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ウイスキー ボトル バー イメージ

初めてのボトルキープはI.W.ハーパーだった ウイスキーと酒場の寓話(10)

2019.12.02

Updated by Toshimasa TANABE on December 2, 2019, 18:22 pm UTC

学生の頃、バイト代が入ったときにバーボンの「I.W.ハーパー」をキープしたのが、人生初のボトルキープだった。当時はまだ、ウイスキー入門段階だったこともあり、飲んだことがあり、かつバイト代の範囲で手頃な価格、ということでI.W.ハーパーにしたのだと思う。ブレンデッドスコッチの「バランタイン 17年」が美味いことくらいは知っていたが、当時はとても高価だった。学生の分際でキープすべき酒でもなかったし、バイト代の範囲でもなかった。

その店は、デブには無理だろう、という狭い階段を地下に降りたところにあるカウンターだけのバーだった。店の奥にはアップライトのピアノが置いてあり、ジャズが流れていた。オーディオシステムは、アンプにマッキントッシュのセパレート、スピーカーがボーズの901(この組み合わせがジャズに最適とは思えないが)。こんな金のかかったシステム要らんだろ、という程度に音量を絞って、静かにジャズを流していた。

バーには、ボトルキープできる店とショットやカクテルを飲んでくれ、という店がある。ボトルキープが可能でも、再訪するかどうか分からなかったりキープの期限が短かったりすると、ボトルキープはしないものだ。その店は、何度か行ったことがあり、また行くであろう店だった。

当時は、今と違って酒を飲むのは月に何回かだったが、飲むときはけっこうな量を飲んでいた。飲み方を知らなかった、ともいえる。ショットだと何杯飲んでしまうか分からないし、学生にとっては割高でもあるので、バイト代があるうちにボトルを入れたのだが、それでも一晩に独りで半分くらい飲んでしまうのだった。その頃から今と同じで、酒は独りで飲むことが圧倒的に多かった。

ボトルを入れてしばらくしてその店にまた行くと、バーテンダーはチラっと顔を見ただけで、前回のボトルを出してきた。ボトルのカードもないし、名前も伝えていなかったはずだった。「プロだなぁ」と感心したのを覚えている。

というわけで、I.W.ハーパーである。ハーパーは、一般にバーボンと呼ばれているウイスキーの一銘柄であるが、米国で作られるウイスキーが全部バーボンというわけではない。バーボンのレギュレーションは、ケンタッキー州で作られることに加えて、原料にはトウモロコシが半分以上、樽は内側を焦がしたまだ使っていないバージンオークの樽、熟成は2年以上など、米国の法律で細かく決まっている。ボトルのラベルの原材料のところを見ると、まずグレーンと書いてあるように、麦芽で作ったモルトよりもトウモロコシで作ったグレーンの方が多くブレンドされているのが、バーボンウイスキーなのだ。

I_W_HARPER

バーボン樽が、その後はスコットランドに輸出されてシングルモルトの樽になる話は「ウイスキー・ビジネスの真髄は『森』である ウイスキーと酒場の寓話(1)」に書いた。また、バーボンではない新しいアメリカン・シングルモルトについては「2010年創業の蒸留所からシングルモルトの新提案 ウイスキーと酒場の寓話(7)」で紹介した。

I.W.ハーパーは、ケンタッキー州で作られているので、正真正銘のバーボンである。ラベルにも「Kentuky Straight Bourbon Whiskey」と書かれている。バーボンは、Bourbonと綴るが、これはケンタッキー州のこのあたりにフランスのブルボン王朝にゆかりのある人たちが入植していたことに由来するようだ。綴りといえば、一般にスコッチはWhiskyだが、バーボンはWhiskeyである。

ということで、厳密にはジャック・ダニエルはテネシーウイスキーであってバーボンではないし、原料にライ麦を半分以上使っているライウイスキー(ジム・ビーム、ジャックダニエル、ワイルド・ターキーなど、ライウイスキーも出しているブランドがいろいろあるが)も、バーボンとは呼ばないのである。また、原材料のトウモロコシが8割以上になるとコーンウイスキーと呼ぶという。

学生の頃にハーパーを初めて飲んだ時の印象は、「なんだこれ? 変に甘いな。ジンの方が好きかも」というものだった。しかしその後、飲み慣れてしまいバーボンに特有の甘みが何ともいえず好ましく、たまに無性に飲みたくなるようになった。就職後、東京の渋谷でずいぶんお世話になったジャズ・バーでも、ハーパーをキープすることが多かった。

バーボンは、ストレートでもロックでも美味しく飲めるが、その多くがソーダで割っても甘みの腰が弱くならず、ソーダ割りに好適なウイスキーでもある。これは、テネシーウイスキーのジャックダニエルにもいえることだ。「ジャックソーダ」などという愛称で呼ばれているくらいだ。

一つ残念なのは、最近の量販ウイスキーは、アルコール度数が40度というのが主流になってしまったことである。これはウイスキーに限ったことではなく、ジンなどの他の蒸留酒もそうなのであるが、度数だけでなく、それに伴って味も多少変わってしまっているのである。ハーパーも、上級品の12年は今も43度だが、スタンダード版のゴールドメダルはかつて43度だったのが今は40度である。

味覚は、視覚などよりもはるかに強烈に記憶を呼び覚ますことがある(音や匂いもそうであるが)。20年も経つとこっちの舌も変わっている(荒れたり、奢ったり)ので、一概に「昔の味と違う」あるいは「昔の方が美味かった」とばかりはいえないのだが、スタンダードクラスのハーパーの43度はもう飲めないのである。記憶の中にしか残っていない失われた味なのだ。そして、初めてボトルキープした店や渋谷の店などの店内とセットになって、記憶されているのである。

酒は、全体にスッキリした方向にシフトしてきていると感じる。特にビールにはそれを強く感じる。普段飲みのベーシックな銘柄に苦味を感じさせるものがとても少なくなってしまった。43度のウイスキーにせよ、苦味がしっかりしたビールにせよ、酒を飲み始めた頃に覚えた味が味わえなくなってしまったのは、ちょっと残念なのである。

学生の頃にハーパーを初めてキープしたウエス・モンゴメリーのライブアルバムと同じ名前の店は、まだ健在のようだ。開店してから40年近いだろう。素晴らしいことだ。両親が健在だった頃は、実家に帰ったときになるべく寄るようにしていた。訊きはしないが、なんとなくこっちのことを覚えてくれているような気がした。しかし両親が他界してからは、故郷には滅多に行かなくなってしまった。今度、独りで行ったときには、ぜひ寄ってみようと思う。次はいつになるか分からないので、ボトルキープはせずにショットで、これはという酒を3杯くらい飲ませてもらおう。


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書名
インドカレーは自分でつくれ: インド人シェフ直伝のシンプルスパイス使い
出版社
平凡社
著者名
田邊俊雅、メヘラ・ハリオム
新書
232ページ
価格
820円(+税)
ISBN
4582859283
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田邊 俊雅(たなべ・としまさ)

北海道札幌市出身。システムエンジニア、IT分野の専門雑誌編集、Webメディア編集・運営、読者コミュニティの運営などを経験後、2006年にWebを主な事業ドメインとする「有限会社ハイブリッドメディア・ラボ」を設立。2014年、新規事業として富士山麓で「cafe TRAIL」を開店。2019年の閉店後も、師と仰ぐインド人シェフのアドバイスを受けながら、日本の食材を生かしたインドカレーを研究している。