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アベノマスク配布で考えた日本の行政のデジタル化

Abenomasuku and Japan's DX

2022.01.20

Updated by Mayumi Tanimoto on January 20, 2022, 07:00 am JST

日本政府は、コロナ禍で作成された「アベノマスク」の 在庫処分のために、希望する国民や企業団体などに保存されているマスクの配布を決定しました。

このマスクについて、ずいぶん批判している方々も多いのでありますが、 感染が大爆発している北米や欧州では、政府がマスクを配らなかった国がほとんどでした。

イギリスでは、日本政府は布製であってもとにかく国民にマスクが行き渡るように一生懸命配ったんだからまだマシじゃないか、というようなことを言っている方が少なくありません。

実際当時は、不織布のマスクが不足していましたし、ガーゼであっても政府がマスクを配布することで在庫不足を補うことができたわけですから、日本政府は時間や資源が限られていた中で一生懸命やった方だと思います。多めに作ってしまったのも、不足分を考えてのことでもあるのでしょう。

実際に現場にいた方のツイートを読みましたが、一律2枚を各家庭のポストにどんどん配ったのも、 事務処理の手間を省いてとにかく国民にマスクを行き渡らせるためだったといいます。当時の状況を考えますと、スピードとコスト削減を考えた非常に合理的なやり方であったと思われます。

さて、政府はその過剰在庫のマスクの無償配布を始めたわけですが、 その申し込み方法が、ちょっと驚くべきやり方です。

厚生労働省のサイトからエクセルのシートをダウンロードし、そこに配送希望先と枚数を書き込んで、電子メールで送り返すという方法なのです。もっともこれは、日本の行政ではよくあるやり方でもあります。

欧州であれば、おそらくマスク配布専用のWebサイトを立ち上げて、さらにマスク配送処理のシステムを民間のサードパーティのツールを使って構築して終わりでしょう。民間企業であっても、エクセルのシートに何かを記入して申込先に送るというのはかなり珍しいやり方です。

メールを読むだけでも大変ですし、ファイルを開いて記載内容を確認、さらにその内容を取りまとめて発注しなければなりません。送付先を記入するだけで膨大な手間がかかリます。人件費や間違いが起こる確率を考えたら、費用がかかってもシステム化したほうが得るものが大きいはずです。

しかしなぜ、日本の行政はエクセルのファイルを申請者に送らせて、それを担当部署が取りまとめるというやり方をしているのでしょうか。それは、日本の 役所ではこのやり方が最も早くコストもかからないからなのです。

なぜかというと、中にいる人々の事務処理能力が非常に高く、人件費も安いので、このやり方でもなんとか回ってしまうからなのです。これが何を示しているかというと、 日本の役所の中にいる事務処理担当の人々が非常に真面目で、ミスをや不正をしないということです。

この辺の様子は、私が2020年に出版した「世界のニュースを日本人は何も知らない2」、さらに2021年に出版した「世界のニュースを日本人は何も知らない3」でも説明しましたが、欧州の場合だと日本のような高品質な事務処理は望めないので、DXを推進する理由が切実なのです。

多くの場合、そもそも役所でも中にいる人々の人件費が非常に高く、無償の時間外労働もしません。当然、通常業務以外の仕事はやりません。マスク配布のような突発的な事務作業が発生した場合は、新たな人員を採用しなければならないことが多いですし、もしくは外注することになります。 

しかも人件費が高いですから、労働集約的な作業は極力避けなければなりません。また、外注する場合は海外の会社を使うことも多いですから、複雑な作業の発注は無理です。

このような背景と理由から、システム化することが最も費用対効果が高いやり方となるのです。

そういう訳で、この日本のマスク配布のやり方というのは、日本でなぜDXが進まないかということを象徴しているように思います。日本は人件費が安く、その割には人材の質が高いので、労働集約的な仕事もなんとか回ってしまうのです。だから、システム化する動機がないわけです。

「本当のDX」を考えるウェブメディア『Modern Times』創刊「本当のDX」を考えるウェブメディア『Modern Times

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。