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インド カレー スパイス 調理 イメージ

8)基本のカレーベースをマスターする

2019.05.10

Updated by Toshimasa TANABE on May 10, 2019, 11:04 am UTC

これまで何度か簡単に紹介してきたカレーは、玉ねぎとトマトを使うものがほとんどだった。アルジラひよこ豆のカレーなどが該当する。まずは、この基本となるトマトを使った「カレーベース」の作り方をマスターしてしまおう。組み合わせる素材を選ばないし、特徴のあるスパイスを追加することでさまざまな味わいにすることができる。とにかく応用範囲が広いカレーベースなのである。これを覚えるだけで、あるいは自分の好みに多少調整することで、いろいろなカレーのレシピをいちいち暗記する必要もなくなる。インドカレーというものが、ぐっと身近になり、手軽に感じられるようになるはずだ。

これまでは、材料の分量について詳細には言及してこなかったが、今回は「基本となる分量とバランス」を明示する。これを「1単位」と考えて適宜増減させると失敗がない、というものだ。

材料は、

・ニンニク
・ショウガ
・玉ねぎ
・トマト
・塩
・サラダ油

これに基本の3種のパウダースパイスの

・パプリカ
・ターメリック
・カイエンペッパー

たったこれだけである。

インドカレーは、化学調味料や発酵系の調味料による味付けをしない。では、インドカレーの旨みやコクは何から来るのだろうか?

答えは「トマトと玉ねぎ」だ。この二種類の野菜には酸味や甘みがあるが、旨み成分として有名なグルタミン酸も含まれており、それがインドカレーの「出汁」の主たる部分を担う。さらに、ニンニクはコク、ショウガは爽やかなスパイス感を追加する。

ニンニクやショウガは、

・すりおろす
・みじん切りにする
・千切りにする

など、組み合わせる素材やカレーの狙いによって粒度を調整するが、カレーベースとしては好みもあるだろうがすり下ろすのが良いだろう。師匠であるメヘラ・ハリオム氏は、「ニンニクショウガ・ペースト」(ニンニクとショウガを同量すりおろして合わせ、水で少し伸ばしたペースト)を使うことも多い。ニンニクは細かくすりおろし、ショウガは荒くすり下ろす、あるいはみじん切りであればニンニクをより細かく刻む、といった調整をしても良いだろう。

玉ねぎは、カレーベースを作るときには、細かいみじん切りが良いだろう。トマトは容易に煮溶けるので粗みじんで十分だ。

カレーベースの基本となる材料の分量とバランスは、以下のようなものだ(上の写真はニンニクとショウガの量が明らかに多い)。これを基本の「1単位」としてどのくらい作るかを勘案して調整する。

・トマト 2個
・玉ねぎ 1個
・ニンニク、ショウガ 各30g程度

スパイスに関しては、

・パプリカ 大さじ2(30㏄)
・ターメリック 大さじ1(15㏄)
・カイエンペッパー 小さじ1(5㏄)
・塩 小さじ2(10cc)

辛いのが苦手な場合は、辛味を担当するカイエンペッパーを半分にすると良いだろう。パプリカとターメリックだけで、カレーの味わいは十分に担保される。

このバランスを基本に2倍やそれ以上にするときは、すべての材料を倍、あるいはそれ以上にするが、スパイスと塩は8割から9割程度に減らした方が良い。理由は、全体が沸騰するまでの時間の違いや鍋の開口部の面積の違いによって表面からの水分の蒸発量が変わってくるからだ。つまり、使う鍋や火力によっても多少違うわけなのだが、スパイスの量は単純に倍にしない方が良い結果が得られる。半分の場合は、単純に半分で良いだろう。

2倍量で作ったらおいしくなかった(ハリオム氏のブログから)

余談になるし、カレーの話でもないのだが、以前、麻婆豆腐100人前というオーダーを受けたことがある。このときは、上記のハリオム氏のブログを参考にして、中華鍋で1回に10人前ずつ10回に分けて作った。100人分を作れるような大きな鍋はないし、豆腐はグズグズになってしまうし、何より、失敗したらリカバリーが利かない。10回に分ければ、50人前は辛口で、残りは甘口で、などということも可能だ。実際、辛さの違う麻婆豆腐を50人前ずつ2つの寸胴で「納品」して好評だった。


それでは、基本となる分量で実際に作り始めよう(以下では、ニンニクショウガ・ペーストを使う)。

1)
鍋にサラダ油を適量(鍋底全体に行き渡る程度)熱する。

2)
油が熱くなったら玉ねぎを投入する。

3)
数分間炒めて玉ねぎが透き通ってきたら、ニンニクショウガ・ペーストを加える。

4)
全体が馴染んでニンニクとショウガの香りが丸くなってきたら、トマトを加える。

5)
トマトを潰しながら炒めて全体が馴染んで来たら、パウダースパイスと塩を加える。

6)
パウダースパイスを加えると焦げ付きやすくなるので、注意しながら全体に馴染ませつつスパイスに火を通す。

7)
トマトが完全に煮溶けて滑らかなペーストになったら完成。最後にガラムマサラを少し(5㏄程度)加えても良い。

以上で、万能カレーベースのでき上がりだ。全体に濃厚で塩気もキツい仕上がりとなっている。これは、このカレーベースに鶏肉などのメインとなる素材を入れて、さらに水で伸ばしてサラッとした口当たりにすることを想定しているからだ。目安としては、小さなお玉1杯分(100㏄くらい)にメインの食材と水(あるいは牛乳など)適量で1人前(約200g)のカレーになる。

玉ねぎは、きつね色になるまで炒めても良いが、その必要はないということは「玉ねぎの炒め方」の回で紹介した。もちろん、そこは各々の好みではあるが。


このカレーベースから、鶏ひき肉の「キーマカレー」に容易に展開することができる。カレーベースができ上がった段階で、すぐに以下の手順を踏む。

1)
カレーベースにそのまま鶏ひき肉500gを投入して、よく混ぜ合わせながら加熱する。

2)
ひき肉全体にカレーベースが行き渡ったら、水600㏄程度を加える。

3)
強火で沸騰させて15分程度、アクがなくなるくらいまで煮込む(アクを取る必要はない)。あくまで強火がポイント。

4)
塩気を確認したら、仕上げにガラムマサラ5㏄程度加えて混ぜ込む。

これで、サラッとしていながら鶏肉の味がよく分かる美味しいキーマカレー(約8食分に相当)ができ上がる。キーマカレーの場合は、ニンニクとショウガは細かいみじん切りにしたいところではあるが、ニンニクショウガ・ペーストを使った方が滑らかで良い、という意見もあるかもしれない。


この基本のカレーベースは、冷まして冷蔵庫に入れて保存しておくと、数日程度は問題なく使えるのでとても便利だ。メインとなる素材を変えて、毎日、違うカレーを楽しむ、などということもできる。ただし、冷凍保存はあまりお勧めしない(短期間なら許容範囲かもしれないが)。どうしてもスパイス感が弱くなるし、解凍プロセスでそれがさらに助長される。冷凍するならば、パウダースパイスを入れる直前の状態の方が良いだろう。

実際のカレーベースの使い方であるが、例えば、ハリオム氏がブログで紹介しているベーシックな「チキンカレー」などがその典型的な使い方の一つである。カレーベースに食べやすい大きさに切った鶏むね肉を入れ、多少火が入った段階で水を加えて煮込んでいく。まず、鶏にカレーベースの味を入れつつ、煮込み工程で全体に鶏の味を出していくのである。鶏だけではなくて、煮込み工程でマッシュルームを入れて「チキンとマッシュルームのカレー」などというのも良いだろう。

ハリオム氏のブログでは、「ナスとチキンのカレー」なども紹介されている。レシピをよく見ると、カレーベースには入っていないスパイスが使われていたりするが、その違いが素材との相性を考えてアジャストしている部分なのである。

チキンカレーの場合は、基本のカレーベースだけで最後にガラムマサラを加えるくらいで十分に美味しいカレーができ上がると思うが、例えば、独特の香りがある羊の肉の場合には、少し工夫が必要だ。事前に羊をスパイスに漬け込んでおく、あるいはブラックカルダモンなどの強めの香りのホールスパイスを油でじっくり熱して香りを出してから、そこにカレーベースを合わせたりする。これらの手順を踏むことで、カレーベースにさらにスパイス感を追加するわけだ。もちろん、今回紹介したような汎用のカレーベースは使わずに、初めから羊を想定して羊にとことん合わせたカレーもある。当然、使用するスパイスも変わってくる。同じ素材でも、カレーにはバリエーションがあるのだ(羊のカレーについては別途記事にする予定)。

素材によっては、先に火を通しておくこともある。例えばナスの場合は、事前に炒めたり、素揚げにしたりすると良いだろう。炒める際には、アジョワンをほんの少し油に加えて炒めると一層美味しくなるように思う。季節によって旬の素材(春ならタケノコ、秋ならキノコなど)を使ったカレーを試すのも良いだろう。

基本のカレーベースを使って、好みの素材を好みのカレーに仕上げる、というのは、なかなかに贅沢で楽しいことだと思う。下の写真は、ラム肉を使ったカレー。素晴らしいラム肉(安くはなかったが)が手に入ったので、基本のカレーベースをスパイス強めにして「ラムカレー」にしたところ。外では絶対に食べられない、自分で作るからこその味わいに仕上がった。


※本連載は、横浜市都筑区のインド家庭料理「ラニ」のオーナーシェフであるメヘラ・ハリオム氏と、同氏を師と仰ぐ田邊(富士山麓のcafe TRAILでカレーを提供中)の共著という形で、インドカレーのセオリーについて考え、それを分かりやすく提示する試みです。もちろん、いくつか代表的なカレーのレシピも掲載していきますが、いわゆるレシピそのものを紹介すること自体は目的ではありません。このレシピはなぜこうなっているのかを理解することで、レシピを見なくても、自分にとって美味しいインドカレーが作れるようになることを目指しています。また、各種スパイスについての解説は、食材やスパイス同士の組み合わせや相性を中心とし、スパイスの歴史や特性などについては、他に優れた本がたくさんあるので、それらにお任せするというスタンスです。


※この連載が本になりました! 2019年12月16日発売です。

書名
インドカレーは自分でつくれ: インド人シェフ直伝のシンプルスパイス使い
出版社
平凡社
著者名
田邊俊雅、メヘラ・ハリオム
新書
232ページ
価格
820円(+税)
ISBN
4582859283
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田邊 俊雅(たなべ・としまさ)

北海道札幌市出身。システムエンジニア、IT分野の専門雑誌編集、Webメディア編集・運営、読者コミュニティの運営などを経験後、2006年にWebを主な事業ドメインとする「有限会社ハイブリッドメディア・ラボ」を設立。2014年、新規事業として富士山麓で「cafe TRAIL」を開店。2019年の閉店後も、師と仰ぐインド人シェフのアドバイスを受けながら、日本の食材を生かしたインドカレーを研究している。