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自動運転される都市は可能か? これは、私たち建築家にとっては相当な難題である。もし自動運転される都市空間があるとしたら、それはどのように設計されるのか。一人一人の人間にとってストレスのない都市は、今後、どのような都市として設計されるのか。ストレスのない都市とは、人が自ら考えたり判断したりしなくても日々の生活が成り立つような都市なのか。それは他者と出会わなくても自らの目的を果たすことができる都市なのか。たった一人でも生活できる都市空間が快適な都市なのか。

自動運転機械は様々な人たちの個性を単純化し均一化することで、より効率よく運転させることができるのだとしたら、一人一人に切り分けられ、様々な個性を単純化し均一化することで、都市空間はより自動運転に相応しい空間になっていくに違いない。既に私たちの感性は、誰からも煩わされることのない空間を求めているようにも思う。自動運転される都市空間がもたらすものは、一人一人に切り分けられた人間が、自動運転されている空間の中でそれを快適だと感じる感性なのである。

こうした未来の都市では人と人とはどのように出会うのだろう。他者とのコミュニケーションはどのように成り立つのだろうか。

今の「機械─情報環境―人間」自動運転システムは一人一人に切り分けられた人間を操作するのは得意だろうけれども、複数の人間を扱うのは恐らく極めて苦手に違いないのである。

複数の他者と共に生活してそれを楽しいと思えるような生身の人間の都市空間はどのように設計できるのだろうか。一人一人に切り分けられた人間ではなくて、複数の人びとがお互いに助け合うことができるような空間をもし設計できるとしたら、そうした空間では、自動運転はどのように活躍することができるのだろう。

自動運転は勿論、自動車だけの問題ではない。もともと人と人が出会って挨拶して会話することで成り立っていた社会の仕組みが、人の代わりにその役割を自動運転機械に委ねることで、社会の仕組みそのものが変わってしまうことを私たちはどれほど理解しているのだろうか。

切符をはさみでチョッキンする人は、駅の改札口からとっくにいなくなってしまった。多数の人が通過するターミナル駅は別としても、彼らは毎日利用するお客さんをきっと覚えていて、今日は遅刻だなあ、最近顔色が悪いなあ等とそれとなくお客さんを見守っていたはずである。親しい人が通ればやあと挨拶したと思う。乗降客が少ない駅まで“スイカ”などという自動改札機が占領してからはすっかり変わった。前のおじさんが改札を通れなくてもたもたしていると、後ろの若者がチェッと舌打ちする。すべての人が同じスピードで改札口を通ることが当たり前になってしまったのである。そうなのだ、自動機械はそれを使う人の個性を標準化して、均一化する。誰もがそうした均一化した人間であることを機械の側が要請するのである。そこからちょっとでも外れると、機械の側が不機嫌になって周りの人から舌打ちされるという、駅の改札口はそういう場所になってしまった。

改札口だけではない。日常の買い物にしても同じことが起きている。大型スーパーマーケットやアウトレットモールやショッピングモールは、自動車でアクセスしやすい幹線道路脇につくられる。建物はぺらぺらの安普請である。10年か20年の定期借地で借りているからまあその程度もてばいいや、期限が過ぎてもしお客さんが来なくなったら、さっさと撤退してまたどこか別の土地を捜せばいいや、というその程度の建物である。

その周辺環境や周辺の地域社会とは全く無関係に唐突につくられる。こんな施設ができたら町内の商店街は間違いなくシャッター通りになる。地域社会を破壊する。昔からの商店街の買い物は、単に商品の売買ではなくて、お店の人と買い物をする人、あるいはお客さん同士のコミュニケーションの場所だったのである。ところが、こうした大型店舗で出会う人たちはすべて見知らぬ人たちである。その見知らぬ人同士の買い物は、自動機械が相応しい。実際、郊外のスーパーマーケットは、今、急速にレジの自動化が進んでいる。お客さんはお店の人とほとんど会話することもなく、コンピューターで制御されたレジのタッチパネルと向かい合って買い求めた商品の精算をする。周りは誰一人知らない人である。見知らぬ人たちの中で、一人で買い物をして、一人で車を運転して家に帰ってくる。孤独だなあ。

山本理顕(やまもと・りけん)
建築家。1973年に山本理顕設計工場を設立。雑居ビルの上の住居GAZEBOおよび、公立はこだて未来大学の設計で日本建築学会賞を受賞。

(『モビリティと人の未来』第9章「建築/都市は自動運転をどう受け止めるか」P138−140より抜粋)


モビリティと人の未来

モビリティと人の未来──自動運転は人を幸せにするか

自動運転が私たちの生活に与える影響は、自動車そのものの登場をはるかに超える規模になる。いったい何が起こるのか、各界の専門家が領域を超えて予測する。

著者:「モビリティと人の未来」編集部(編集)
出版社:平凡社
刊行日:2019年2月12日
頁数:237頁
定価:本体価格2800円+税
ISBN-10:4582532268
ISBN-13:978-4582532265

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特集:モビリティと人の未来

自動運転によって変わるのは自動車業界だけではない。物流や公共交通、タクシーなどの運輸業はもちろん、観光業やライフスタイルが変わり、地方創生や都市計画にも影響する。高齢者が自由に移動できるようになり、福祉や医療も変わるだろう。ウェブサイト『自動運転の論点』は、変化する業界で新しいビジネスモデルを模索する、エグゼクティブや行政官のための専門誌として機能してきた。同編集部は2019年2月に『モビリティと人の未来──自動運転は人を幸せにするか』を刊行。そのうちの一部を本特集で紹介する。

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