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ラグビー スクラム イメージ

今の時代にこそ、ラグビーが必要だったのかもしれない

2019.09.29

Updated by Ryo Shimizu on September 29, 2019, 03:26 am UTC

ラグビーワールドカップがものすごく盛り上がっている。

なぜこんなに盛り上がっているのだろうか。

経済界では、飛ぶ鳥を落とす勢いだったZOZOがソフトバンクグループに買収され、そのソフトバンクグループが巨額の資金をつぎ込んだWe Companyがスキャンダルに塗れている。中国ではアリババのジャック・マーが引退し、世界に散らばる巨大な帝国が次々と黄昏の時期を迎えようとしている。

いま、時代は明らかに潮目を変えようとしているのだ。
このような時代だからこそ、身体一つで敵陣にぶつかっていくラグビーというスポーツが人々の共感させ、感動を産み出すのではないだろうか。

利己主義的、自分本位の封建的な資本主義から、信念と情熱を持ってとにかくチームワークで前へ進むその泥臭い姿が、実に健気で儚く見える。

僕自身、ラグビーというスポーツにそれほどの興味を持っていなかった。
父親世代ではラグビーは人気のスポーツだったが、日曜に父が見ているラグビーの中継は、ルールをよく知らない僕にとっては意味がわからないおしくらまんじゅうにみえた。

SDの時代、つまり昔のテレビ放送の時代は、選手の表情がよく見える野球に興味が集中した。
野球は、実は静止しているシーンが多く、視聴者は選手にじっくりと感情移入できるからだ。

そこから解像度があがって、高品質な放送の時代になると、サッカー人気が高まった。
それまで中継ではどこにボールがあるか見えづらかったが、解像度が上がることでサッカーの戦略的な側面に人々が気づき、チームプレイの面白さに熱中できるようになった。

そして4KUHD時代に突入したことで、カメラを含むワークフローが高画質化され、それまでは識別が難しかった細かいボールの動きや選手の表情までが伝わるようになった。

今回のワールドカップで、初めてラグビーというスポーツの魅力に気づいた人も少なくないのではないだろうか。
実は筆者もその一人である。

新宿のメガストアではユニフォームの普通サイズ(S,M,L)が売り切れて、XSと4Lしか在庫がない状態。
ユニフォームだって1万円以上する(Amazonで買おうとすると普通サイズは2万円以上)。

にもかかわらずこれを買いたくなるというのは、自分でも不思議な気持ちだった。

さらにいえば、これまでサッカーのワールドカップでは日本戦にしか興味がなかった。日本戦以外を見る人というのは、ちょっとマニアックな、ほんとうのサッカーオタクに限られるという(勝手な)イメージを持っていた。

知らない国同士が戦うときも、どちらかというと強いチームに感情移入したかった。サッカーにおいて、強いチームの強さは圧倒的で、弱いチームはキックオフ以外でボールにふれることもできないことがしばしばあるからだ。

ところがラグビーはどうかというと、むしろ弱いチーム、たとえば筆者ならば、いまのところ全敗しているトンガを応援したくなってしまう。

屈強な男たちが繰り出すウォークライの迫力もさることながら、不器用でも全身全霊をかけて強豪国のディフェンスにぶつかっていき、はかないパスを回し、タックルで食らいつき、団子状となってなんとかトライしようとする姿が、紛うことなき感動を生むからだ。

どこかそういう泥臭さとチームワークに憧れる感情を、我々現代人は忘れていたのではないだろうか。

いま、時代が大きく動こうとしているこのときに、日本でラグビーのワールドカップが開催されたことは、むしろ運命的な出会いとさえ感じさせられる。

今の日本の子どもたちが、大人たちが夢中になるラグビーの試合を観て、心を動かされ、チームワークの素晴らしさに目覚めてくれたら、日本の未来はほんの少しだけでも明るい希望をもてやしないだろうか。

チームワークというものを、その素晴らしさを、これほどまでの迫力、説得力で体現し、我々に見せてくれるスポーツはラグビーをおいて他にないのではないか。野球もいい、サッカーもいい。でもどうしても野球やサッカーは個人技に目が言ってしまいがちになる。

ところがラグビーだけは、例として出した他の2つのスポーツに比べて、個よりもチームの結束が強調されて見える。

もちろんチームワークはどんな場面でも大事だ。サッカーだって野球だってチームワークの成果だ。でも、純粋な見え方で見た場合、ラグビーは何よりもチームワークが強調され、仲間を信じてボールをパスする姿こそに格好良さがあり、泥臭くトライを目指す姿に感動があると思うのだ。

そして潔さだ。圧勝していても最後の最後まで手を抜かずにぶつかり続ける。
サッカーの場合だったら、時間稼ぎに自陣でパス回しをするところを、常に全力でぶつかっていく。この姿勢にも心を打たれた。

あまりに心を打たれたので、高校ラグビーの実話をもとにしたドラマ、「スクールウォーズ」のDVDボックスを買ってしまった。

スクールウォーズでは、主人公の元全日本代表、滝沢賢治率いる川浜高校ラグビー部は、強豪校である相模一高の前に、109対0でボロ負けする。しかし相模一高の監督は、「なぜ後半手を抜いた!手を抜くとは相手に対して無礼だ!」と生徒たちを叱責する。いっぽう、無得点に終わった川浜高校ラグビー部に滝沢は激怒する。

「俺がどうして怒ってるのかまだわからんのか!試合に負けたからじゃない。どうでもいいやっていう、お前たちの心が許せんからだ」

少し前なら、こういうセリフは時代錯誤な熱血の象徴だった。筆者とてこういうセリフそのものを斜に構えて冷ややかに見ていたかもしれない。しかし今の時代こそ、こういう熱血が必要なのではないか。それを気づかせてくれるのが、ラグビーというスポーツなのではないか。

もちろん勘違いかもしれない、そこまで大きな意味はないのかもしれない。だがそれはどちらでもいい。
大事なのは、チームワークだ。そして潔く生きるということだ。ラグビーの選手たちが、それに改めて気づかせてくれた。

個人の利益のみを追求する、利己的な資本主義はいまや限界に達し、これからはなによりも「潔い生き方」が問われる時代になっていくだろう。論語を座右の銘とした渋沢栄一が一万円札になる時代、人はもっと人と手を取り合い、大きな夢を実現するためのチームワークを必要としている。今回のワールドカップはそうした時代の空気と呼応している気がしてならない。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。

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