ビッグチャンスは「テレビの外側」にあり 〜米国スマートテレビサービスの現状
2011.09.27
Updated by Kazutaka Shimura on September 27, 2011, 11:00 am JST
2011.09.27
Updated by Kazutaka Shimura on September 27, 2011, 11:00 am JST
6月に訪れたロンドンでも、今月訪問したサンフランシスコでも、家電量販店のテレビ売場には、スマートテレビが大きく飾られている。アメリカで売られていたスマートテレビは55インチが主流で、大体1,800ドル程度だ。テレビの価格は、世界どこへ行ってもそれほど変わらない。
それでも、海外の電器店ですぐ気付くのは、テレビ以外に映像や音楽が楽しめるデジタル機器がたくさん売られていることだ。アメリカの業界団体は、今後4年でタブレット端末、スマートフォンがテレビの3倍の3億台も普及すると今年の初めに発表している。
問題は、その3億台で、映像や音楽が消費されるとしたら、いったい誰がコンテンツを配信するのか、そのメディア消費をマネタイズするのは誰なのか?という点だ。つまり、スマートテレビを論じるには、テレビの外側に新たな映像コンテンツ市場が誕生し、新しいビジネスモデル生まれる点が重要となろう。
アメリカの広告市場でテレビ局のシェアは30%になる。スマートフォンやタブレットで映像が見られるときに、テレビ局はそのシェアを守れるのだろうか。それとも、新興企業が新たなビジネスモデルを構築するのだろうか。このビッグチャンスに魅力を感じているのは誰なのか、次に見ていこう。
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スマートテレビの源流はフール-(Hulu)などテレビ局の公式配信サイトをテレビモニタに映す「オーバー・ザ・トップ」と呼ばれるサービスだろう。このオーバー・ザ・トップを家電メーカーがテレビ本体に取り込んだのがスマートテレビである。
▼Hulu
スマートテレビは、サムスン電子などの韓国の家電メーカーだけでなく、日本の家電メーカーもアメリカでは既に店頭販売している。東芝は「NET TV」というブランドを使った商品を展示していたし、パナソニックは「VIERA Connect」というネット配信サービスを提案する。
サムスンや東芝などの家電メーカーは自分たちの仕様でスマートテレビを開発しているが、グーグル(Google)が発表しているGoogle TV フォーマットを利用する企業もいる。ソニーやロジテックなどだ。
家電企業独自のスマートテレビとGoogle TVの違いはほとんど無いが、今後Google TV フォーマットを利用した安価なテレビを作るメーカーが市場に参入するだろう。
また、先頃グーグルがモトローラ・モビリティを125億ドルで買収すると発表した。同社は、ケータイ端末とケーブルテレビ用のセット・トップ・ボックス(STB)を開発するメーカーだ。グーグルがGoogle TVのフラッグシップモデルを出す可能性もある。
スマートテレビ関連で経営数値を公開している企業は少ないが、Google TVプラットフォームを使った製品を販売しているロジテック社は、2010年10月−12月のGoogle TVの売上が2300万ドルなのに対し、今年1月−3月は500万ドルに低下した。まだ市場黎明期と言えそうだ。
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こうした機器に対し、コンテンツをアグリゲートし、配信する企業群がいる。前述したフールーや、映画をDVD発売後1ヶ月でストリーミング配信するネットフリックスは主要な家電メーカーと提携し、彼らのスマートテレビに搭載されている。アマゾンもストリーミング配信サービスをGoogle TVに提供している。
また、大リーグやプロバスケットリーグのNBAなどのプロスポーツ団体、ニューヨークタイムズ、CNNといった有名なコンテンツホルダーは、直接スマートテレビに自分たちのコンテンツを配信する。
つまり、テレビのコンテンツは制作も流通もテレビ局が担っていたが、スマートテレビでは、ネットフリックス(Netflix)といった新たなコンテンツ配信企業やコンテンツホルダーたちがコンテンツ流通を担っているのだ。
旧来のテレビ市場には参入していなかったグーグルなどのIT企業、またコンテンツ配信のプラットフォーム企業たちが、スマートテレビ市場に勃興し、活性化しているのがわかるだろう。
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スマートテレビのユーザー・インタフェースは、スマートフォンやタブレット端末にアプリが並んでいるのと全く同じだ。配信事業者のアプリをクリックし、好きなコンテンツを見る。著名なコンテンツは有料だ。ネットフリックスもフールーも、インターネットなどで申し込み、そのIDをスマートテレビで打ち込んで楽しむ。
また、Google TVのように、リアルタイムで放送を見ながら、そのうえにインターネット画面をオーバーラップさせることもできる。ほかには、スマートフォンがリモコンになったり、宅内の機器間にコンテンツを転送することもできる。また、複雑化するリモコンを簡略化しようと、ジェスチャー認識技術を使って画面にポインタを表示させ画面を切り替えたり、声認識技術を用い、声でテレビを操作できたりする。
それでも、機器自体の機能にそれほど違いがないため、サムスンなどスマートテレビを展開する大手企業は、プレミアムコンテンツを囲い込み、他社と差別化する。フールーは、Google TVには配信していないので、テレビドラマをスマートテレビで見たかったらサムスン製品を買うしかない。
2011年1月ラスベガスで開催された家電見本市のCESで、サムスン電子の基調講演の壇上には、9月1日に日本でサービスを開始したフールーや、タイムワーナーなどコンテンツホルダーの経営者が勢揃いし、自社のスマートテレビでは他社と違うコンテンツが見られる点をアピールしていた。
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スマートテレビでいちばん目立った戦略を取ったのは、ネットフリックスだろう。テレビだけでなく、スマートフォン、タブレットなどテレビ以外に拡大する映像視聴機器にフォーカスして配信機器を増やした結果、この2年で加入者が1,000万人増えた。テレビに拘ったケーブルテレビは、2009年に市場全体の加入者が1995年と同じレベルに戻ってしまった。
さらに、旧来のテレビへの流通を独占していたテレビ局を保有するメディア・コングロマリットは、ローカル局などを中心に保有しているテレビ局を売却している。
スマートテレビの普及を見越し、各プレイヤーの戦略はコンテンツを重視していると言える。
スマートフォン市場で、Android OSはわずか2年でiPhoneを抜き、シェア30%以上を獲得した。そして、その分シェア上位のトップ10メーカーのシェアは減ってしまった。それは、無料のAndroid OSを利用し安価な端末を販売する無名メーカーが成長していることを意味する。こうした安価な端末でも映像を楽しめる。こうした動きが、リビングのテレビ市場を浸食するだろう。家電メーカーにとって、ユーザーが使いやすい機器を開発し続けるしか自らの付加価値を上げる術は無い。
スマートテレビへのコンテンツ流通部門は、ネットフリックスやフールーなど配信プラットフォームが今後も成長するだろう。ネットフリックスは既にアメリカだけなくカナダで100万人の会員がおり、2011年末には中南米40ヶ国に進出、来年はさらに違う市場に進出する予定だ。
ハリウッド映画会社は「ウルトラバイオレット」という映画をユーザーに直接配信するサービスを今年年末から開始する。映画などのコンテンツは、劇場公開、ウルトラバイオレットなど単品の直接配信、そしてネットフリックスなど月額課金のサブスクリプションモデルでスマートテレビに配信される。
そして、無料で見せるコンテンツは、多様な機器を跨いで配信できるソーシャルメディアの広告手法がビジネス面で支える。グーグルのアドテクノロジー企業の買収戦略は、今後普及するGoogle TVに向けた映像広告ビジネスの準備であろう。
ここまで述べたように、今後スマートテレビ市場を考えるには、現在のテレビ市場以外の視点が必要だ。それは、このスマートテレビ市場が、テレビにとっての大きなイノベーションであることを意味しよう。
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登録はこちら情報通信総合研究所主任研究員。1991年早稲田大学卒業、WOWOW入社。2001年ケータイWOWOW設立、代表取締役就任。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学でMBA、2005年高知工科大学で博士号を取得。文系・理系に通じ、さらには国内外のメディア事情、コンテンツ産業に精通。著書に『ネットテレビの衝撃―20XX年のテレビビジネス』(東洋経済新報社)『明日のテレビ チャンネルが消える日』(朝日新書)がある。