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欧州編(2)欧州携帯市場とNo.1プレーヤーVodafoneの戦略

2010.07.29

Updated by Mayumi Tanimoto on July 29, 2010, 16:00 pm JST

○欧州の携帯電話キャリアは、国内はむろんのこと欧州にもとどまらず、中東やインド、アフリカの携帯電話キャリアを含む全世界の市場をターゲットにしている。その結果、主要各キャリアの加入者数は中国には及ばないものの、米国・日本のキャリアをはるかに超えた規模となっている。

○欧州No.1キャリアであるVodafoneは、欧州ではモバイルデータ通信に活路を見出そうとしている一方で、新興国市場であるインド、中東、アフリカなどにも積極的に進出している。

1. 欧州のトップキャリアグループ

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(cc) Image by Ben Sutherland

欧州の携帯電話キャリアは汎欧州型サービスの提供と、ネットワークインフラのコスト削減を目指し、欧州だけではなく中東やインド、アフリカの携帯電話キャリアを含み、国境を跨いだ形での買収とアライアンスを繰り返している。

その結果、加入者ベースでは、イギリスのVodafone(ボーダフォン)が現在世界2位、フランスのOrange(オランジュ)が世界3位、スペインのMovistar(モビスター)が世界4位となっている。加入者数世界一であるChina Mobileの5億3千8百万人には及ばない物の、いずれの会社も、アメリカのVerizon Wirelessの9千200万人(2010年3月現在。参照)、NTTドコモの5600万人(参照)を大きく上回る加入者数を獲得している。

欧州の主要携帯電話キャリア(単位:100万人)

 会社名 本社所在国 加入者数 主要株主
 Vodafone イギリス 341.0(2010.03
 Orange
(T-Mobileとの合弁)
フランス 340.0(2009.09
T-Mobile加入者を含む
France Telecom(100%)
 Movistar / O2 スペイン 206.0(2010.01 Telefonica 100%
 Telenor ノルウェー 179.0(2010.03
 TeliaSonera スウェーデン 102.2(2009.12
 MTS ロシア 102.0(2010.01 Sistema

2. Vodafoneの概要

Vodafoneはイギリスの南部のバークシャーニューベリーにて1985年に設立された。前身となったのは、1982年に設立された軍事用無線技術提供会社レイカル・エレクトロニクスの電気通信部門であり、アナログのTAC-900セルラーサービスを提供していた。同部門は1985年6月1日に分社化されVodafoneに名称を変更、英国発の携帯電話事業者としてデジタルGSMサービスの提供を開始し、創業15年で欧州のみならず世界最大の携帯電話会社に成長する。

2009年の時点で従業員数は従業員数7万9千人を越え、市場価値は約740億ポンド、5大陸の40カ国でサービスを提供している。世界各国の携帯電話キャリアの買収を繰り返して、海外市場へ進出しており、1990年代にはドイツ等海外での携帯電話キャリアの買収を繰り返し、規模を拡大した。米国最大の携帯電話キャリアであるVerizon Wirelessは、Vodafoneと米Verizon Communicationsが共同設立した会社であり、現在もVodafoneが45%の株式を所有する。

2001年には日本のJ-Phoneを買収し日本市場へ進出した(2006年にソフトバンクモバイルに事業を売却し、日本の携帯電話事業からは撤退したが、その後ソフトバンク・チャイナモバイルと共に、携帯電話向け技術・サービスを開発する合弁会社ジョイントイノベーションラボ(JIL)を設立している)。また、2005年からは、ルーマニアのConnexの買収をはじめ、新興国市場への進出を強めている。

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. ビジネス市場とデータ通信サービスに注力する欧州戦略

Vodafone
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2006年以降のVodafoneは、欧州市場においては、ビジネスユーザー向けのモバイルデータ通信と、既存顧客のARPU増加を促すデータ通信サービスに注力して事業展開している。

2009年始めには、主要音楽会社とDRMフリーの音楽ダウンロードサービスに合意した(参照)。さらに「Widget Zone」を開始し、ユーザーが作成したウィジェットをVodafoneのサイトにアップし、他のユーザーがダウンロードできるサービスを開始した。Vodafoneはこのサービスの潜在的なユーザ数は百万人程度であるとしている(参照)。

Microsoftとは提携を結び、Microsoft Online Servicesを中小企業向けに提供(参照)。さらに電子出版社の「GoSpoken.com」と共に「Books on Mobile(BoM)」を提供している。これは、Vodafoneの携帯電話から5ポンド(約700円)から15ポンド(約2100円)で電子書籍をダウンロードできるサービスで、料金は月額使用料金にチャージされる(参照)。

このような活発なデータ通信サービスを提供した結果、2010年前半には、音声通話からの収益は減少したものの、データ通信サービスに関しては前年比で2.7%増加している。またモバイルインターネットサービスからの収益は、前年比で27%の増加であり、同サービスは、欧州だけで3千万人のアクティブユーザーが存在している(参照)。

4. Vodafoneが最重要視するインド市場

Vodafoneは2005年から東欧を始め、アフリカ、南米、中東、アジアなどの新興国向けのサービスを拡大し収益増を狙っている。欧州では携帯電話の浸透率が100%近いが、これらの国の携帯電話浸透率は平均で36%程度であるため今後の伸びが期待できるためである。これら新興国での事業展開にあたっては、直接運営する海外子会社と海外の携帯電話事業会社の株式取得により間接的に海外事業展開する方式の2つの方法で海外事業を展開している(参照)。

Vodafoneにとって最も重要な新興国市場のひとつが、インドである。インドは莫大な人口を抱えているが、携帯電話普及率は18%と、ほぼ100%である欧州や北米と比べると今後もユーザーが増加する可能性他が高く、Vodafoneはインドをグループにとって最も重要な市場であると公言している(参照)。

インドでは2005年10月にAirTelのブランド名で携帯電話事業を展開しているBharti Televenturesの株式を10%取得したことを公表する。また、Hutchinson Essar Limitedを買収し、2007年にはVodafone Essarと呼ばれる子会社を立ち上げ、4410万人のユーザーを獲得、携帯電話普及率が人口の23%であるインド市場の18%を占める形となる。

この買収により、Vodafoneのネットワークは23の携帯電話カバー領域を占め、ムンバイ、デリー、コルカタ、チェンナイの主要大都市をカバーすることになった。Vodafoneは、インド政府が2010年までに目標とする5千万の携帯電話契約数の推進をバックアップする方向である。

さらに、BhartiGroupと共同で子会社としてIndus Towers Limitedを設立しインフラの充実にも力を入れている。また、インドにおいては、社会奉仕を目的とした財団を設立し、地域貢献にも注力している。

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5. マイクロ決済システムで新興国市場に浸透を図る

Vodafoneは、イギリスの旧植民地であったアフリカ東部や中東においても、積極的なサービス展開している点も注目したい。

ケニア、タンザニア、アフガニスタンでは、携帯電話サービスを提供する他に、現地企業と共同で携帯電話を使用した送金システムの運営を開始している。

ケニアでは「M-PESA」と呼ばれる一回20ユーロ以下の小額決済ソリューションを提供し、すでに2千万人以上に使用されている。なお、タンザニアとケニアでは固定電話の加入料金が高く、有線インフラの品質が芳しくないことから、低価格帯の携帯電話とサービスが、上流層だけではなく、中流層にも爆発的な勢いで普及している。また、通信インフラが幅広く普及していないため、ATMや銀行の送金システムが十分普及していないため、携帯電話網を使用した送金サービスが人気となっている。

M-PESA(Vodafoneと提携するケニアの通信事業者Safaricomのサイト)
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現地調査のため、タンザニア及びケニアを訪問することが多い世界銀行アフリカ民間企業投資部のTilla Anthony博士によれば、ケニアやタンザニアでは、何もない農村の畑のど真ん中で、農民が携帯電話を使用して、事業パートナーに送金していたり、漁師がその日の売り上げを、携帯電話の送金システムで受け取ることもあるという(2009年3月27日に世界銀行アフリカ民間企業投資部Tilla Anthony博士へインタビューを実施)。

6. 低価格端末を欧州から新興国まで展開

Vodafoneは新興国向けの低価格でシンプルな携帯電話の提供も積極的に進めている。2008年2月には低価格帯機種として、Vodafone 227とVodafone 228、4月にはVodafone 526,Vodafone 527、Vodafone 725を発表。新興国と欧州市場で販売している。Vodafone 725は3G携帯で、Vodafone Mobile ConnectをインストールしたモバイルPCに接続すると簡単にネット接続ができる。2008年までにこのような低価格携帯は50カ国以上で1千万台以上売れている。

2010年2月には、15〜20米ドルで購入することが可能な、Vodafone 150をコンゴ、ケニア、モザンビーク、カタール、南アフリカ、タンザニア向けに発売している。さらに、4月に発表したOpera Mini 5を使用したモバイル通信サービスは、ローエンド機種向けのデータ通信提供を目的としており、特にVodafoneが3Gサービスの提供を予定しているトルコ、エジプト、南アフリカ、タンザニア向けである。

新興国での海外事業を展開していくに当たり、Vodafoneは、自社で設立した非営利の財団や、国際機関であるthe United Nations Foundation(UN Foundation)、非営利団体のTelecoms Sans Frontieres等と新興国における社会奉仕活動にも積極的に取り組んでいる。

詳しくは以下の資料を参照。
"Access to communications in emerging markets"
"Vodafone Acquires Sweden's WayFinder For EUR24 Million"
"Vodafone Acquires Additional Stake in Polkomtel"

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。