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メタヴァースの先にあるインターヴァース

2021.11.16

Updated by Ryo Shimizu on November 16, 2021, 09:15 am JST

今更メタヴァースが再燃している。
FacebookがMeta社になるとか、Microsoftがお仕事用メタヴァースを作るとか、GoogleやAppleもそのうち何らかの形でメタヴァース的なサムシングをやってこないとも限らない。

この大きな流れは、同時に非常にデジャビュ感のある展開でもある。
メタヴァース普及までにはまだ課題が多いが、今の段階で予想できるのは、おそらく、最終的には、どれも残らないだろうということだ。

1980年代から、1990年代初頭にかけて、世界各地の電話会社や大企業が独自のネットワークを構築した。
AT&TやCompuServeやAmerica Online(AOL)もそうだったし、日本ではTelestarやNiftyServeなど、とにかく一つの巨大な「ネット」に全てを集約せんとする野望を持った企業群たちがこぞってこの分野に参入し、支配しようとした。

この当時の「ネット」は、信じられないほど不便だった。
たとえば、NiftyServeの会員に、東京BBSの会員はメールを送ることができなかった。

誰だってこれが不便だとわかる。

たとえばFacebook改めMeta社と、Microsoftのメタヴァースがあったとして、MetaのアバターがMicrosoftのメタヴァースに行けなかったらおかしいと思うのが今や普通だろう。

もちろん全時代的な「ネット」の世界は、結局のところオープンプロトコルである「インター(相互)ネット」によって接続されたものにとって変わられた。インターネットそのものは、こうした「パソコン通信」以前から存在はしていたが、一つの「ネット」に囲い込むことで利益を最大化しようと目論む大企業体全体から見れば相互接続されてしまうインターネットは「儲けにならない不都合な真実」であり、できるだけ消費者の目を逸らそうと専らエネルギーが使われた。

つまり、メタヴァースが本当に普及するかどうかはともかく、最終的にはおそらくオープンな「インターヴァース」の出現が不可避であると考えられる。
もちろん、「インターヴァース」なるものが出現してしまうと、これはもう大変不都合なので、しばらくは大資本はそんなものが出現する可能性すら消費者に感じさせまいと努力するだろう。

インターヴァースは、既存のメタヴァースのどれとも独立していて、中立的な国際組織が規格を厳格に管理し、大資本の囲い込みを回避するような動きとしていずれ世界的なムーブメントになるだろう(もしもメタヴァースが普及すれば、という仮定において)。

今のメタヴァース的なシステムは、たとえばVRChatなどはかなりオープンに近いがそれでも小さいとはいえ営利企業によって運営されるもので、オープンソース的なものにはならない。

それでもVRChatは、たとえばUnityで世界を拡張したり、VRChat上で動くプログラムを誰でも開発したりできる点でオープン的(オープンそのものではない)である。
しかし、VRChatで作られた世界は、MetaのメタヴァースともMicrosoftのメタヴァースとも当然、互換性はない。これがいずれ大きな問題になることは疑いようがない。

また一方で、ここ半世紀近くの間、人類は自由なソフトウェア(Free Software)ムーブメントによって飛躍的な進歩を重ねてきた。
インターネットが普及したきっかけになったのは明らかにWWW(World Wide Web)が起点だが、これが「自由なソフトウェア」ムーブメントと結びつくことで爆発的に普及した。

この勢いには、どれだけ巨大な単独の企業も抗うことができなかったのは歴史を見れば明らかである。
つまり、インターヴァースもまた、自由なソフトウェアによって実現なされなければならない。

この状況に最も近しいのは、Webブラウザがメタヴァース機能を持つことだが、幸いそのプロトタイプは1990年代後半にVRML2.0として示された。今改めてVRML2.0の仕様を見直すと、恐ろしいほど現在の状況に適合している。XMLで3Dモデルが定義され、XMLの中にECMAScriptで動きを記述することができる。インテリジェントなオブジェクト(またはワールド)を記述することができるようになっている。

むしろこの規格がISOに承認された1990年代では、明らかにコンピュータはスペック不足だったが、今のコンピュータならば余裕で実行可能だろう。
現在もWebブラウザで動作するプログラミング言語であるEMCAScriptを当時から採用していたことに先見の明を感じる。

ある大きな勢力が人々を支配しようと動き始めるとき、人々はその対抗概念として自由なソフトウェアやオープンなソフトウェアを選択し、最終的には自由またはオープンなソフトウェアが勝利する、というのは幾度も繰り返されてきた歴史である。OSが、プログラミング言語が、エディタが、Webブラウザが、全てそうしてオープンソースになっていった。

こうなると、様々な大資本が思い思いに自社の「メタヴァース」にユーザーを囲い込み、閉じ込めてしまおうとしている今の状況は興味深い。
面白いのは、レディプレイヤー1でも、サマーウォーズでも、竜とそばかすの姫でも、ソードアートオンラインでも、メタヴァースものはたいてい、メタヴァースを単独の企業体の持ち物として定義している点だ。

この、ソフトウェア産業全体に対する劇作家の「大きな誤解」がむしろ大資本の経営トップたちをも誤解させ、「あたかもメタヴァースの世界を支配する単独の会社が出現できる」という幻想を抱かせる。世界征服への夢である。

これは要は大半の作家は企業を経営した経験もなければ、ソフトウェア産業の興亡史についての知識や考察がなく、ジョージ・オーウェルの1984のような世界観から未だ脱却できていないから生じる錯誤である。

これは物語を作る上で、単純な対立構造、たとえば「悪の銀河帝国と反乱同盟軍」のような分かりやすい構造を、現代に翻案しようとする過程で必然的に「世界の王」を設定する方が便利だからであって、正しい未来予想図を作ろうとして作ったわけではないからに他ならない。

メタヴァースそのものが普及するためには、VRヘッドセット的なものの普及が必須に近く、この問題が未だ解決していないと個人的には思っているが、仮にこの問題が解決されたと仮定して、メタヴァースがどのように普及・発展していくか予想すると、まずはFacebook改めMeta社やMicrosoftなどの大資本、VRChatなどのベンチャーによるメタヴァースが百花繚乱となった今の状況から、おそらく世界で3強くらいのメタヴァースに集約されていくはずである。

3強になる条件としては、「他のメタヴァースの世界やアバターに乗り入れることができること」つまり、簡易的なインターヴァース機能を備えていることが前提になる。
この「プレ・インターヴァース」の世界はある種のカルテルとなって、新参者や厄介者を排除する役割を持つようになる。

当然、今は夢と希望に満ちているが、メタヴァース世界が発達する過程で様々な仮説が試され、メタヴァースの概念自体が拡がるようなアプリケーションがいくつか生まれ、同時にインターネットやSNSが過去に経験したありとあらゆる厄介ごとや揉め事を繰り返し、最終的には「運営は悪だ」という結論に誰でも辿り着く。

その世界と並行して、大資本よりも遥かに力のない人たち、たとえば学生や研究者や引退した老プログラマーなどが小さなコミュニティとして自由なソフトウェアやオープンなソフトウェアによる相互補助による共同体としての「真のインターヴァース」を模索し始め、企業体によって生まれた「プレ・インターヴァース」の発達の中で見つかったいくつかのキラー・アプリケーションの機能をもっと安価に、おそらくは広告すらも見せないレベルの無償/無料で提供するようになる。

いくつかの力の弱い企業体がこうした草の根的な動きに目をつけ、資本を投入して大企業体カルテルの持つ「プレ・インターヴァース」に対抗しようと画策し、最終的には安くてイージーなものだけが残っていく。

こうした動きに対抗するためには、大企業体カルテルはVR用ヘッドマウントディスプレイのようなハードウェアのレベルからメタヴァースを管理しようとする。Meta社が熱心にヘッドセットを作っているのはそういうことである。

つまり、たとえばMeta社のヘッドセットではMeta社のメタヴァースにしかアクセスできないようにする。AppleがVR/ARヘッドセットを作る時も必ずそうする。
これはスマートフォンにおけるプラットフォームの囲い込みと同じだ。

ところがVRヘッドセットの技術はそれほど特殊なものでも特殊な特許に守られるものでもないので、新興ベンチャーが食い込みやすい領域でもあり、発展途上国や小国で爆発的に普及する超低価格ヘッドセットのムーブメントが発生する可能性もある。

この過程でいち早く「真のインターヴァース」の出現を察知した大企業体の一つが、たとえばAndroidのような、「オープンソース」的な逃げ道を作ることは十分考えられるし、初期から中期のインターヴァースにおいては、最初にそれを成功させた大企業体が優勢になる(世界シェアでAndroidが一位になったのと同じ)。

最終的には、ChromeもSafariもEdgeもWebKitという共通のWebブラウザエンジンを使うようになったのと同様、一つのオープンソースのプラットフォームを共有することでインターヴァースが出現していくことになるだろう。

まあそもそもの前提として、VR/ARヘッドセットの問題点が解決されるかどうかにかかっている。
解決策は二つ、一つは材料革命やハードウェア革命によって圧倒的に装着感が良いヘッドセットができること。しかしこれはまだまだ時間がかかりそうだ。
もう一つは、抜群にうまい説明によって、消費者の意識を変えてしまうことだ。

たとえば2005年時点で、筆者が通信キャリアの依頼で将来的な携帯電話の姿を検討したときに、「タッチスクリーンが主流化するかどうか」は五分五分と見られていた。タッチスクリーンによる文字入力にはまだまだ課題が多く見えた。

2006年のお正月にはスティーブ・ジョブズが見事なプレゼンテーションによって、タッチスクリーンの問題点が解決しているようにユーザーに信じ込ませることに成功した。

実際には問題点はあまり解決していなかったのだが、従来の抵抗皮膜に対して静電容量方式を用いることで飛躍的にスムーズなタッチスクリーンが実現し、ハプティック技術との組み合わせで打鍵感も擬似的に再現した。

これで世界は一気に静電容量タッチスクリーンに傾き、今やタッチスクリーンといえば静電容量方式のことを指すまでになった。
VR/ARヘッドセットも、メタヴァース/インターヴァースの提供価値が、ヘッドセット装着の不快さを遥かに上回れば、問題が解決する可能性は十分ある。

次の問題は、その上で、メタヴァースで「何をするか」だ。
メタヴァースでしかできないことは何か、ということが未だ十分研究され尽くしていないと個人的には思う。
おそらくAIが何らかの形で関与して、メタヴァースの価値が大きく変動することは想定できる。

同じ時代に生まれた一見無関係のテクノロジーが融合した時、爆発的な進歩の起爆剤になることは歴史が証明している。
そもそも半導体とコンピュータは全く無関係な技術だったし、携帯電話とインターネットもそうだ。

VRとAIは、融合して何らかの起爆剤となるか、それともまだ見ぬ全く無関係の技術がそうなのか。
時代が動き始めるときは、いつもワクワクする。

(11/16 12:43追記)
株式会社XVIの近藤義仁氏によれば、SIGGRAPH2021でオープンメタヴァースの議論はすでに始まっているらしい。

Building the Open Metaverse event at SIGGRAPH 2021

参加者はUnrealEngineのEpicや、NVIDIA、Roblox、Linux財団、Unity、OpenGLなどをまとめるクロノスグループなど、いかにもな顔ぶれが集まっている。すでにインターヴァースへのムーブメントは始まっている。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。

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