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DXと「自責文化」の関係

DX and remorse

2021.12.20

Updated by Mayumi Tanimoto on December 20, 2021, 15:16 pm JST

日本と海外で仕事をしますと、問題が起きた場合の個人の責任の取り方に地域によってずいぶんと違いがあって驚かされます。

例えば日本の場合、何か問題が発生したら日本の人は割と率直に謝ります。日本では責任をぼやかす人が多いじゃないか、と言い張る人も多いのですが、それは組織的責任や大型の案件の場合であって、責任を取らないのは政治家や企業であれば経営者や上級幹部です。

実務に関わりますと、現場では日本人は他の国の人よりもはるかに素直で、率直に誤りを認めます。また謝罪の回数も非常に多く頻繁です。つまり日本というのは、自分で責任を取る文化、自責文化が強いのです。これは、日本社会を文化人類学的な観点から捉えると納得できる話です。

日本は島国で村社会ですから、人の往来が頻繁ではなく、自分の村の中での立ち位置を維持することが生存競争において非常に重要です。村の人々に気に入られるには、自分が間違ったことをしたら素直に認めて謝罪をして許しを乞う方が、強情になって自分の正当性を認めさせるよりも有利なのです。

間違った事はいずれにしろバレるわけですから、正直者の方が尊ばれるのは納得できますね。村を簡単に移動するわけにはいきませんから、これは非常に合理的な生存戦略です。

ところが他の国に行きますと、明らかにその人が間違っているのに、これは私のせいじゃないと言い張る人が非常に多いことに驚かされます。とにかく、なんでもかんでも他人の責任にして、これは私のせいじゃないと言い張るのです。

これは私が実際に体験した例ですが、イギリスやイタリアでオペレーション担当者が間違いをした際に、間違った数字を入力したりボタンを押した人が、証拠があるのにもかかわらず言い訳をするのです。マネージメント側は、間違った事は正直に言ってください、向上の機会として一緒に話し合います、処罰はありませんと何回も伝えているにもかかわらずです。単なる間違いで故意ではないので、実際に罰則もないのです。

・ボタンの位置が悪かった
・私に対して十分な訓練をあなたは提供していない
・システムを作った人のやり方が悪い
・業務の名前が悪い

などなど、とにかくありとあらゆる言い訳を考えて自分以外の責任にしようとします。これが当たり前なので、インシデントやエラーの正確な原因を突き止めて改善することができません。

こうした現実があるために、他責文化のある地域では業務のシステム化が進みます。

・誰が
・いつ
・何をして
・何が起きたか

ということを全てログに記録できるからです。エラーを起こしてしまっても告白しませんから品質改善につながりませんので、最初から機械化してしまった方がマシなのです。

これがDXの根本にあるわけです。いちいちエラーを探し出して原因を追究し改善する手間がありませんから、DXを強烈に進めるモチベーションになるわけです。

ところが日本の場合は、現場の人々が非常に素直ですから、エラーがあったら、はい私がやりました、すみませんと謝ります。いちいちログに記録する必要もありません。間違いも、ちゃんとそのままに記録してくれます。

そして、間違った所を見直して、改善してまた作業しますので、システム化する必要性を現場も管理者も感じないわけです。

DX導入が進んでいる組織や地域というのは、なぜ進んでいるのか、その根底には何があるのか、ということを考えてみるべきです。そして、なぜ自分の組織では進まないのかと問い質す際には、文化的な側面から根本的な理由を考えてみることも必要ではないでしょうか。

「本当のDX」を考えるウェブメディア『Modern Times』創刊「本当のDX」を考えるウェブメディア『Modern Times

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。