コンピュータ支援ブレインストーミングシステム 〜またはアイデアというものの意外な本質
2014.02.20
Updated by Ryo Shimizu on February 20, 2014, 05:21 am JST
2014.02.20
Updated by Ryo Shimizu on February 20, 2014, 05:21 am JST
ベンチャー企業の経営には常にアイデアが求められます。
新製品の企画はもちろん、現状の製品の改善やクライアントの要望に対する冴えた解決策の提案、組織運営上の諸々の問題の解決案、営業案、プロモーション案、エトセトラ、エトセトラ。
こうしたアイデアを求められた時、普通は経営者が一人で考えるか、何人かで集まってアイデアの出し合い、いわゆるブレインストーミングを行います。
ブレインストーミングの目的は、様々なアイデアを発散的に産み出すことですが、これには多様性が重要です。
そしてブレインストーミングで出された個別のアイデアを組み合わせ、さらに発想を広げます。
アイデアの本質は、言葉そのものではなく、選び取る瞬間にこそあると、私は思っています。
よく、「あれは私のアイデアだ」と言う人や、「あれは私も考えていた」という人に出会いますが、そういう人はたいてい、アイデアを言葉だと思っています。しかし、言葉の組み合わせを作るのは、誰にでもできるのです。そこにそんなに大きな意味はありません。機械にすらできることですし、機械のほうがむしろ上手にできるものなのです。
アイデアの本質とは、そこではなく、ある言葉の組み合わせを「選びとる」ということと、それを実現(実装)する方法を筋道立てて考えることです。そこにこそアイデアの本質があると思うのです。
組み合わせを考える時、既成観念に縛られない自由な発想を求める時、コンピュータの支援があると助けになる可能性があります。
先週「ノンプログラマー・プログラミング講座2014」の授業の中で作った「80年代流行歌風歌詞自動生成システム」ですが、これは単なるキーワードの順列組み合わせによってそれっぽくしているだけです。
興味深いのは、これはプログラムを作成した私自身が見ても楽しめるということです。
というのも、無数のキーワードを鏤め、それを適切な順序で組み合わせることで、私自身も想像が付かなかったような組み合わせが出現し、多いに想像力を刺激されるからです。
たとえばこんな歌詞が出来ます。
涙なんかいらない
大好きなWireless Wire Newsどう思われてもかまわない
教えてよWireless Wire News憂鬱な目をしてた
キミを追いかけて青函連絡船懐かしいね
セーラー服だらけの新宿
涙なんかいらない
教えてよWireless Wire News
セピア色したWireless Wire News
これは80年代の流行歌にありそうなフレーズやキーワードを大量に用意した辞書と、特定のキーワード(この場合はWireles Wire News)を組み合わせて歌詞のようなパターンに当てはめたものです。
面白いのは、意外と即興で唄えること。
このプログラムを応用して、例えばテレビ番組の企画案を考えるプログラムを書いてみましょう。
ここにそのプログラムを書きました。
結果はどうなるかというと
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という具合で、なかなか赴き深いのです。
テレビ番組の企画というと、常に完全にゼロから立てるというよりも、まずフォーマットやテンプレートのようなものがあって、そことブッキングできそうなタレントをあてこんでいくので、まずタレントの名前を入力して、そこに他の要素がどう絡むのか考えて行くという作業をコンピュータにやらせるのです。
これ、人間が同じことをやろうとするとかなり辛いのです。
というのは、根本的には意味のない言葉の羅列なので、どうしても偏りが生まれます。人間は、実は「完全に無作為に」というのは苦手なのです。そういう部分はコンピュータに支援させると一気に捗ります。
また、このプログラムを書くという行為には別の良さもあって、このプログラムの中身は、キーワードが羅列されているわけですが、どんなキーワードを用意するとより「それっぽいか」ということを自分の頭の中で整理する役にも立ちます。
新企画を考える時、発想法の基本として、「大きくしてみる」「速くしてみる」「小さくしてみる」「回転させてみる」という作法はよくあります。
そこでキーワードをいくつか入力すると、勝手に発想法を使っていろいろなケースを想定するプログラムをここに書いてみました。
試しに「enchantMOON」と「小学生」を入れると、こんな結果になりました。
壊れにくい小学生よりもむしろポケットに入るenchantMOON
恋愛向けenchantMOON
名刺サイズの通信機能付きのenchantMOON
持ち歩ける小学生
逆に壮年向け女性向けenchantMOON
相互に通信するenchantMOONよりもむしろ量子力学的な小学生
逆に中年男性向け畳めるenchantMOON
中年男性向けenchantMOON
洋風のenchantMOON
形而上的なenchantMOONよりもむしろ電力を使わない小学生
WiFi付きの小学生とWiFi付きのenchantMOON
タバコの箱サイズの和風のenchantMOON
逆にスカイツリーと同じ高さのツインのenchantMOON
独身女性向け小学生よりもむしろ就活生向けenchantMOON
無数のenchantMOON
新素材の小学生と独身男性向けenchantMOON
女子高生向けenchantMOONと無数の小学生
接続されたenchantMOONと独身女性向け小学生がモテそうなenchantMOONに
名刺サイズのenchantMOON
相互に通信するenchantMOON
たくさんの持ち歩けるenchantMOON
逆に町内一のセクシーな小学生
ふつうは小学生向けenchantMOONだけど、敢えての関西風のenchantMOON
逆に本能的な独身女性向けenchantMOON
A4サイズの小学生向けenchantMOON
無意識に使うenchantMOONよりもむしろ共有するenchantMOON
いくつかは明らかに文がおかしいですが、たまに「A4サイズの小学生向けenchantMOON」などハッとさせられる表現もあります。
全く同じプログラムに、例えばゲームの企画を考えようと思って「ドラゴン」「勇者」「姫」を入力するとこんな感じになります。
重量級の姫
本能的な勇者
先頭の姫とモテそうなドラゴン
小さなドラゴンよりもむしろNASAで開発された勇者
ふつうは中高生向け勇者だけど、敢えての二つの姫
チタンの姫と和風のドラゴン
巨大な姫よりもむしろ本能的なドラゴン
逆にそこら中にある男性向け勇者
逆にふつうのエコな姫
女子高生向け古めかしいドラゴン
就活生向け姫
ふつうは新素材のドラゴンだけど、敢えての最新の勇者
ふつうは論理的な意味での勇者だけど、敢えての関西風の姫
ダンボール製のドラゴンと持ち歩ける勇者
本質的な意味でのいつかみた姫
どこかでみたような物理的な姫
和風の軽い勇者
物理的なドラゴンと相互に通信する勇者がどこかでみたような姫に
無数の勇者と電動姫
独身男性向け姫と古めかしいドラゴン
論理的な意味での姫
ふつうはたくさんのドラゴンだけど、敢えてのエコな勇者
ふつうは等身大の姫だけど、敢えてのポケットに入るドラゴン
ふつうの日本一の姫
ふりまわせるドラゴンと日本一の勇者
軽い姫
逆サイドの姫とNASAで開発されたドラゴン
ふたつの姫
ちょっと形容詞がモノ寄りなので変ですが、「NASAで開発されたドラゴン」には興味をそそられます。また、「軽い勇者」や「軽い姫」というのが性格の軽さを意味していると読み取れて、趣き深いものがあります。「本能的な勇者」もいいですね。
こんな感じで、コンピュータにキーワードを入れて自動生成させ、そこからアイデアを得る、というのはプログラマー経営者なら誰でも一度はやったことがある遊びです。
実際、私はとある企業から開発にとりかかるまえのオリエンで「ゲームに登場するアイテム500個を名前とパラメータ、仮でいいから用意してくれ、2時間以内に」という無茶苦茶な要求をされたことがあって、そのときはアイテムの名前とパラメータを自動生成するプログラムを組み、30分程度でキッチリ500個のアイテムリストを提出したことがあります。相手は無理だと思っていたみたいで、目を白黒させていましたが、無事プレゼンは通り、ゲームはリリースされました。もちろんリリース時にはちゃんと人間が手で調整したアイテムが入った状態で。
真面目にやろうとするととてつもなく大変な仕事も、ピンポイントでプログラムの力を借りれば、一気に能率化することもあるのです。
ノンプログラマー・プログラミング講座2014は、好評につき、春コースも募集が開始されました。もしご興味があればぜひどうぞ。
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登録はこちら新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。