▼北朝鮮のスマートフォン。北朝鮮関連の壁紙、音楽、アプリケーションがプリインストールされている。
朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)における移動体通信サービスはCHEO Technology JV Company(以下、CHEO Technology)が運営するkoryolinkのみが提供されている。多くの移動体通信事業者は公式ウェブサイトを開設して料金体系や端末のラインナップなどを公開しているが、koryolinkは公式ウェブサイトを持たないため端末のラインナップも謎に包まれている。そんなkoryolinkのラインナップであるが、北朝鮮へ渡航してCHEO Technology本社が入るビルなどを訪問した際にラインナップの一部を確認することができた。
koryolinkは移動体通信サービスを開始してから、新機種を毎年投入している。これまでに投入された機種数は30機種以上にも上る。携帯電話の多くはフィーチャーフォンで、スマートフォンはまだ僅かである。北朝鮮国内ではタブレット型端末も販売されているが、koryolinkを通じて販売するタブレット型端末はまだ存在しない。データ通信専用としては外国人向けにUSBモデム型のデータ通信専用端末が用意されている。
▼平壌市内にあるINTERNATIONAL COMMUNICATIONS CENTRE。CHEO Technologyの本社や併設のkoryolink販売店が入る。
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koryolinkのラインナップではストレート式のフィーチャーフォンが最も多く、次いで折り畳み式のフィーチャーフォンが多くなっている。スライド式やフルタッチパネル式のフィーチャーフォンも少しではあるが用意されている。フィーチャーフォンの価格は安価な順にストレート式、折り畳み式、スライド式、フルタッチパネル式となっており、安価な携帯電話が最も売れているという。ただ、北朝鮮国民にとっては携帯電話自体が高価であるため、最安の機種でさえ購入できないケースも少なくない。比較的高価な機種を所有するのはデジタル機器に関心を示す若年層や男性が多い傾向にある。
携帯電話は複数のメーカーが北朝鮮向けに投入しており、多くが中国のメーカーとなっている。中国からの輸入品を勝手に北朝鮮向けに改造しているのではなく、メーカーがKorea Posts and Telecommunications Corporation(以下、KPTC)向けへ正規に端末を納入し、それをCHEO Technologyが販売する形となっている。CHEO Technologyは出資比率の75%がエジプトのOrascom Telecom Media and Technologyで25%が北朝鮮国営のKPTCであることからも分かるように、外資系の企業となっている。そのため、まずは北朝鮮国営のKPTCに納入し、携帯電話の仕様などを精査してからCHEO Technologyを通じて販売する形式を採用している。
北朝鮮向けの携帯電話はメーカー名を隠さずに流通しているものも多く見られた。北朝鮮市場ではZTEが最もシェアを保有しており、殆どがZTE製と言っても良いくらいで、様々な形状のフィーチャーフォンや日本市場にも投入されたスマートフォンの同等モデルも北朝鮮市場に投入されていた。ZTEに次いで多いのはHuawei Technologiesで、koryolinkのポスターに掲載されているフィーチャーフォや外国人向けのUSB型データ通信専用端末はHuawei Technologies製である。ただ、出回っている台数はZTEに遠く及ばないくらいに少ない。機種数は少ないが、Uniscope CommunicationやGO Liveも北朝鮮市場に携帯電話を投入している。Uniscope Communicationはkoryolinkのラインナップでは最上位でフラッグシップとなるスマートフォンを投入している。GO Liveはタイで展開されているブランド名であるが、製造は中国で行っており、中国の製造メーカーがKPTCに納入している。
▼平壌順安国際空港内で見られたkoryolinkのポスター。HUAWEI U7200が掲載されている。
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型番を確認しているkoryolinkの端末は下記の通りである。括弧内の補足がない端末は全てフィーチャーフォンである。
[GO Live製]
GO Live 2
[Huawei Tehnologies製]
HUAWEI E303s (データ通信専用端末), HUAWEI S660, HUAWEI U121, HUAWEI U3200, HUAWEI U5900, HUAWEI U7200
[Uniscope Communication製]
Uniscope AS1201 (スマートフォン)
[ZTE製]
ZTE E850, ZTE F106, ZTE F107, ZTE F109, ZTE F160, ZTE F600, ZTE F952, ZTE F955, ZTE N281, ZTE T2, ZTE T3, ZTE T7, ZTE T95, ZTE T158, ZTE T201, ZTE V716, ZTE V720, ZTE V810, ZTE V880 (スマートフォン)
北朝鮮市場の携帯電話は型番だけで販売されている場合もあるが、ブランド名が与えられているものも存在する。ブランド名としてはPyongyang(平壌/평양)、Ryugyong(柳京/류경)、Arirang(阿里郎/아리랑)を確認している。ブランド名を冠した携帯電話端末は、基本的に朝鮮語でブランド名のロゴマークが筺体にプリントされている。Pyongyangブランドが最も多く出回っており、北朝鮮国内で見られた多くの携帯電話がPyongyangブランドを冠したストレート式もしくは折り畳み式のフィーチャーフォンであった。PyongyangブランドのZTE T3は折り畳み式のフィーチャーフォンで、黄緑色などのポップなカラーバリエーションが用意されており、若い女性が手にする姿もしばしば見られた。
スマートフォンは機種数こそ少ないが、Arirangブランドを冠してkoryolinkのフラッグシップとして展開されるUniscope AS1201は北朝鮮国内外で有名となったスマートフォンである。金正恩第一書記が現地指導で携帯電話関連の工場とされる5月11日工場を訪問した際に公開された。北朝鮮の国営メディアである朝鮮中央通信が大々的に報じたため、北朝鮮では誰もが知っていると言っても過言ではないくらい有名なスマートフォンである。朝鮮中央通信は海外向けにも情報を発信しており、Uniscope AS1201の開発は日本においても報道された。平壌市内の本社併設販売店でUniscope AS1201を購入して使用していたのであるが、飲食店や帰りの高麗航空機内では見せてほしいと何度か声を掛けられるほどで、認知度の高さを肌で感じた。Arirangブランドはタブレットやテレビにも適用されているが、スマートフォンで冠するのはUniscope AS1201が初めてである。中国市場向けのUniscope U U1201がベースとなっているが、ハードウェアの仕様には複数の変更点が見られる。チップセットや通信関連の仕様が変更されており、Uniscope AS1201と同一ハードウェアのスマートフォンは他に存在しないことになる。北朝鮮国民の平均年収については諸説あるが、koryolinkのラインナップで最も高価格に設定されているUniscope AS1201は多くの北朝鮮国民にとって非常に高価であり、手が出せないものとなっている。それ故にUniscope AS1201を使用していると声を掛けられることが多かったと考えられる。
ZTE V880は国際市場ではZTE Bladeとして展開されていたスマートフォンである。ZTE Bladeはスペックや名称を変更して世界各地で販売されており、北朝鮮もその販売地域の一つであった。北朝鮮市場に投入された最初のスマートフォンでもある。日本市場ではLibero SoftBank 003ZとしてSoftBank Mobile向けに投入されていた。
北朝鮮国民は基本的にインターネット接続が許可されておらず、スマートフォンは音声通話やカメラの他にゲームや学習において活用している。北朝鮮当局の意向により、スマートフォンを含めた全ての北朝鮮向け携帯電話が無線LANやGPSに非対応となっている。
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データ通信専用端末のHUAWEI E303sはパソコンに接続するタイプで、外装はkoryolink専用に仕上げられている。外装や化粧箱は北朝鮮国旗のカラーリングを踏襲したデザインである。北朝鮮に長期滞在する外国人専用となっている。
北朝鮮向けに専用の型番が与えられている携帯電話は少なくないが、外装の変更だけで他地域と同じ型番で投入されている携帯電話も多い。外装の変更はブランド名のロゴマークを入れる程度であるため、型番で検索すると同型の携帯電話のデザインや仕様を確認することができる。koryolinkの加入者は増加傾向にあり、北朝鮮の携帯電話市場の発展に伴い携帯電話のラインナップも多様化すると見られる。携帯電話は国を挙げて取り組んでいる事業の一つでもあり、今後の動向を注視したいところである。
▼Arirangブランドで展開されるUniscope AS1201の化粧箱。
▼左がArirangブランドのUniscope AS1201、右がPyongyangブランドのZTE F107。ブランド名は朝鮮語でプリントされている。
▼Uniscope AS1201とZTE F107の背面。ZTE F107にはメーカー名が入っている。
※修正履歴
3/7 23:50 以下の名称について誤りがありましたので本文を修正いたしました。
1ページ:誤:INTERNATIONAL COMMUNICATION CENTRE /正:INTERNATIONAL COMMUNICATIONS CENTRE
2・3ページ:誤:Uniscope Communications /正:Uniscope Communication
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登録はこちら滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。