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日本が誇る品質はイスラエルの技術に支えられている?(後編)

OptimalPlus社 自動車事業部門バイスプレジデント Uzi Baruch氏に聞く

2020.08.20

Updated by Hitoshi Arai on August 20, 2020, 13:21 pm JST

前回の記事でBaruch氏は、OptimalPlus(以下、O+と記載)の創業の経緯と、半導体業界でなぜO+の技術が重要であるか、を解説してくれた。また、半導体業界と自動車産業の関連を示し、O+のターゲットを自動車メーカーへと拡張してきた経緯を話してくれた。さらに話題は、今後のナショナル・インスツルメンツ(NI)グループの一員としての方向性や、日本企業に関する見方についてなどに展開した。

Q:O+のホームページでは、半導体/自動車/エレクトロニクスという3分野がターゲットである、と書かれていますが、今までのお話しからすると、化学や精密機械など、どのような業界でもターゲットとなるような気がします。次はどのような業界を考えていますか?

Baruch氏:NIに買収される前は、O+は世界全体でも230名の会社でした。したがって、幅を拡げずに特定分野にフォーカスしたビジネスをしてきたのです。しかし、NIはエレクトロニクス、航空宇宙、防衛、政府などの分野でとてもアクティブに活躍しています。NIグループとなった今、当然、新しい分野へ進むことを視野に入れています。一方で、テリトリーも重要であると考えています。NIは、中国市場は対象としていません。イスラエルの小さな企業にとって中国は大きすぎます。南アメリカ、ヨーロッパ、そして日本がターゲットと考えています。

Q:振り返ると、30年から40年ほど前は日本の半導体産業にも大変勢いがありました。日本のDRAMは世界でビジネスをしていました。今は(特定分野は残っていますが)、韓国企業や台湾企業とのゲームに負けたといっても良いかと思います。半導体企業を支援するO+から見て、日本の半導体業界は復活できると考えられますか?

Baruch氏:日本が負けたとは思っていません。まだ我々の顧客である半導体企業はあります。日本製品の品質は高く、私の家はソニー製品だらけです。我々は顧客に対して、単純な勝ち負けではなくROI(投資対効果)で貢献しています。顧客がO+に投資をしたなら、必ずその分のリターンを顧客が得る、つまり彼らの役に立つということが我々の基本です。そして、ビジネスモデルとしてはサブスクリプション型なので、今回のCOVID-19のような状況の中でも我々の日本でのビジネスは成長しています。

ただ、外部のオブザーバーによれば、日本企業に入り込むのには時間がかかり、新しい技術を使ってもらうためには多くのステップが必要であると指摘されています。アメリカ企業の場合は、もっと迅速に採用されています。従って我々は、日本市場にはさらなる可能性があると考えています。

Uzi Baruch氏

Q:日本企業がいろいろな意味で「遅い」のはどのような理由があると考えますか?

Baruch氏:いくつかの要因が絡んでいるのではないでしょうか。例えば、日本における品質への認識・要求はとても高いので、O+が「品質改善を支援します」といっても、彼らの要求に簡単には適合できないこともあるでしょう。また、O+のような海外の中小企業が日本の大企業と話をすること自体、簡単ではありません。既に品質に対する取り組みの歴史があるので、複雑なプロセス全体から問題点を見つけることができる、というO+のコンセプト自体を理解してもらうことも簡単ではありません。

Q:多種多様な機器から取得する様々なデータを単一フォーマットのデータに変換するそうですが、その変換に制約はないのですか? どんなデータの大きさでも単位でも変換できるのでしょうか?

Baruch氏:変換もしますが、その前にいろいろなソースからのNormalize(正規化)をします。Normalizeすることで、データを解析できるようになります。これが我々の独自性で、優れた統計手法や機械学習を適用した解析が可能になるのです。また、我々が対象とするのは主に組み立て工程(Discrete Manufacturing)、アセンブルやテストなどの後工程です。これらの工程に関するデータは関連付けて、正規化することができます。

さらに、画像データも組み合わせます。検査機器の場合、1枚の画像から良否の判断をしますが、我々はディープラーニング技術を用いて、10万枚の画像と他のパラメータ情報とを組み合わせて判断することができます。

Q:このようなアプリケーションの開発には、大量のデータが必要だったかと思います。実際のデータを持つメーカーの製造ラインには守秘情報等がたくさんあると思うのですが、データを利用する協力は得られたのでしょうか?

Baruch氏:O+はデータの所有者にはなりません。我々は技術だけを提供し、顧客がデータをフルコントロールするので、守秘は保たれます。顧客によっては、我々にクラウドのオペレーションまで依頼することもあり、その場合には、例えばAWSの上に我々がシステムを構築し、顧客がそこにデータを移動させます。O+と顧客は信頼関係でつながっており、そうでなければ我々はビジネスができません。

Q:O+は品質だけではなく、コストの効率化にも寄与するという説明でした。多くの製造業は、低コストの労働力を求めて、中国や東南アジアに工場を移してきた歴史があります。O+を利用すれば、コストの高い先進国でも工場の競争力を保てますか?

Baruch氏:低コストを追求する製造業のリスクは品質です。低コストのために製造のアウトソースをした場合、品質に妥協をせざるを得ない場合もあります。O+の最大の顧客の一社はクアルコムで、彼らはアジアの企業にアウトソースしています。我々はクアルコムが品質に妥協しなくて良いように支援をしています。先進国でインハウスで製造する場合、もちろん低コスト化を支援します。ただ、コストだけでJustify(正当化)することはできないでしょう。他にも多くの要素がありますので。

Q:O+の競合企業はありますか? あるとすればどこか教えていただくことはできますか?

Baruch氏:我々の最大の競合は、特定の企業ではなく顧客企業が開発してきた「Home Grown Solution」です。自動車メーカーや自動車部品を製造している企業は、長年かけて独自のHome Grown Solutionを作ってきました。特定の課題にフォーカスしたニッチなソリューションであることが多いのですが、日本企業だけではなく、多くの開発力のある企業はエンジニアを雇って、独自のソリューションを開発してきたのです。これらのソリューションが我々を阻害する競合です。我々はそれを置き換えてくれ、とはいいません。我々のソリューションはオープンであり、事例を積み上げているので、相互に補完可能なものであると顧客を説得するのです。


約1時間に渡り、素人の質問に大変丁寧に答えて頂いた。特に、アントレプレナーは常に「疑問」を持っている、という言葉は心に響くものがあった。イスラエル人得意の「Think Out of the Box」も、あらゆることに疑問を持つことから始まるのだろう。

以前、イスラエルのディジタルヘルスを紹介する記事でも書いたが、イスラエルでは多くのイノベーションはデータから始まっている。保険省の幹部は、すべての医療データをディジタル化することに20年前から取り組んできた。そのデータを元にしてソフトウエアの力を使って工夫するのが彼らのやり方であり、強さであることを再認識した。

また、さりげないコメントだったが、「中国市場は対象外」と明言したことも重要だろう。昨今の米中の覇権争いの中で、半導体は特に重要な産業分野である。ここ数年、中国によるイスラエルへの投資も増えているなかで、戦略分野の技術は出さないという明確な姿勢が求められているはずだ。

最後の「Home Grown Solution」こそが最大の競合である、というのは、まさに日本企業にも当てはまる言葉ではないだろうか。日本では今、DXがブームだが、O+の創業者はテスト工程の問題点に気づき、15年前から製造工程のデータを集めて解析することの重要性に目をつけた。近年は、AI・機械学習の力を利用して多くの革新的なソリューションを生み出している。なまじ労働者のレベルが高いために、個別の課題を個々に工夫してきたのが日本だとすれば、大量のデータを解析して統計的に課題解決につなげる、というディジタル化の方向と、そもそも逆の積み上げをしてきたのかもしれない。

我々は、過去の成功(= Home Grown Solution)が変化への最大の阻害要因である、ということを再度自覚する必要があるだろう。さもないと、「優れた品質の日本製品」という強みを失うことになりかねない。

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新井 均(あらい・ひとし)

NTT武蔵野電気通信研究所にて液晶デバイス関連の研究開発業務に従事後、外資系メーカー、新規参入通信事業者のマネジメントを歴任し、2007年ネクシム・コミュニケーションズ株式会社代表取締役に就任。2014年にネクシムの株式譲渡後、海外(主にイスラエル)企業の日本市場進出を支援するコンサル業務を開始。MITスローンスクール卒業。日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員。E-mail: hitoshi.arai@alum.mit.edu