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ビジネスの作り方、その基本

2021.05.29

Updated by Ryo Shimizu on May 29, 2021, 03:36 am JST

この連載のタイトルは「プログラマー経営学」だったことを最近思い出した。

経営とは何か。
それはビジネスを作り出し、育てていくことである。

ビジネスを作り出し育てる人は、その人がどんな立場であれ、経営をしていることになる。
一般に企業では、部長がその役割を担う。だから部長は経営幹部と呼ばれ、経営会議に参加する。

しかし多くの企業では、ビジネスとはすでに走っているものであり、ゼロから作られることは少ない。
従って、ビジネスを作り出す方法を実際に知っている人、ビジネスを作り出した経験がある人は相対的に少なくなる。

しかし、起業するとなれば当然、ビジネスをゼロから作り出さなければならないし、それは企業の中で新規事業を作る人も同じようにビジネスをゼロから作り出さなければならない。ビジネスをゼロから作り出すというのは、多くのビジネスマンが出世を重ねていけば、必ずいつか体験する難関の一つであるのかもしれない。

結論から言えば、ビジネスをゼロから作り出すために必要なものは「思いやり」である。

僕が非常に幸運だったことは、たまたま二十歳の時に選んだゲーム業界という仕事が、ビジネスを常に作り出し、育てることの短期間の繰り返しだったことだ。それによって僕はビジネスの作り方を繰り返し学んでいく事ができた。

もともと、10代の頃の僕は人工知能を仕事にしたかった。
ところが、その時代には人工知能というのは非常に失望されていて、なかなか芽が出ず、それを仕事にするには、大学で人工知能の研究者を目指すくらいしか方法がなかった。

そのころの僕は、三次元空間やその空間における構造の表現、つまりコンピュータグラフィックス、そのリアルタイム処理、プログラミング言語、OSといったものを全て人工知能に結びつけて考えようとしていた。

この全ての要素が入った「ライスワーク(飯を食うための仕事)」として、僕はゲーム業界を選んだ。
コンシューマゲームのプログラミングには、この全ての要素が入っていたからだ。

ごく初期のゲーム業界では、ゲームを実際に作り出すのはプログラマーだけが可能な仕事だった。
グラフィックや音楽など、全ての要素はプログラマーが編み上げ、製品としてまとめる。

プログラマーと別にディレクターを立てるのは贅沢とされているような時代だった。そのほうが開発費を抑える事ができる。

だからプログラマーさえいればゲームは開発できた。

この状況は、非常に僕にとって幸運だった。
僕はゲーム業界で働きながら、高校時代から出版社でもライターの仕事をした。
今思えば、この経験も非常に役立った。

出版社での仕事というのは、基本的に企画の持ち込みから始まる。

「こんな記事を書きたいんだけど、どうですか」と持ち込むと、デスクが「うーん、そのネタだと見開き2ページかな」と見積もる。もちろんボツも食らう。

最初の最初は、「来週までに100個くらい企画考えてきてよ」と言われる。そう言われたら張り切って、翌朝までには100くらいの企画を出した。これは「たくさんの企画を考える事ができる人である」と売り込むための最初のデモンストレーションで、ここをクリアできないと仕事に繋がらないことも多い。

とにかく、企画をまずたくさん考えて、そこから取捨選択して絞り込むことが一人でできるようになると、最初から企画の話を聞いてもらえるようになる。

企画も、相手のどこに響くのか、単に「面白そう」なだけでなく、実現できるものでなくてはならないし、そのためにどんな手間がかかるのか見積もらなくてはならない。

こうやって、「アイデアをお金にする訓練」を積んだことで、僕はビジネスを作る最初の入り口に立った。
新連載の企画を通して育ていけば、それは定期収入になるし、連載がまとまって本になれば、印税が入る。

そうこうしながら僕はゲームの仕事も、徐々にプログラマーからディレクターに変わっていった。
やってみて分かったのは、自分がプログラマーだと面倒だから避けがちになる企画も、ディレクターになると容赦無く作れるようになった。

ディレクターになると、今度は企画を立てることがメインになっていった。
次に幸運だったのは、僕がゲームのパブリッシャーではなく、デベロッパーで働いていたことだ。

ゲーム業界では、大きくわけて大資本でゲームを開発して販売する版元たる「パブリッシャー」と、基本的に小資本で企画開発のみを請け負う「デベロッパー」の二つが存在する。

パブリッシャーがデベロッパーを兼ねていることも多いが、かつてのエニックスはパブリッシャーに徹して、ゲーム開発はデベロッパーとして独立した会社に任せる方法が主流だった。

デベロッパーは、パブリッシャーに企画を提案して開発費とロイヤリティを貰う。
この構造はライターが編集者に企画を提案して原稿料と印税を貰うのと同じだ。

もちろん金額は全然違う。原稿料は1ページ数万円程度、ゲームの開発費は安くても2000万から数億円程度、かけようと思えばいくらでもかけられる。

小さい会社だったのもあって、開発スパンが短く、たくさん企画を書くチャンスがあった。
小さい会社の小規模な企画を何本も回したから、結果的にイテレーションをいくつも経験して腕を磨く事ができた。

独立したデベロッパーの良いところは、プラットフォームやブランドの制約を受けないことだ。
たとえば任天堂にもソニーにもセガにも営業に行けるし、どこかのキャラクターを使った方がいい企画ならば、そういう会社に直接営業に行ってもいい。

面白い企画なら、相手にとってもいい話なので面白いように仕事になっていった。

大事なのは面白いことであって、その当時のゲーム業界が恵まれていたのは、「企画が面白ければ、売れる」と信じられていたことだ。

今は残念ながら「企画が面白ければ、売れる」かどうか断言するのが難しいという時代に入っており、ゲームの遊ばれ方も大きく変化してしまっている。

やがてゲームだけではなく、色々なアプリやWebサービスを企画開発するようになって、さらに幅が広がった。
気がつくとやってくる仕事をこなすだけで手一杯になり、それが一通り終わると、また誰かに話をしにいって仕事を作る、ということの繰り返しになった。

ビジネスの作り方というのは基本的に「何が面白いか考えて、誰かに話をする」ことに尽きる。
誰でも、なんらかの悩みを持っており、相手もビジネスマンである限り、手元の資金を効果的に運用して新しい価値を生み出そうと常に考えている。

そういう人に「こういう感じのことをしたら、面白いんじゃないか」と提案して、相手も乗ってくればディール(交渉成立)する。

チャンスはいつだってどんな形だって転がっている。

たとえばとある会社の人に時間をもらえた。これも非常に貴重なチャンスである。

もしも自分なら、そういうチャンスがあったら相手の懐に飛び込むために徹底的に研究する。
相手が持っているものは何か?予算か、人脈か、ブランドか?それを自分が利用するためにはどうすればいいか、どんな企画が立てられるか、相手をどうすれば儲けさせる事ができるか。

それを先に考えて、相手にあわせて資料を作る。必ずその時、相手の名前を入れたページを30%は作る。
時間を割いて会ってくれる人というのは、基本的に自分を儲けさせてくれる話にしか興味がない。

お金を払うことによって最終的に自分が儲かる事が確実なら、喜んでお金を払う。これがビジネスマンの基本原理だ。

出来合いの商品を売り込む場合であっても、なぜその商品が相手にとって役立つのか、自分なりに考えて活用のアイデアをスライドに起こす。そうすれば相手は必ず食いついてくる。「その手があったか!」と思ってもらうか「面白いやつだ」と思って貰えば大きなビジネスのチャンスになる。

与えられたノルマをこなす現場の営業マンの感覚が抜けてないと思った。
マニュアル通りに商品を売り込んで、売れたとしても、それはたまたま売れただけでその人の努力の成果ではない。
もちろん数をこなせば売れるから、そのほうが頭を使わなくて楽だと思うかもしれないが、そのやり方はレバレッジが効かず効率が悪い。

「この商品をいくつ売りたい」というKPIにこだわりすぎて、ビジネスを飛躍させるチャンスをふいにしているのだ。
本来、僕のように本を何冊も書いていたり、連載を持っていたりする人間は攻略しやすいはずだ。

必要な情報は全て公開されているからだ。

そして本当に仕事のできる営業マンというのは、年齢に関係なく、きちんと僕のことを調べ上げ、どういうアプローチなら刺さるか考え抜いてやってくる。そういう人の話はつい聞いてしまうし、たとえ彼らの商品を買う事ができなくても、また何かあったら相談してみようとか、力になってあげようという気持ちが働く。

そういう営業マン(とは限らないが)に出会っていると、それができてない人が大きく見劣りしてしまう。
なぜ就職活動の時は必死に就職したい会社のことを調べるのに、もっと大事な営業活動するときに調べる事ができないのか。

僕も仕事で顧客にご挨拶するときは、必ず事前にお名前で検索してできる限りの情報を集めてからお話しする。
現代社会において、それは礼儀であると同時に、チャンスを逃さないための最低限の努力だと思う。

大企業の部長以上となると、新聞にインタビューが載っていたりすることもあるし、若くて活躍しているエンジニアはTwitterやGithubでオープンソース活動で名前が知られていたりする。それを踏まえておくのとおかないのとでは同じ30分でも密度が全然違う。

ほんの少しの努力で相手を少しでも理解して、ビジネス上の接点を見つけていける可能性がある。

次に繋がらない商談というのは、相手に損をさせるだけで何も生み出さない。
相手にとって時間の無駄としか思えないような商談をしたら、紹介してくれた人のメンツも潰すことになる。

どんな場合も、相手の利益を第一に考えて自分が相手のビジネスにとってどうお役に立てるか、それを考えるのが企画であり、ビジネスを創り出すという仕事だ。

ギブアンドテイクがビジネスの基本だが、テイクよりもギブの方が遥かに大事である事がなぜか忘れられがちなように思う。

つまり、お客様にどう貢献できたか、が、お客様からいくらお金を頂いたか、よりも遥かに重要なのだ。
なぜならば、お客様への貢献が大きければ、「もっとビジネスを広げましょう」という話に必ず繋がる。
困った時にも助けてもらえる。

お客様への貢献が少なければ、いくら安くても「おたくとはもう付き合えない」と言われてしまう日が必ず来る。
売上というのは断面に過ぎず、売上を重ねるために必要なのは、お客様への貢献から生じる、継続的な信頼関係のみだ。

ライターの話に戻せば、連載を初めて人気が出なければお客様(編集部)に貢献できてないことになる。本を出したのに売れなければ、お客様(出版社)に大損させてしまうことになる。そうしたら、もう本は出せない。だから本を出すなら必ず売れる本を書かなければならない。売れる本というのは、これまで書かれた事がない本である。同じ人が書いてるからと言って、いつも同じ内容では困る。

個人でも会社でも基本は同じで、お金をもらう側でも払う側でも必ず相手の利益を第一に考えて行動する事が結果に繋がっていく。それは会社とそこで働く社員の関係性でも同じで、会社は社員にお金を払うときに、社員の利益を第一に考えなければならない。その人に適切な仕事を与えられているか、その人は仕事を通して成長できているか、その人に悩み事や心配事はないか、安心して働ける環境になっているか、そうしたこと全部を考えて働く仕組みを作る。これもまたビジネスを持続的に成長させるために必要なことだ。

相手の立場に立って、相手が欲しがっているものは何か、本当に相手にとって必要なものは何かという「思いやり」が、ビジネスを成立させる原動力であると僕は信じている。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。

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