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「持続可能性」が求められる時代に、テンポラリーな万博を開催する意味はあるか

2023.08.10

Updated by WirelessWire News編集部 on August 10, 2023, 06:50 am JST

2025年に開催される大阪関西万博。日本の行く末に大きな影響を与えることになるであろうこの一大イベントは、どうなれば「成功」だといえるのか。そこへ至るにはどのようなモノ・コト・考え方が必要なのか。

美術評論家で「展示」についてさまざまな論考を重ねている暮沢剛巳氏がインタビューをしながら探っていく。まず話をうかがったのは、JIDA(公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会)理事長で『進化思考』の著者、太刀川英輔氏だ。太刀川氏は日本館の基本構想策定メンバーであり、日本館のコンセプトの根幹となる問いかけを提案したうちの一人である。

万博を、改めて人間と生態系の協調を考える機会に

暮沢:2025年の大阪関西万博の開催が随分近づいてきました。太刀川さんは日本館パビリオンの委員ということで関わられていますね。

太刀川:基本構想をつくるというところで関わっていました。

暮沢:守秘義務で話せないことはもちろんあるとは思うんですけど、まずは大阪関西万博自体にどういうイメージをお持ちなのかということと、今回の万博に関わられるようになった経緯と、あと基本構想の委員としてどういうお仕事をなさっているのかを教えてください。

太刀川:まずお話ししておかなければいけないのが、僕は日本館の基本構想という段階で関わっていたので、そのお役目はもう解かれているのですね。なので幾つもアイデアを出しましたが、もう他の人にバトンは渡っていて、僕が今現在進行形で万博のために進めているものはないんです。

日本館の基本構想がある程度決まったから終わったということですか。

太刀川:そうですね、ここに基本構想のPDFがあります。これを作る委員であったということです。基本的には、「いのちと、いのちの、あいだに」というキーワードを基に取り組みました。僕としては脱人間中心というか、人間と生態系の改めて協調というか、共生と適応を考える、というところにこの万博の意図を深く持っていきたいというふうに思っていたので、そういう発言はけっこう僕由来で起こっているものが多いんじゃないかと思います。もちろん基本構想の委員のなかには、同意見の人もたくさんいらっしゃいました。

暮沢:「いのち輝く未来社会のデザイン」というのが今回の万博のテーマですね。

太刀川:そうですね。この際の「いのち」というのは人間のいのちの話でもあるし、生物のいのちでもあるし、と複合的なテーマなんですね。

太刀川さんが日本館の基本構想に呼ばれたのは、どういう経緯だったのですか。

太刀川:経産省の人に呼ばれたんです。イノベーションやデザインについていろいろなところで話をしていたからでしょうか。あとは僕が「進化思考」という考え方を提唱していて、これは生物の進化のプロセスから我々の創造性は学ぶことができるんじゃないか、という前提に基づく考え方なんですけど、これの大きなテーマが「生態系との共生」あるいは「イノベーション」。

創造性が発揮されるという現象は、発明であったりイノベーションであったりするわけじゃないですか。その創造性をどういうふうに自然現象として体系化してみるか、というトライアルでした。さらに、それによって人間は気候変動などの問題に創造性を使ってどのように適応していけるのだろうか、ということもテーマにしています。呼んでくださった方は本を読んでくれたか、僕が本にする前から発信していたものを見てくださったんだと思います。

暮沢:声がかかった時点で、すぐにやる気になりましたか?

太刀川:日本、オリンピックがちょっと残念だったじゃないですか、ある意味でいろいろと。だから万博こそはそういうことにならずに、いい形になってほしいと思っていたし、万博は日本にとって最後のチャンスかもな、くらいに考えているところがあったので、関わってほしいと言われたときは素直に嬉しかったですね。発信すべきものを発信すべきタイミングだろうとも思いました。

日本って基礎的な技術力は高い国だと思うので、そういったものをどのようにちゃんと発信できるかという意味で、とても大事な機会だと思っています。だから、そのような方向になるようにお手伝いがしたいなと。僕、バックミンスター・フラーが好きなので、万博というとやっぱりモントリオール博のイメージがあって、それもあって嬉しかったですね。

暮沢:巨大イベントですからね、万博は。

太刀川:巨大イベントだし、僕は日本館の基本構想の委員の一人にすぎないので、僕が言ったことが実現されたりするわけではないんですけどね。だけど、僕なりに、万博に提案できることがあるはずだと、そう考えて引き受けました。

暮沢:いろいろな人が関わって、利権が関わってきますからね。

太刀川:そうそう。あんまり本質的じゃないメッセージの発信みたいになってほしくないなとは思います。

※本稿は、モダンタイムズに掲載された記事の抜粋です(この記事の全文を読む)。
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