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あきた寺子屋 里山カフェ「ににぎ」 猿田真氏

「こんな素晴らしい**があるのだから、何かやらない手はない」と気がつこう─秋田から日本を元気にする要諦 その1~あきた寺子屋から

2017.12.28

Updated by Takeo Inoue on December 28, 2017, 15:25 pm JST

先ごろ、秋田産業サポータークラブの主催により「あきた寺子屋」が開催された(会場:スマートニュース本社、協賛:秋田銀行、後援:秋田県、一般社団法人創生する未来など)。今年で6回目を迎えるこのイベントのメインテーマは「いぐね? これからは秋田でおもしぇぐ働く、暮らす」。“秋田には、仕事がなく、給料も安く、ヒトもいない”といったネガティブなパブリックイメージがあるのは否めない。しかし一方では、秋田を熱く変えよういうムーブメントも起きている。「あきた寺子屋」では、そんなムーブメントの中心にいる若手起業家によるユニークな取組みが紹介された。ここでは、その3つの報告から得られる、地方創生成功への要諦を紹介する。

あきた寺子屋に登場した一人目の起業家は、地元の男鹿市に戻り、地域密着型の里山カフェ「ににぎ」をスタートさせた猿田真氏だ。

▼里山のカフェににぎを経営する猿田真氏
あきた寺子屋 里山カフェ「ににぎ」 猿田真氏

同氏は、東京の専門学校を卒業し、都心で働いていたが、15年前にUターンを決意。一人っ子で、母親が地元でひとりで暮らしていたことが帰郷の後押しになった、というところまでは、よくある話。

男鹿に戻り、地元の介護会社の事務員や不動産関連に従事。そのなかで気づいたことは、やはり地域の人口減少と高齢化、空き家問題の深刻さだ。すでに男鹿市は現在3万人を切ってしまっていた。「このままでは誰も人がいなくなってしまう」と危機感をおぼえた同氏だった。

彼が子供のころは、バブル全盛の時代で、地方自治体も潤い、公共施設も整備され、地元の男鹿温泉郷には連日のように団体の観光客が押し寄せていた。しかし、バブルがはじけてからは衰退の一途をたどり、さびれた温泉地になってしまった。

「とはいえ、男鹿半島は三方が海に囲まれ、おいしいハタハタが獲れる場所だ。神の使いである有名な“なまはげ”の発祥の地でもある。地域の暮らしのなかに信仰が溶け込んでいる。子供のころ何気なく歩いた道に、ファンタジーのように、たくさんの神様が祭られている。いろいろな伝統や素材がまだ残されている」(猿田氏)。

そんな地元の魅力に気づき始めたころ、あの忌まわしい東日本大震災が東北地方を襲った。そのころ子供が生まれ、同氏は「何か地元のために新しいことを始めなければ」と奮い立ったという。ところで、猿田氏の実家は、長い歴史のある立派な古民家だった。

▼里山カフェ、ににぎ。秋田県男鹿市北浦真山塞ノ神下14。アクセスは、秋田市街、能代市街、五城目町中心街各所から約1時間、昭和男鹿半島I.Cから約40分。JR男鹿線男鹿駅から約20分ほど。
あきた寺子屋 里山カフェ「ににぎ」 猿田真氏

「こんな素晴らしい家があるのだから、何かやらない手はない。飲食店の経験はなかったが、たまたま知り合いにコーヒー豆を扱う方がおり、古民家を活かしたカフェをスタートすることにした」と説明する。

▼カフェだけでなく、農家民泊も始めた。人数を問わず 客室2部屋の利用可能。定員5名1組まで(要予約)。
あきた寺子屋 里山カフェ「ににぎ」 猿田真氏

そして、地元でカフェをやるからには、地域の伝統食を守りたいという気持ちも強くなっていったそうだ。

「この地域では、ハタハタなどを熟成させた魚醤の“しょっつる”など、伝統食をつくる人も少なくなくなってきた。生産者と地域とのつながりも必要だ。そこでカフェでは、地元の食材を使い、しょっつるや地元のかぼちゃなどを入れたカレーをメニューとして提供している」(猿田氏)。

猿田氏だけでなく地元では危機感を持って、男鹿半島の活性化を思案中だ。猿田氏は「伝統を活かしつつ地域を元気にしたい。カゴ網みや桶づくりなど、伝統工芸を受け継ぐ人も少なくなり、記憶が薄れてきているが、秋田にはそういった知識を活かした新しいことができる伸びシロもある。ぜひ秋田を応援してほしい。難しいことを考えず、純粋に遊びに来てください」と語った。

▼男鹿梨とカボチャの鶏挽肉カレー(9月〜10月頃)。地元産の梨とカボチャを使用し、カレーのルーは、大潟村産小麦粉とニンニクや生姜、自家製の味噌や、しょっつる熟成塩レモンを使用。
あきた寺子屋 里山カフェ「ににぎ」 猿田真氏

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井上 猛雄 (いのうえ・たけお)

東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにIT、ネットワーク、エンタープライズ、ロボット分野を中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)などがある。