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日本のDXの最大の問題は超上流工程の人選

The biggest issue of Japanese DX is people selection

2020.11.26

Updated by Mayumi Tanimoto on November 26, 2020, 07:00 am JST

前回は、日本でDXが進まない根本的な要因は、効率化や付加価値を生み出すという動機が薄いからだと指摘しました。

この連載でどうしても指摘したいもう一つの理由が、DXを推進する人々の人選です。

特に、超上流工程を担当する人々の選び方が間違っています。つまり、グランドデザインや戦略を作る人々です。そもそもの最も上位にあるべき構想がずれているのでは、全体がうまく行かないのは当たり前です。

業務の一部のプロセスをシステム導入によりデジタルで処理できるようにしました、作業工程の一部にタブレットを導入しました、という話では全体の最適化にはなりませんし「ビジネス全体を見て価値をどうやって産み出していくか」という議論にすらなりません。

デジタルな生態系の中で自社のビジネスをどう位置付けて、顧客や協力会社、サプライヤー、競合他社などが存在する中で、どうやって付加価値を産み出していくか、ということを考えるべきなのです。しかし、その様な視点を持つには、単に業務の一部をシステムに置き換える、ベンダーに丸投げするという思考パターンから抜け出せない人ではダメです。

そこには鳥瞰図的な視点が重要になってくるわけですが、そのためにはやはり、様々な業界を渡り歩き、できれば海外などでの仕事の経験がある様な人が的確でしょう。

例えば最近、イギリス政府は軍に対して冷戦以来最大の投資を行うことを決定しました(PM to announce largest military investment in 30 years)。この軍事力増強の目玉の一つがデジタル化なのです。単なる「システム化」ではなく、AIやサイバー防衛を「業務のコアの一つ」として捉え、軍事自体をデジタル化するという壮大な試みです。

その陣頭指揮を執るのが、防衛省のCIOであるCharles Forte氏ですが、経歴が大変ユニークです。

グラスゴー大学でコンピューターサイエンスを専攻し、資源大手のBPで22年に渡って採掘現場やアラスカなど世界各国のIT畑で活躍し、グローバルCIOに就任、その後、大手保険のプルーデンシャルや水道大手のテムズウオーターのCIOとしても活躍しています。

日本の行政のITや防衛省ではまず見かけないような、さまざまな業務経験、多国籍での経験を持った人を任命しているのです。

資源大手はITがビジネスを左右しますし、保険もユーティリティも同様で、デジタル化が最も進んでいる業界でもあります。数値で結果が出る世界で実績を出してきた人が任命されているという点で、防衛省が業務全体のデジタル化をかなり急速に進めたいのだという意図がわかります。

さらに日本と異なるのは、防衛省はユーザーサイドなので、ベンダーではなくユーザーサイドでの経験がある元CIOをヘッドハントしている点です。ベンダー側からの出向でないところも重要な点です。

日本の行政も企業も、DXを真剣に進めたいのであれば、この様な思い切った人選が必要でしょう。

 

 

 

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。