、焦がさないようにじっくり加熱する
・香りが立ってきたら、ニンニクのみじん切りを加えて炒める
・ニンニクがきつね色になったら、玉ねぎとショウガを加える
・玉ねぎが透き通ってきたら、トマトを加えてさらに炒める
・トマトが崩れてきたら、パウダースパイスと塩を加える
・ペーストと馴染ませながらパウダースパイスに火を入れる
・ペーストの中にジャガイモを投入する
・ジャガイモの表面に火が通ってきたら、水を加える
・ジャガイモに火が通るまで煮込む
・仕上げにガラムマサラを少々加える

この何気ない、最も基本的でシンプルな手順の中に、いくつものインドカレーのセオリーが隠れている。

まず第一に覚えておくべきは、アルジラという名前の通り「ジャガイモと相性の良いいスパイスはクミン」という点である。「ある程度水気の多いサラッとしたカレー」でも、もっとドライな「粉噴きイモのようなカレー」の場合であっても、ジャガイモにはクミン、というのが最もベーシックな組み合わせであり、セオリーなのである。

ジャガイモにはクミンだからこそ、一番最初にホールのクミンを熱して、全体にクミンの風味を行き渡らせるのだ。また、ホールスパイスは、最初に油の中で熱して香りを油に移す、というのも重要なセオリーの一つである。辛さや味付け、色付けのために後で投入するパウダースパイスとは、役割と使い方が違うのだ。

次に、ニンニクとショウガのどちらを先に(あるいは後に)入れるか、である。好みはあるかもしれないが、食べるときにショウガの風味がちょっと残っていた方がフレッシュさとアクセントが感じられて美味しく食べられる。このためにショウガは後で入れる。刻むときにニンニクよりもショウガのほうをちょっと粗めに刻む、というのもテクニックの一つである。ニンニクとショウガはすりおろす場合もあるが、すりおろすときもショウガの方をちょっと粗めにすると、良い結果が得られる場合が多い。

さらに、このショウガの風味が残るように作る、フレッシュさを感じさせるように作る、というところには、もう一つの大事なセオリーが隠れている。それは、インドカレーは「でき立てが一番美味しい」ということだ。

例えば、一晩置いてしまうとショウガのフレッシュな味わいはかなり失われてしまう。もちろん、寝かせることによって味が馴染んでまろやかになる、という側面があることは否定しないが、それはまた別の話である。一晩置いたカレーを食べるときに、針ショウガをほんの少しトッピングしてみると、ショウガの役割がよく分かるはずだ。

アルジラに隠れているセオリーはまだある。それは、パウダースパイスはたった3種類しか使わない、という点である。辛味を調整するためのカイエンペッパーを除くと、パプリカとターメリックだけ、というシンプルな構成なのがポイントだ。

でき上がったアルジラを食べてみると、パプリカとターメリックがカレーであることを担保していると同時に、玉ねぎとトマトの甘みが明確に感じられるはずだ。その中で、特徴的な風味のクミンがアクセントになりつつ、主役のジャガイモのほくほくとした食感と味わいが楽しめる。これがアルジラなのである。

つまり、カレーベースにたまたまジャガイモを入れたのではなく、ジャガイモを美味しく食べるためにスパイスと玉ねぎとトマトを使っている、というのがアルジラの本質なのだ。

よく考えてみると、これは「ジャガイモと玉ねぎの味噌汁」に酷似している。味噌汁なんだから、基本的には出汁と味噌がベースにはなっているものの、玉ねぎとジャガイモの味が全体と馴染んで初めて味噌汁として完成しているはずだ。玉ねぎが長ネギになると風味が変わるし、ジャガイモではなく里芋にすると、また違った味噌汁となる。

味噌汁の出汁に相当するのが、ニンニク、玉ねぎ、トマトである。これらの素材の味わいがカレーの最もベーシックな旨みとなる。これにメインとなる素材の味わいを最小限のスパイスでまとめる、というのがインドカレーなのである。だからこそ、アルジラのようにシンプルで肉の類が入っていないにもかかわらず、カレーとしてしっかり美味しいのである。

アルジラは、ジラというだけにクミンシードが全体のアクセントになっているが、クミンを除いた、ニンニク、ショウガ、トマト、玉ねぎを基本に、パウダースパイスとしてパプリカ、ターメリック、カイエンペッパーを加えたペースト状のモノ(「マサラ」という)が、トマト系のカレーの基本のカレーベースとなる。先に例示した調理手順でいうと、

・ペーストと馴染ませながらパウダースパイスに火を入れる

というところで、カレーベースができ上がる。後で加える水の量を勘案して材料の分量を調整すれば、サラサラのカレーからドライなカレーまで作り分けることが可能となる。特にアルジラの場合は、メークインのときは汁気を多くしてサラサラに作る、男爵の場合は粉噴きイモをイメージしてちょっとドライに作る、などジャガイモの品種によって作り分けるとなお楽しい。

今回は、ジャガイモを例にしたが、このカレーベースを覚えるだけで、カレーのバリエーションは広大になる。ナス、オクラ、ニンジン、ピーマン、カリフラワー、ダイコン、カブ、マッシュルームといった各種の野菜、あるいは鶏肉、羊肉、エビ、魚などの動物性たんぱく質の素材を主役にしたカレーに応用することができる。

そのときにポイントとなるのが、主役となる素材は何か、ケンカしない素材の組み合わせはどういうものか、その主役に応じたアクセントとなるスパイスは何か、である。これを意識することで、同じトマト系のカレーであっても、素材によって全く違った味わいに仕上げることができるようになる。あくまで素材が主役であって、同じカレーベースで肉の種類だけが違う、というようなモノとは一線を画すのがインドカレーなのである。


※本連載は、横浜市都筑区のインド家庭料理「ラニ」のオーナーシェフであるメヘラ・ハリオム氏と、同氏を師と仰ぐ田邊(富士山麓のcafe TRAILでカレーを提供中)の共著という形で、インドカレーのセオリーについて考え、それを分かりやすく提示する試みです。もちろん、いくつか代表的なカレーのレシピも掲載していきますが、いわゆるレシピそのものを紹介すること自体は目的ではありません。このレシピはなぜこうなっているのかを理解することで、レシピを見なくても、自分にとって美味しいインドカレーが作れるようになることを目指しています。また、各種スパイスについての解説は、食材やスパイス同士の組み合わせや相性を中心とし、スパイスの歴史や特性などについては、他に優れた本がたくさんあるので、それらにお任せするというスタンスです。

 

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田邊 俊雅(たなべ・としまさ)

北海道札幌市出身。システムエンジニア、IT分野の専門雑誌編集、Webメディア編集・運営、読者コミュニティの運営などを経験後、2006年にWebを主な事業ドメインとする「有限会社ハイブリッドメディア・ラボ」を設立。2014年、新規事業として富士山麓で「cafe TRAIL」を開店。2019年の閉店後も、師と仰ぐインド人シェフのアドバイスを受けながら、日本の食材を生かしたインドカレーを研究している。