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遅れている日本の5Gを立て直すには

2022.11.28

Updated by Naohisa Iwamoto on November 28, 2022, 14:30 pm JST

「日本にとって、これまでにないことが起こっている。5Gでは日本がテクノロジーのサイクルで後れを取り始めていて、これを加速する必要がある」。こう指摘するのは、エリクソン・ジャパン代表取締役社長のルカ・オルシニ氏だ。

スウェーデンのエリクソンは、モバイルネットワークなどを通じて人々のつながりを提供するネットワークベンダー。普遍性、安全性があり、グリーンでエコなネットワークにより、将来の可能性を高めることを目指す。5Gは、これまでのどの世代よりも早く普及していて、2027年までに44億の加入者が利用すると見込む。そうした今後の普及の加速に対してエリクソンは、通信事業者のモバイルネットワーク事業に加えて、エンタープライズに向けたワイヤレスネットワークやコミュニケーションプラットフォームの提供にも注力している。

オルシニ氏は、「5Gのネットワークは、2つの側面で重要性が高い。モバイルオペレーターのインフラとして、大きな投資をしていて、収益化することが重要である。企業に対してもコネクティビティを保つことは必要であり、プライベート5G(日本ではローカル5Gと呼ぶ)のケイパビリティを高めることが求められる」と説明する。いずれの側面でも、日本は5Gの活用に加速が必要だという見方だ。

5Gのユーザー体験を提供できていない日本

同じくエリクソン・ジャパン代表取締役社長 戦略事業担当の野崎 哲氏は、さらに厳しく国内の状況を指摘する。「通信事業者向け5G事業では、国内でも5Gエリアは拡大しているが、インパクトを残すユーザー体験は提供できていない」と手厳しい。国内では基地局の5G比率が19%、サブ6の基地局の比率が9%といった状況で、世界平均のサブ6比率が24%という状況との差は大きい。「都内の5Gの捕捉率は7.3%と低く、5Gのパフォーマンスも165Mbpsにとどまる。韓国の3割、台湾や中国に比べても5割ぐらいの体感速度しか出ていない」(野崎氏)。

人口あたり、国土面積あたりのサブ6の基地局密度も低いと野崎氏は指摘する。その上で5Gならではのパフォーマンスを提供するには、超多素子アンテナを搭載したマッシブMIMOの利用が有効であり、これも「先進各国の導入率は8割程度であるのに対して、日本では1割程度に過ぎない」(野崎氏)と遅れが目立つ。

なぜマッシブMIMOアンテナが国内で使われないかの1つの理由として、「無線機が大きかったことがある。5Gの展開を始めたころのエリクソンのマッシブMIMO無線機は60kgぐらいあり、これでは国内の環境では使えないと通信事業者に指摘された。エリクソンは独自開発のASICであるEricsson Siliconへの投資を進め、5年で無線機をかなりスリムにできた。2021年には20kg、2022年には12kgへと小型軽量化を実現し、国内でのマッシブMIMOの展開に役立てるような進化をしている」(野崎氏)。

ユーザー体験の向上に価値提供が向かっていることを指摘する。野崎氏は、「SAで提供できるスライシングなどの価値を提供し、その上で個人利用のユースケース拡大やエンタープライズ利用の普及を進めている。日本ではまだ5Gエリアの拡大に一生懸命で、5Gならではのユーザー体験を提供できていない」と見る。

コアネットワークのシステムは、「全世界の上位20社の通信事業者の8割がエリクソンの5Gコアネットワークを選定していて、20件の5G SA(スタンドアロン型)ネットワークが商用で稼働している。これらの経験を駆使して日本の5Gを世界最高水準に引き上げることに貢献したい」(野崎氏)。

切実なニーズがドライブする欧米のプライベート5G需要

エンタープライズでの5Gの利用についても、野崎氏は「日本のローカル5Gは、免許を取得する数は増えている。しかし実用化のブレークスルーは起きていない」と国内の状況を俯瞰する。一方でグローバルでは、コロナ禍などの背景から投資効率や俊敏性の向上を求められ、切実なニーズでプライベートネットワークを使う事例が増えているという。

「オランダのロッテルダム港では、港湾事業にWi-Fiを使っていた。大量のアクセスポイントは塩害により故障が多く、ハンドオーバーに難もがあるため、港湾オペレーションをトータルでまかなえなかった。プライベート5Gにネットワークを置き換えることで、運送用トラックから労働者やコンテナ作業まで、トータルでマネジメントできるネットワークが構築でき、生産性を25%向上できた」(野崎氏)。

独アウディの自動車製造工場でも、Wi-Fiを利用していたネットワークでは無人搬送車が止まりがちだった。「プライベート5Gを使うことでロボットと無人搬送車を高い信頼性を持ってシームレスに管理できるようになった」(野崎氏)。またエリクソンが米国テキサス州に持つ5Gスマート工場では、プライベート5Gの活用で作業効率が2.2倍に高まったという。

こうした中で、日本でもようやくプライベート5G(=ローカル5G)を展開していこうという機運が高まってきていると見る。「通信事業者向けとエンタープライズ向けの5Gは要件が異なる。エンタープライズ向けは、通信事業者よりも簡単に導入できるような仕組みが必要だ。インテグレーション済み、パッケージ済みで導入でき、使いやすい管理ポータルを提供するなどの使いやすさを追求し、評価を得ている」(野崎氏)。その上で、世界をリードする5Gのソリューションの拡張性、持続性などを提供できる点にエリクソンのローカル5Gソリューションの強みがあるという。

オルシニ氏は、「5Gはまだ日本では黎明期にある。生活やビジネスの未来に向けてコミットメントを持ってエリクソンのビジョンを実現していきたい。エンタープライズではデジタル化は進んでいるので、5Gネットワークを使うことでプロセス革新やビジネスの俊敏性の実現に貢献したい」とエリクソンが国内の5G活用推進を支援することをアピールした。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。