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集落の命運を分ける事業、地域と外モノの信頼は作れるか - 白山市 SDGs未来都市 × KITイノベーションハブ「里山ボーディングスクール」その2

2019.03.27

Updated by SAGOJO on March 27, 2019, 09:36 am UTC Sponsored by 金沢工業大学

日本三霊山・白山麓の白峰地区は人口800人以下の集落。地域のプレーヤーが乏しくなっている中で、実験的なプロジェクトを実現するためにはどうすればよいだろうか。

先日、「SDGs未来都市」に選出された白山市と金沢工業大学の「KIT Innovation Hub(地方創生研究所イノベーションハブ)」 が連携して、白山の麓の白峰地域を舞台に「里山ボーディングスクール」というプロジェクトを立ち上げようとしていることを紹介した。今回はより具体的な動きをレポートしていこう。その前にまずは、「里山ボーディングスクール」がどんなプロジェクトなのか、ざっくりおさらいを。

地域全体を学校と捉え、校舎を出たあとに社会勉強ができる町づくりの一歩「里山ボーディングスクール」

白山市は平野部と山間部に分かれていて、1市2町5村が広域合併した都市だ。平野部の人口は増えた一方で、山間部の白峰地区では高齢化が進み、教育格差も生まれてしまっている。そこで白山市とKITは、現状の学校の授業では補いきれない「アート・サイエンス」「エンジニアリング・デザイン」の分野を中心に講師を派遣し、校舎を出たあとも里山ならではの学習ができる環境づくりを目指している。

それだけでなく、この「里山ボーディングスクール」で学ぶ内容は、インフラ整備のためのエンジニアリングや、伝統工芸を守っていくための職人への弟子入りなど、将来白山市の未来を担っていく子どもたちに知って欲しいものばかり。

プロジェクトが動き始めてから、白山市と提携する金沢工業大学(KIT)は、講師陣のアサインやカリキュラムづくり、運営事務局など、高齢化が進む地域だけではカバーできない領域をベンチャー企業の参画によって補おうと、起業家たちを選定してきた。彼らが白山市で実現し得ることと、白山市で挑戦したいことの双方がマッチするかどうかヒアリングをした上で、今回、以下の企業に集まってもらうこととなった。

・仕立て屋と職人

・SAGOJO

・ガクトラボ

・Next Commons Lab

これらの企業に白山市まで来てもらったのは、長期的なビジョンを共有して「里山ボーディングスクール」に関わってもらえるかどうかを自治体・金沢工大と改めて揉んだうえで、市民向けにもプレゼンをして意見を言い合ったり、理解を深めて進めていくためだ。

それでは実際に、4社がどんなプレゼンをしたのかを見ていこう。

▼プレゼンの後には、自治体の方と懸念点などのディスカッションが始まった。

この町の伝統と職人の思いを、後世へ繋いでいくために──仕立て屋と職人

白山市で挑戦できること:里山の暮らしを支えた養蚕と生糸に再びスポットライトを当てる

授業内容:この地に眠る良いものを引き出し、新たに発信する方法を考える

途絶えかけているその町の文化や伝統を、職人の思いを汲み取ったうえで“仕立て直して発信する”のが、彼ら「仕立て屋と職人」のしている仕事だ。

例をあげると、福島県郡山市ではだるま職人の元へ3ヶ月間弟子入りをし(彼らは必ず一定期間弟子入りをして職人と向き合っているという)、張り子の製法を生かして若者が手に取りやすい「ピアス」を作ることに成功した。伝統工芸とはまったく違う見せ方で、職人技にスポットライトを再び当てるプロフェッショナルだ。

▼仕立て屋と職人 石井 挙之さん

滋賀県長浜市では実際に「長浜シルク産業 未来会議」というワークショップを開催していて、時代の変化とともに衰退する産業について、職人・行政職員・地元住民に対し産業を掘り下げ可能性を広げるレクチャーをしている。白山市ではこれを、小学生を対象に行えるのではないかと提案した。

13,000人以上の旅人講師を抱えるネットワークを白山市へ──SAGOJO

白山市で挑戦できること:エンジニア・アート・デザイン・サイエンスその他様々なクリエイターを講師として派遣する

授業内容:ユニークな専門性を持った旅人のスキルを生かして、授業を設計

SAGOJOは、「旅をしながら仕事する」をもっと実現可能な日本にするために、旅人にこそお願いしたい仕事と、世界を飛び回る旅人や、旅する機会が欲しいと考えているフリーランスをマッチングさせるプラットフォームだ。2019年2月現在、SAGOJOに登録している旅人たちは13,000人以上で、企業や自治体の問題解決を日々仕事として担っている。13,000人の旅人たちが持っているスキルは多岐に渡り、コンテンツ制作からマーケティング、営業代行まで様々なニーズに答えることができる。

▼SAGOJOは2019年1月、金沢工業大学で旅人による出張講義を行った

SAGOJOにはアーティスト、エンジニア、デザイナー、研究者なども所属しているという。彼らの専門性と世界を旅してきた経験を生かして、旅人が白峰地域に一定期間住み込みながら、各旅人たち独自のスキルを生かした授業を展開することを提案した。

学生と地元企業を繋ぐコーディネーターの育成──ガクトラボ

白山市で挑戦できること:地元企業に小学生のうちから参画する機会提供

授業内容:地域コーディネートの考え方、ノウハウ

▼ガクトラボ 代表 仁志出 憲聖さん

石川県で地元企業と学生をつなげる「実践型インターンシップ事業」を確立させ、自主的なまちづくり活動を支えているガクトラボ。彼らのインターンシップは、単なる職業体験ではなく、長期的に企業に参画することを前提としていて、実際に新規事業の立ち上げや新商品の開発、イベント企画やマーケティングまで学生が社員と一体となって取り組むことを目的としている。

ガクトラボでは、インターンシップ事業だけでなく、学生が自主的に行うまちづくり活動や起業などを広く支援し、数多くの学生プロジェクトを生み出している。

中高生を対象に地域コーディネートのワークショップを開催した事例もあるというが、彼らは今後はより早く、小学生のうちから地元企業の取り組みや街を発展させる仕組みについて触れていくことが重要になると考える。「里山ボーディングスクール」では、まさにその機会を実現したいとプレゼンした。

この街に眠る価値問題を見つける場をつくる──Next Commons Lab

白山市で挑戦できること:この街の資源や価値を見出し、新しい産業の可能性を見つける

授業内容:アントレプレナーシップ教育、都市部を中心とした起業家の移住・誘致

▼Next Commons Lab 岡田 裕介さん

行政、民間企業、起業家など、多様なステークホルダーを巻き込みながら、地域にあたらしい産業を生み出し、地方が抱える共通課題を解決しているのがNext Commons Lab。既存の観念にとらわれない社会システムの具現化、総務省の取り組む地域おこし協力隊制度を活用した起業家誘致、新しい働き方や暮らし方の実践など、地域が自分たちの手で未来をつくるためのプラットフォームだ。

白山市では、住んでいる街の資源や課題を見つけ、その再定義や解決に向けて自ら主体的に働きかけることのできるアントレプレナー育成のために、小学生のうちから実践的な企画を考える授業や起業家誘致・育成に取り組みたいと考えている。

企業・自治体・市民が想いと目線を擦り合わせるには「車座で語り合い、同じ釜の飯を食うこと」

白山市職員の方たちと企業各社のディスカッションでプロジェクトを揉んだ後、次は金沢工大のファシリテーションで、「里山ボーディングスクール」の実現に興味を持っている市民の方々に集まってもらい、企業各社が白峰地域で子育てをされている方や地域で事業を営んでいる方、地域出身の市議など、キーマンに向けてプレゼンを行った。

▼スクリーンが使えなかったため、膝の上にパソコンを置き、紙芝居形式でのプレゼン。ハプニングではあったが、おかげで親しみやすくなったのか、和やかな空気になった。

企業と地域市民が顔を合わせるのはこれが初めて。しかし、車座での近い距離でのプレゼンだったこともあり、固い雰囲気だったのは最初だけ。地域住民の方からも活発に意見や質問、懸念点が出てきた。

とはいえ、なんと言っても初対面。地域住民の方にとっては、ほとんどがよそ者の企業メンバーに、プロジェクトへの期待や抱えている不安、腹のうちすべてを打ち明けるのはハードルが高かったかもしれない。

白峰地区で里山ボーディングスクールが実現した時、それは外部からやってきた企業の力だけでできるものではない。企業が一番力を借りなくてはならないのは、実際この町に住んでいる市民の皆さんに他ならない。少しでもお互いの理解を深めるために、夜は地元の焼肉店で交流会を行うことに!

▼白峰地域の方との交流会

振り返ってみると、ここでのコミュニケーションには、外からやってきた企業と里山に住む住人が協力して、質の高いプロジェクトを実現するために大切なポイントが詰まっていたように思う。

お肉を焼きながら繰り広げられたのは、例えば「実際にドローンで撮影をしたことがあるか?」という会話。ガジェット好きで建築関係の仕事をしている20代の男性は、仕事で使った際に「素人でもこんなに綺麗な映像が撮れるものなのか」と感動したと言う。

安値で売られているドローンを見つけ、購入を悩んだが、ドローンを飛ばして良い場所や使用上のルールなど、詳しいことがわからないためにやめてしまったそう。
安値と言っても10万前後はしてしまうからこそ、使えないかもしれないことを考えて諦める人はまだまだ多いに違いない。

白峰地区の魅力のひとつに、山間部の雪景色がある。しかし雪が積もると、ますます高齢者の身動きが取りにくくなってしまうから悩ましい、というが現地のリアルな声だ。

▼冬の白峰地域。2019年は記録的に雪が少なかったが、通常なら2-3メートルの積雪は日常だ。

冬場のボーディングスクールは、山間部に暮らす子どもたちの登下校にも危険が伴う。日も短いため、平野部に放課後から向かうとなると両親としては心配もあるだろう。冬場は週末のみの開講にするなどの工夫も必要になるかもしれない。

また、お酒が進んだ後には、どの企業のプレゼンに1番惹かれたか、などの「ぶっちゃけトーク」をお伺いすることもできた(笑)。

地域の小学校も生徒数を減少させ続けている中で、「里山ボーディングスクール」自体には前向きに取り組みたいと考えていても、いざ実現した時のことを考えると不安になってしまう地域の方は多いはずだ。前述したように、冬場の対策など、より身近で具体的な懸念を知ることができたのは交流会の大きな収穫だった。

▼里山ボーディングスクールを地域側から支える青年会をまとめるのは、市町村合併前に白峰村役場職員として勤められていた 山口隆さん

企業・自治体・住民。立場は違えど、白峰地域を盛り上げていきたいという思いは一緒だ。お互いの問題点や懸念していることを擦り合わせて、実現させていくことが最も重要なこと。デジタル化が進み、拠点が違っていてもビデオチャットでいつでもMTGやディスカッションができる時代ではあるけれど、結局はどんなプロジェクトでも人と人とが信頼し合っていなければ成功させることはできない。

よそ者が地域に関わろうとするときこそ、定期的に足を動かしてきちんと現地へ向かい、真面目な話から最近の愚痴まで、住民の方々と実際に顔を合わせてお喋りする時間が不可欠なのだ。

白山市とKITは、2019年、里山ボーディングスクールの実装に向けて、本格的に動き出す。このプロジェクトがどんな形で実を結んでいくのか、今後の進捗もレポートしていきたい。

(取材・執筆 星 佑貴 / 編集・写真 スガ タカシ)

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プロフェッショナルなスキルを持つ旅人のプラットフォームSAGOJOのライターが、現地取材をもとに現地住民が見落としている、ソトモノだからこそわかる現地の魅力・課題を掘り起こします。