photo by 佐藤秀明
photo by 佐藤秀明
現在も稼働している、1990年に打ち上げられた「ハッブル」
1990年4月24日、アメリカ・フロリダ州のケネディ宇宙センターから、スペースシャトル「ディスカバリー」が打ち上げられた。フライトナンバーは「STS-31」。シャトル全体では35回目の打ち上げで、オービターの「ディスカバリー」としては10回目の飛行だった。積荷は、「ハッブル」宇宙望遠鏡。
ハッブルは、米航空宇宙局(NASA)の、「赤外線からガンマ線に至る、広い波長域の光で宇宙を観測する巨大宇宙望遠鏡群を宇宙に打ちあげ、運用する」という「グレート・オブザバトリー」計画の一環として、可視光領域での観測を担当する宇宙望遠鏡として開発された。口径100インチ、すなわち2.5mの主鏡を持ち、大気の影響を受けない宇宙空間で、高精度の観測を実施する。その名は、ウィルソン山天文台の100インチ天体望遠鏡(出資者の名前に因んで「フッカー望遠鏡」という)を用いた観測で、宇宙が膨張していることを発見した天文学者エドウィン・ハッブル(1889-1953)にちなむ。
軌道上に配備されたハッブルは、製造ミスでピントが合わないという大トラブルを起こしたが、スペースシャトルで宇宙飛行士が赴き、修理することで乗り越えた。これまでに合計5回の修理と改修を受け、打ち上げから32年を経た2022年5月現在も運用を続けている(前回取り上げたランドサット5は、このような修理なしで29年以上稼働し続けた)。
「100インチの符合」の意味
ところで2012年、アメリカ政府の偵察衛星を運用する組織である国家偵察局(NRO)は、NASAに2枚の主鏡と、附属する光学系一式を寄付した。元々は、偵察衛星用に発注し、納入されたものだが、不要になったために、NROがNASAに「再利用できないか」と打診したのである。このミラーの口径も100インチだった。
この「100インチの符合」にはどのような意味があるのか?
アメリカには、高精度の望遠鏡向け主鏡を研磨できるメーカーが複数ある。おそらくは、それらのメーカーの持つ研磨設備が、直径100インチに対応していたのだろう。そうなるにあたっての最初のきっかけはウィルソン山のフッカー望遠鏡であり、そんなメーカーにNROは偵察衛星向けの100インチ主鏡を大量に発注。さらにその流れに乗る形で、NASAからのハッブル宇宙望遠鏡向け主鏡も発注・製造されたのだろう。ちなみにNROからNASAに寄贈された主鏡のうち1枚は、2020年代半ばの打ち上げを予定している「ナンシー・グレース・ローマン赤外線宇宙望遠鏡」の主鏡として利用されることが決まり、既に再研磨などの加工も終えた。ナンシー・グレース・ローマン(1925-2018)は、ハッブル宇宙望遠鏡を提唱し、計画立ち上げにも功あった天文学者だ。
※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
この筆者の記事をもっと読む
「本当のDX」を考えるウェブメディア『モダンタイムズ』
おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)
登録はこちら