世界の概況(2)先進国市場はARPU向上の鍵を握る「スマートフォン」に注目
2010.04.08
Updated by Michi Kaifu on April 8, 2010, 11:50 am JST
2010.04.08
Updated by Michi Kaifu on April 8, 2010, 11:50 am JST
○先進国市場は、米国・欧州・日本という、3つの分類で考えるとわかりやすい。いずれも、それぞれの異なる特徴と共通の要素がある。
○それぞれの市場では、市場細分化の度合いとデータ通信サービスの特徴によって、キャリアの支配力が異なっている。一方、音声からデータへの大きな流れは、3つの市場に共通している。
米国市場には、他の地域と比べ、下記のような特徴がある。
米国は、人口も多く売上も大きい豊かな国内市場をもつにもかかわらず、免許地域という面で伝統的に「細分化(フラグメンテーション)」しており、世界的に携帯サービスが大きく発展した2Gデジタル移行時には、デジタル方式の3方式並立も加わって細分化の弊害が大きくなった。これに加え、アナログですでに設備投資と端末普及が進んでいたために、最初からデジタルで新規ユーザーを入れた他国と比べて手間とコストがかかり、デジタル化が遅れた。
細分化の弊害とは、市場がばらばらに分かれ、ユーザー数が分散してしまうと、スケールメリットが出ずコストが下がらない、広い地域で同一のサービスが利用できない、相互にトラフィックや課金情報をやりとりするための手間がかかりすぎる、大きな技術開発投資ができない、といった種々の問題が出てくるということである。
2G移行後、デジタル化によるコスト減と激烈な競争により料金は大幅に安くなったが、細分化の問題やデジタル化の遅れにより、コンテンツ配信などの新しいサービスで日欧に遅れをとった。
しかし、その後キャリアの統合とデジタル方式の集約化が徐々に進み、携帯サービスがようやく「大きなプラットフォーム」となってきた。このプラットフォームの上に、ネット対応端末スマートフォンが発達し、アップル・グーグルというネットの2大プレイヤーが大きくコミットすることにより、新しい動きが米国から出てくるようになった。
イノベーションという、本来の強みを生かして、米国の携帯市場は活気を取り戻しつつある。
===
欧州は、各国ごとの特徴があるが、全体としていくつかの特徴がある。
全体として「市場としては均一なのに、わざわざ細分化したがる」米国と全く逆で、欧州は「もともと市場が細分化しているので、なんとか統合したがる」という矛盾を抱えている。基本的な仕組みは共通だが、各国ごとにユーザーの嗜好や、規制環境や国ごとの政府・キャリアの方針などが異なり、やはり市場としては完全に同一ではない。
ここ数年、欧州キャリアとベンダーは、新興国市場への展開に力を入れている。欧州はかつての植民地と東欧という新興国市場をいわば「身内」として持っている。GSM方式やSMSなどの欧州共通方式は、事業上のつながりや、すでに大きな数量メリットがあるためのコスト優位などから、新興国に広く普及している。こうした新興国市場への裾野の広がりは、欧州のひとつの大きな特徴となっている。
※一般には「テキスト・メッセージ」または「テキスティング」と呼ばれることが多い。
===
===
このようにそれぞれ特徴のある先進国市場であるが、共通点もある。
いずれの市場でも、従来ドル箱であった音声サービスが陰りを見せ、(米国以外では)ARPUが減少する中、携帯データサービスの比率が大きくなりつつある。しかし、音声の時代にはキャリアがすべて完結していたサービスが、データの世界では、アップル、グーグル、携帯ゲーム企業など、多くの上位レイヤー企業との分け合いとなってしまい、キャリアの取り分はだんだん痩せていく。
その一方で、次世代サービス展開と、増大するデータ量に対応するために、設備投資はかさむ。固定通信部門を持つ大手キャリアでは、回収期間の長いブロードバンド回線を建設するための設備投資が必要となり、「携帯で稼いでブロードバンドにつぎこむ」状況がつづいている。
こうした中で、ARPUを引き上げ、新しいサービスを生み出す余地の大きいスマートフォンに期待が集まる。各国ともに、「台風の目」はiPhoneを中心とするスマートフォンとなっている。
おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)
登録はこちら
ENOTECH Consulting代表。NTT米国法人、および米国通信事業者にて事業開発担当の後、経営コンサルタントとして独立。著書に『パラダイス鎖国』がある。現在、シリコン・バレー在住。
(ブログ)Tech Mom from Silicon Valley
(英語版ブログ)Tech Mom Version E