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講師:原正彦 東京工業大学・物質理工学院・応用化学系 教授

本当に新しい研究、本当に新しい科学とは何か

real new research & real new science

2022.01.19

Updated by Schrodinger on January 19, 2022, 19:00 pm JST

大学教育を受けることになった理工系の学生は、線形代数や解析学などで躓くことが多いようですが、これに止めを刺すのが量子力学でしょう。「素粒子には質量がないものがある」といわれても、これを日常感覚で理解するのは難しいですし、「シュレディンガーの方程式」となると教える先生も大変らしいです。

ここで重要なのは、「人間の理解を超えた世界が実在する」ことを実感することでしょうか。そこにこそ、本当に新しい科学へのアプローチのヒントがありそうに思えるからです。

例えば、内閣府が主宰する「ムーンショット型研究開発」にはキラ星のごとく「凄い」研究がずらっと並んでいます。ですが、素人の私にも「研究の凄さ」が伝わってしまった時点で(つまり、私の想像力の範疇に留まってしまっているという意味で)実は大した研究ではない、と言い張ることができます。「凄い研究であることが理解できた時点で、さほど凄い研究ではない」という禅問答のような結論が導かれるわけです。本当に凄い研究は、おそらく私の理解を「超越」しているはずで、実際、過去のノーベル物理学賞の受賞研究を眺めてみると、受賞の段階では私には「何がそんなに凄いのかさっぱり分からん」研究が多かったと思われます。

産業技術総合研究所が「第二種の基礎研究(=実用化を重視する基礎研究)」を推進する、と宣言したのが2003年頃だったと記憶していますが、実際には、この頃から日本の科学・技術は引用される論文数が減少し、その存在感を次第に小さなものになっていったことになります。「これは一大事」とばかりに(日本人の)ノーベル賞受賞者が口を揃えて基礎研究の重要性を訴え続けることで、政府もようやく本腰を入れ始めた、というところでしょう。

では、どうやったら「本当に新しい科学、本当に新しい研究」ができるのでしょうか。この難問に対して、原正彦 東京工業大学教授は、マイケル・ポランニー(Michael Polanyi )の「暗黙知(tacit knowledge)」を補助線として導入します。

「暗黙知」は、日本国内では野中郁次郎先生による経営学への適用により幅広い分野で使われるようになった言葉ですが、元々、ポランニー自身は暗黙知を科学と芸術における「天才」が持つ能力、すなわち近接項と遠隔項から構成される包括的全体像を理解する能力、と考えていたようです。

ここに(ポランニーの時代には存在しなかった)量子スケールでの超高感度分析、あるいは超高速情報処理技術が加われば、「超越知」とでも呼べるような暗黙知が出現するのではないか、というのが原先生の仮説のようです。「何だかよく分からない話」ですが、1月26日の原先生の講義に耳を傾けることでヒントが見えてくると期待しています。(竹田)

募集要項
1月26日(水曜日)19:30開始
本当に新しい科学・本当に新しい研究とは

講師:原正彦 東京工業大学・物質理工学院・応用化学系 教授

・日程:2022年1月26日(水曜)19:30-21:30(予定)
・講義は最初の30分程度。残りの時間を延々と雑談に費やすことで「気楽に参加できる放課後」というコンセプトで実施します。
・Zoomを利用したオンラインオンラインイベントです。前日までに参加URLをメールでお送りします。
・参加費:無料
こちらのPeatixのページからお申し込みください。


「シュレディンガーの水曜日」は、毎週水曜日19時半に開講するサイエンスカフェです。毎週、国内最高レベルの研究者に最先端の知見をご披露いただきます。下記の4人のレギュラーコメンテータが運営しています。

原正彦(メインキャスター、MC):東京工業大学・物質理工学院応用科学系 教授原正彦(メインコメンテータ、MC):東京工業大学・物質理工学院・応用化学系 教授
1980年東京工業大学・有機材料工学科卒業、1983年修士修了、1988年工学博士。1981年から82年まで英国・マンチェスター大学・物理学科に留学。1985年4月から理化学研究所の高分子化学研究室・研究員。分子素子、エキゾチックナノ材料、局所時空間機能、創発機能(後に揺律機能)などの研究チームを主管、さらに理研-HYU連携研究センター長(韓国ソウル)、連携研究部門長を歴任。現在は東京工業大学教授、地球生命研究所(ELSI)化学進化ラボユニット兼務、理研客員研究員、国連大学客員教授を務める。

今泉洋(レギュラーコメンテータ):武蔵野美術大学・名誉教授今泉洋(レギュラーコメンテータ):武蔵野美術大学・名誉教授
武蔵野美術大学建築学科卒業後、建築の道を歩まず、雑誌や放送などのメディアビジネスに携わり、'80年代に米国でパーソナルコンピュータとネットワークの黎明期を体験。帰国後、出版社でネットワークサービスの運営などをてがけ、'99年に武蔵野美術大学デザイン情報学科創設とともに教授として着任。現在も新たな表現や創造的コラボレーションを可能にする学習の「場」実現に向け活動中。

増井俊之(レギュラーコメンテータ):慶應義塾大学環境情報学部教授増井俊之(レギュラーコメンテータ):慶應義塾大学環境情報学部教授
東京大学大学院を修了後、富士通、シャープ、ソニーコンピュータサイエンス研究所、産業技術総合研究所、米Appleにて研究職を歴任。2009年より現職。『POBox』や、簡単にスクリーンショットをアップできる『Gyazo』の開発者としても知られる、日本のユーザインターフェース研究の第一人者だがIT業界ではむしろ「気さくな発明おじさん」として有名。近著に『スマホに満足してますか?(ユーザインタフェースの心理学)(光文社新書)など。

竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人竹田茂(司会進行およびMC):スタイル株式会社代表取締役/WirelessWireNews発行人
日経BP社でのインターネット事業開発の経験を経て、2004年にスタイル株式会社を設立。2010年にWirelessWireNewsを創刊。早稲田大学大学院国際情報通信研究科非常勤講師(1997〜2003年)、独立行政法人情報処理推進機構・AI社会実装推進委員(2017年)、編著に『ネットコミュニティビジネス入門』(日経BP社)、『モビリティと人の未来 自動運転は人を幸せにするか』(平凡社)、近著に『会社をつくれば自由になれる』(インプレス/ミシマ社)、など。

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