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村上陽一郎/佐藤卓己

政治・行政・メディアの専門性の劣化を食い止めることは可能か 2021年6月25日オンラインイベント開催

2021.05.28

Updated by Shigeru Takeda on May 28, 2021, 12:21 pm JST

輿論(よろん)と世論(せろん)は少なくとも戦前までは別の言葉でしたが、現在この言葉の区別がついている人はもはや少数派と思われます(注1)。輿論(よろん)は「万機公論に決し私に論ずるなかれ」という(明治政府の)五箇条の御誓文(第一条)を源流とする「専門家による公開討議」です。これに対し「世論(せろん)」は「大衆による勝手気ままな意見」で、輿論を戦わせている専門家はこれに惑わされてはならない、と考えられていました。しかし昭和21年に公布された当用漢字表から「輿」が抜け落ちたことで、事実上「よろん」と「せろん」の区別がつかなくなり、現代は「世論(よろん)」だけになってしまいました。輿論(=公論)はどこかへ吹っ飛んでしまった、というわけです。茶番に成り下がった国会での俗悪な論戦を観察するだけでこの事実が確認できます。

この「世論(よろん)」には、米国のジャーナリスト、ウォルター・リップマン(Walter Lippmann)が指摘するところの「ステレオタイプ(stereotype)」から逃れられない、という弱点があります。世間で起きている事象を観察してから分析するのではなく、元からある信念を確固たるものにできる事象だけを拾い集めて、それと矛盾するものは排除する考え方、といって良いでしょう。「行政が作るシステムにはロクなものがない(はず)」という信念の元に偽計業務妨害に該当する行為を平気で行ってしまう(専門家であるはずの)メディア、そしてその“検証結果”を盾に政府の責任を追及しようとする(政治の専門家であるはずの)野党、などにステレオタイプの典型を見ることができます。

一方、世論形成に大きなインパクトを与え始めたソーシャルメディアは、その匿名性が過剰に保護された形で怒号が飛び交う空間として暴走し始めていますが、その中に、マスメディアには登場しない相当スキルの高い専門家による良質な言論が多数存在するのもまた事実です。このように、全ての人がメディアを所有することを可能とする時代、専門家と非専門家の区別が曖昧な時代に、医療、行政、政治、メディアなどの“専門家”はどう振る舞うべきなのかを、佐藤卓己氏(京都大学教授)と村上陽一郎氏の対話の中から考えていきたいと思います。

注1)『輿論と世論〜日本的民意の系譜学』佐藤卓己(新潮社、2008年)

佐藤 卓己氏によるイントロダクションを公開しました。

イベント詳細

科学哲学者・村上陽一郎氏による私塾「専門家とは何か」の第2回です。ZOOMミーティングを利用し、参加者とともに専門家や非専門家の役割を考えていきます。

開催スケジュール等

日 程:2021年 6月25日(金曜)19:00〜(約2時間のトーク&ディスカッションの後、交流会を開催)
会 場:Zoomを利用したオンラインイベントです。
参加料:¥4500(税込)
※チケットの購入期限は当日6月25日の午前中までとさせていただきます。
申込み:Peatixよりお申し込みください。(申込みはこちら)事前招待メールをお送りします。
主 催:WirelessWireNews編集部

スピーカープロフィール

村上陽一郎村上 陽一郎(むらかみ・よういちろう)

上智大学理工学部、東京大学教養学部、同学先端科学技術研究センター、国際基督教大学(ICU)、東京理科大学、ウィーン工科大学などを経て、東洋英和女学院大学学長で現役を退く。東大、ICU名誉教授。専攻は科学史・科学哲学・科学社会学。幼少より能楽の訓練を受ける一方、チェロのアマチュア演奏家として活動を続ける。

村上陽一郎佐藤 卓己(さとう・たくみ)

1960年生まれ。京都大学大学院教育学研究科教授。メディア史、大衆文化論を専攻。2020年にはメディア史研究者としては初めて紫綬褒章を受賞した。著書に『メディア論の名著30』(ちくま新書)、『大衆の強奪―全体主義政治宣伝の心理学』(創元社)、『流言のメディア史』(岩波新書)など。

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竹田 茂 (たけだ・しげる)

日経BP社の全ての初期ウェブメディアのプロデュース業務・統括業務を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。WirelessWire NewsModern Timeslocalknowledgeなどのウェブメディアの発行人兼プロデューサ。理工系大学や国立研究開発法人など、研究開発にフォーカスした団体のウエブサイトの開発・運営も得意とする。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997-2003年)、情報処理推進機構(IPA)Ai社会実装推進委員、著書に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス、2018年) など。

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