ネパール政府は、同国を1人で訪れる登山家やトレッカーに対して、無料のSIMカードを提供する計画がある。ここ数年、外国からの登山客やツーリストが遭難したり、事件に巻き込まれたことから計画されたもの。ネパール国への年間旅行客80万人のうち、14%は登山やハイキングをする人々である。また年間3万人もの登山客が1人でネパールを訪問して、登山やハイキングをしている。
1人でネパールを訪問している登山客に対して、ネパール政府の無料でSIMカードを配布する取組みは興味深い。日本人の多くは旅行に行く時に日本で利用している携帯電話、スマートフォンを持っていき、それを現地で利用していることが多い。ほとんどの国で海外ローミングが可能であるから、日本の携帯電話、番号をそのまま利用できることが多い。海外ローミングをしているから通信料金は日本で利用するよりも割高になってしまう。
割高になってしまうのは日本の携帯電話だけではない。例えばアメリカ人がアメリカで利用している携帯電話とアメリカの通信事業者のSIMカードを他国に持参して利用すれば、それも海外ローミングが発生するので割高になってしまう。またSIMカードのプランによっては海外で利用できないものもあり、そのようなプランに加入している人はそもそも海外で利用することはできない。そのようなことから外国人には他国では利用しない、もしくは現地で現地のSIMカードを購入するという人が非常に多い。そのようなSIMカードがなかなか見つからないと、他国では利用しないという人も多い。
そのような状況で登山やトレッキングに1人で出かけて、行方不明、遭難、事件に巻き込まれるなどが発生した場合、連絡できる手段がないのは非常に危険な状態である。シェルパ(ヒマラヤの現地人登山ガイド)が同行している登山であれば、たいていのシェルパは現地の携帯電話を所有しているのでコミュニケーションが可能であろうが、シェルパと離れてしまうこともありうる。グループでのトレッキングにはシェルパやガイドの同行が必須だが、個人客は必須ではないため、最近もドイツ人やオーストラリア人が遭難している。
1人での登山客に対してシェルパやガイドの同行が必須でない代わりに、無料のSIMカードを提供することによってコミュニケーションの手段を確保できる。また遭難してしまった場合、位置情報などから場所の探索を行ったり、当局側から連絡を取ることも可能である。
世界には携帯電話があるだけで回避できるリスクが多く存在する。今回のネパール政府の措置によって、今後ネパールを訪問する個人の登山客の安全が確保されることを期待したい。
【参考動画】
【参照情報】
・Nepal plans free SIM cards to lone hikers
・Nepal's free SIM cards to help hikers
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登録はこちら2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。