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ピケティが見逃した「金融社会」

2022.11.22

Updated by WirelessWire News編集部 on November 22, 2022, 07:00 am JST

※本稿は、モダンタイムズに掲載された経済史学者の玉木俊明氏によるコラムの抜粋です。

ピケティへの違和感

2014年に出版されたトマ・ピケティの『21世紀の資本』(山形浩生・守岡桜・森本正史訳、みすず書房)は、当時大きな話題となった書物である。これは、格差社会を論じた研究だとまとめられよう。ピケティの主張は、「資本収益率(r)が経済成長率(g)よりも大きければ、富の集中が生じ、格差が拡大する。歴史的に見るとほぼ常にrはgより大きく、格差を縮小させる自然のメカニズムなどは存在しない」ということに尽きる。これこそ、ピケティ氏の議論でもっとも大切な前提条件である。

ピケティの『21世紀の資本』は非常に面白く、同書のとりこになった人も多かったと思われる。だが、私には一つの疑問が残った。ピケティは、長期的な世界経済の構造転換を考慮していないのだろうか、と。

『21世紀の資本』は、300年にもおよぶ経済史の研究書である。この間に、世界はイギリスの第一次産業革命、ドイツとアメリカの第二次産業革命、世界恐慌、IT革命、リーマンショックなど、たくさんの出来事を経験した。そのすべての経済現象を、「r>g」という数式でまとめることは可能なのだろうか。

企業の収益はGDPよりも大きく増加するので、企業が手にする富は労働者が稼ぐ賃金よりも多くなる。そのために、労働者の賃金よりも、資本家のもつ富は増え、格差はますます広がることになるというピケティの議論は、所得の再分配さえうまくいけば、解決されることではないのか。

むしろ世界経済の構造転換こそが、ピケティのいう格差社会誕生の大きな要因ではないのか。そもそも長期的には格差が縮小していたにもかかわらず、比較的最近になって格差が拡大したのはそもそもなぜなのだろうか。

人々は、非常に長い間、消費財が豊富になることが生活水準の上昇を示す社会に生きてきた。たとえば近世のヨーロッパでは、茶、コーヒー、砂糖などの消費財が普及することで、人々は暮らしが豊かになったと実感できた。

戦後の日本では、三種の神器といわれた白黒テレビ・洗濯機・電気冷蔵庫、さらに新三種の神器といわれたカラーテレビ・クーラー・自動車が耐久消費財として購入され、日本人の生活の豊かさの上昇に大きく貢献した。

世界は、少なくとも先進国においては、消費社会から大衆消費社会へと移行した。そして現在では、金融社会といえる状態になっている。おおまかにいうなら、世界経済は、消費社会、大衆消費社会、そして金融社会へと変化した。大衆社会から金融社会への転換は、モノを中心とする金融社会へと変貌した。

そのような問題意識から、私は最近一冊の本を出版した。それが、『金融化の世界史』(ちくま新書 2021年)である。ここでは、同書の内容をまとめ、格差社会の生成に関する私自身の考え方を述べてみたい。

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