親子で楽しめる新たな夏休みの過ごし方になるか? 「あきた・いなか学校 withワーケーション」が秋田県仙北市のわらび座で初開校
2020.10.02
Updated by Takeo Inoue on October 2, 2020, 17:03 pm JST
2020.10.02
Updated by Takeo Inoue on October 2, 2020, 17:03 pm JST
8月8日から10日の3日間、秋田県仙北市のあきた芸術村に本拠地を置く劇団・わらび座で「あきた・いなか学校 withワーケーション」が開校された。このイベントは、子供のサマースクールに親のワーケーション(労働と休暇を兼ねた新たな働き方)を組み合わせたものとしては、全国初の試みかもしれない。このユニークな取り組みについて詳しくレポートする。
本イベントは、熊本県水俣市で「いなか学校」を主催している「みなまたハートリレー」(一般社団法人ハートリレープロジェクト 水俣事務局)を中心に、秋田県仙北市のあきた芸術村、ITコンサルタント会社である「東北ITbook」、地方創生に取り組む一般社団法人「創生する未来」という4団体での共同開催プロジェクトである。
いなか学校は、2010年より熊本水俣市などで展開されている活動で、夏休みに子供たちを「ふるさと」の豊かな自然環境で思いっきり遊ばせたいという想いからスタートした。全国を対象に短期サマースクールを計画していたが、今年は新型コロナウイルスの影響で、参加対象を秋田県在住の子供と家族に絞って開催することになった。最終的に計13組の親子が、あきた芸術村のわらび座に参集した。
普通のサマースクールは、あくまで子供が中心で、同行する保護者は子供たちの見守りだけになってしまう。しかし、本イベントは「with ワーケーション」というプラスアルファの付加価値がある点が新しい試みだ。そもそもワーケーションとは、働く(ワーク)と休暇(バケーション)を組み合せた造語で、仕事をしながら休暇も楽しめる新しいワークスタイルの一つ。最近になって政府も注目しているキーワードだ。
今回のコロナ禍では、政府の緊急事態宣言によって、企業のリモートワークがかなり進んだという側面がある。自宅で仕事をする機会が多くなったが、常に同じ環境で働くよりも、少し環境を変えてみると気分が変わって、仕事が捗ることを実感しているワーカーも多いのではないだろうか。
そこで、いっそのこと静かで落ち着ける地方の田舎に行って、観光気分を味わいつつ仕事をすれば、従来よりも快適に仕事ができるだろう、というのがこのプロジェクトの狙いである。本イベントの開催地、あきた芸術村のある仙北市は、「東北の小京都」と呼ばれる角館や、日本一水深の深い田沢湖、白濁の乳頭温泉など観光資源にも恵まれている。仕事をしつつ近くの観光地を巡ってみることもできるのが良いところだ。
冒頭で触れたように、今回のイベントは子供の学びの場を組み込んだワーケーション、あるいはワーケーションを組み込んだ子供の学びの場ということができる。まずは、親の立場からどう見えたかをレポートする。
あきた芸術村には、ワーケーションのためのコワーキングスペース「センボクコンプレックス」が併設されている。イベントに参加した親たちは本施設を無料で利用できる。スペース内には、大型フラットディスプレイや無線LANなど、仕事のための基本設備が用意されており、リモートで会社と会議をしたり、取引先と商談することも可能だ。
▲大型フラットディスプレイや無線LANなどの環境も整っている。リモート会議やリモート商談も可能
やはり、ワーケーションの醍醐味は、自然に囲まれた環境で美味しい空気を味わいながら、仕事に取り組めることだろう。クルマの騒音もなく周囲はとても静かなので、集中して仕事ができる。また、リモート会議などをしていないときは、別の場所で学んでいる子供たちの様子をリアルタイムで見守ることもできる。親としても安心だろう。
仕事がひと段落したら、あきた芸術村内にある温泉施設で汗を流して気分転換することもできる。夜は食事処で名物のきりたんぽ鍋などの美味しい料理に舌鼓を打ちながら、旅行気分を味わうのも良い。
本イベントに参加した県内のIT系会社役員は「仕事柄、ワーケーションという言葉は知っていました。お客様にテレワークやオンラインでの仕事のしかたをご提案する機会が多いのですが、そういう意味でも今回のワーケーション&いなか学校は、自分にとって大変良い経験になりました」と評価する。
同氏は、日中はコワーキングスペースで本社とテレビ会議で打合せを行いながら、仕掛り中の開発案件の進捗状況などを確認。その後、プレゼン資料のチェックなどの仕事を十分にになし、夕方になったら併設ホテルで家族と合流。しっかりと旅気分も堪能したという。
「実際にワーケーションを体験して、何らかの形で仕事での提案に生かせそうだと実感しました。まずは他の社員にも経験してもらい、地元ならではの働き方改革を進めていきたいと考えています。自分の仕事はもちろん、子供たちもスクーリングを通じて新たな体験ができて、大変喜んでいました。単なる働き方改革や効率化だけではなく、非日常の中で家族と楽しい時間しながら、親子関係を深められた点も新たな発見となりました」と満足気だった。
ここからは、演劇を通じた学びや地方の特産品を利用した体験学習などのイベントが盛りだくさんに用意された「いなか学校」について紹介しよう。
初日の体験学習のテーマは、「仲良くなる」。メインイベントは、わらび座ならではの「シアターエデュケーション」だ。役者さんと演劇を通じて共に学ぶワークショップなのだが、詳細については別項(気づきを得られる「ワーケーション」のモデルとは - あきた芸術村わらび座「シアターエデュケーション」による社員研修)を参照していただきたい。今回は、子供版に改良したシアターエデュケーションが行われた。
講師の役者さんの「言葉」を体で表現することは、子供たちには新鮮だったようだ。「腐ったトマト」「台風の田んぼ」など、言葉では簡単に表せても、身体を使って表現するには難しい言葉をどう表現するかにチャレンジする。こういった身体表現は、子供の発想力の豊かさと密接に関係しており、あらためて大人が気付かされる点も多かった。
シアターエデュケーションの総仕上げは、ストーリー(物語)を紡ぐ作業だ。こちらも子供たち向けの仕様になるように工夫されていた。最初の子供が何かをつぶやく。それに合わせて次の子供が、あたかも連想ゲームのように話をつないでいくのだ。そして、完成したストーリーをチームで演じて形にする。ストーリーの中からシーンを切り取ったスナップショットをつくり、それを参加者全員に選んでもらうという主旨だ。
シアターエデュケーションの後は、1日を振り返った絵日記を描く時間が用意された。その後、生憎の小雨が降る中、わらび座の役者さんたちによる野外ステージも行われた。
2日目の体験学習は、「ふるさとを感じる」がテーマだ。熊本と秋田をリモートで結び、地産の果物を使った料理を教わる特別プログラムが実施された。まず、熊本の水俣についてのイントロダクションに続いて、プログラムに使用される特産品のみかん「甘夏」が紹介された。
水俣というと「水俣病」の話は避けて通れない。化学工場が流した有機水銀化合物を体内に蓄えてしまった魚介類を食べた住人が水銀中毒になった公害病だ。仕事を失った漁師たちが、農家に転身したことで水俣では甘夏の栽培が始まったのである。
リモートで講師を務める甘夏生産者グループのメンバーが、こうした水俣の歴史を解説、続いてメインイベントの甘夏ゼリーづくりが始まった。このゼリーは、3時のオヤツとして提供されたが、やはり自分の手で作ったものは格別だったようだ。
▲ゼリーづくり開始! 甘夏のジュースに砂糖、粉ゼラチンをまぜて冷蔵庫に入れるだけだが、美味しく作るにはノウハウが必要
午後には、SEMBOKUマップリーディング(宝探し)を開催。地図を読んでルートを確認しながら、文字が隠されたチェックポイントを辿るオリエンテーリングだ。自然の中で、どのように動くかという思考力やチ―ムワークが養われるプログラムである。
最終日のテーマは、「国家戦略特区、仙北市」。仙北市は森が豊かで、気兼ねなくドローンを飛ばせる場所も多い。そこで、3日目の午前中に、あきた芸術村の稽古場でドローン体験会が開催された。免許無しでもOKな200g以下の小型ドローンが用意され、子供たちも指示に従って皆がドローンを飛ばして楽しんだ。
今回のあきた・いなか学校 withワーケーションは、コロナ禍の下で細心の注意を払いながら実施された。今後の状況次第だが、秋田県だけではなく全国から親子を募集して「いなか学校」の素晴らしさを体感してもらいたいと考えているという。
ある運営スタッフは、「今回のイベントは、大人が子供たちを心配せずに仕事に打ち込めて、親と子供の双方にとって有意義な時間を過ごせたと思います。わらび座ならではのワーケーションの新しいスタイルを秋田から発信していければと考えています」と語った。
コロナ禍を乗り越えて、秋田発となる新しいワーケーションのカタチがどのように広がっていくのか、今後の期待を込めながら見守っていきたい。
(取材・文:井上猛雄 編集:杉田研人 監修:伊嶋謙二 企画・制作:SAGOJO)
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登録はこちら東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにIT、ネットワーク、エンタープライズ、ロボット分野を中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)などがある。