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テックカンパニーをうたうメルカリの最注力領域は「AI」

2019.04.04

Updated by Naohisa Iwamoto on April 4, 2019, 06:25 am JST

フリーマケットアプリなどを提供するメルカリが、報道関係者に向けた「メルカリAI技術説明会」を開催した。メルカリとAIの関係とは、どのようなもので、今後はどんな方向に進むのだろうか。

▼AI技術説明会に登壇したメルカリ 取締役CPOの濱田優貴氏(中央)、エンジニアリングディレクターの木村俊也氏(左)、エンジニアリングマネージャーの山口拓真氏(右)

「メルカリはテックカンパニーとして世界を目指しており、技術の中でもAIに注力している。ITは情報流通のコストを限りなくゼロに近づけるが、AIは意思決定のコストを限りなくゼロに近づけると考えている」と語るのは、メルカリ 取締役CPOの濱田優貴氏。メルカリにはサービス開始から6年で蓄積した数十億という規模の商品データがあるだけでなく、同じ商品であっても複数の画像や商品名、説明文がある「質の良いデータ」が多くあることが、AIやディープラーニングを活用する際に効果的だという。

メルカリがAIを代表とする技術を活用して目指している世界は、「売ることを空気に」だという。「ものを買う」ことは、アマゾンなどのECの飛躍的な広がりでかなり容易になってきたが、まだ「ものを売る」にはハードルが高い。メルカリでは、出品から売ることをAIで簡単に、すなわち空気のようにできるようにする「Selling AI」の実現を目指す。

簡単な売買を実現するために、2017年10月には出品のための写真を撮影すると商品名やカテゴリー、ブランドなどの項目を自動的に入力する「AI出品」の提供を開始。さらに2019年3月には、カメラで撮影した画像と同じ商品や類似した商品を検索できる「写真検索」を追加した。US版メルカリでは出品された商品の情報をAIが分析して重さを推定する「AI商品サイズ推定」も提供している。利用者はAIを意識することなく、売買のための手続きが簡略化されて、より売買が手軽に行えるようになる。また、安心な売買の側面でもAIの活用が進む。規約違反に該当する出品をAIで自動検知する「違反検知システム」を導入している。取扱う商品が増えて、人間の目だけでチェックすることが非現実的なこうした違反検知のような領域でも、メルカリは積極的にAIを活用しているのだ。

そうしたAI活用には、AI人材の確保も必要不可欠だ。メルカリでは現在、データ収集やモデル作成を専門に扱う機械学習エンジニア約20名と、インテグレーションやプラットフォーム開発に関わるシステムエンジニア約10名の人材を抱えている。今後、2019年4月の日本の新卒シーズンに約10名、同年10月のグローバルメンバーの入社時点でインドや中国から約20名の人材を新たにメンバーに加える予定という。合計60名の体制で「AIを作り、AIを使う」ことを追求していく方針だ。

メルカリでエンジニアリングディレクターを務める木村俊也氏は、これからのメルカリのAI活用について「AI出品を極限まで簡単にすることを目指す」と語る。例えば写真検索では、今は写真を取って出品するときには単品に絞る必要があるが、これを複数の商品が写っている写真から選択して絞り込み、検索できるようにする。さらに、コストがかかるAIの開発・運用を、AIが学習モデルを作るような「AIを使ったAI開発」の推進によって高速化、効率化させたい考えだ。木村氏は、簡単にすぐ作れるAIの実現のために、メルカリ独自の機械学習プラットフォーム「Lykeion」も構築しており、将来は外部にも公開予定であることを説明した。

エンジニアリングマネージャーの山口拓真氏からは、メルカリのAI技術の活用について説明があった。「AI出品」については、「大量のデータから学習モデルを作ったディープラーニングモデルでは、商品カテゴリーやブランドの増減、再編成があるたびに再学習が必要になり時間やコストがかかる。そこでディープラーニングモデルそのものの使用はやめて、学習した商品カテゴリーとブランド認識の知識だけを使う『転移学習』を活用している」という。常に最高精度のディープラーニングモデルを使うことが最適書いではなく、運用などへの配慮が必要という判断だ。また「写真検索」では、モバイル向けの軽量なモデルを足用紙、計算コストや探索コストを低くしながら処理時間の短縮を実現。そのうえで「将来的には軽量なディープラーニングモデルをスマートフォン側で実行させるエッジコンピューティングを検討中。画像を送信する通信負荷の軽減や、サーバー側でディープラーニング処理をしなくてすむ処理負荷の軽減につながる」と見込む。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。