新しいWindowsが「Window 8」という名前になっているのを嬉しく思う。マイクロソフトは「Windows 7」から、末尾にバージョンナンバーを示す数字を付けるというネーミング方法を採用したが、これは統一感に欠けたそれまでの方法よりもはるかに合理的なものだと思う。Windowsのメジャーバージョンは過去に7つリリースされているので、Window 8の「8」という数字にはこの後に続くものということがはっきり示されている。
Windows OSの実際の始まりは、1992年4月にリリースされたWindows 3.1からで、それ以降Window 95(これを「バージョン2」とする)、Windows 98(バージョン3)、Windows 2000(バージョン4)、Windows XP(バージョン5)、Windows Vista(バージョン6)、Window 7(バージョン7)、そして今回発表されたWindows 8となる。
このバージョンナンバーとそれぞれの発売時期から、われわれはアップグレード投入の頻度を測ることができる。たとえばWindows バージョン2(=Windows 95)が出たのは、バージョン1(=Window 3.1)発売から41ヶ月後、そしてバージョン3(=Window 98)が出たのはバージョン2発売の34ヶ月後となっている。このやり方でWindowsの各バージョンごとの投入間隔を並べたのが下記のグラフである(Window 8については来年10月発売と仮定)。
[OSの投入間隔 - 縦軸(単位):月数/横軸:バージョンナンバー]
話を面白くするために、このグラフにはほかのOSプラットフォーム -- アップルの「OS X」「iOS」、グーグルの「Android」のデータも含めてある。なお、1.0、2.0、3.0といったバージョンナンバーには意味があり、メジャーリリースにはキリの良い整数が新たに付与されている、というのが私の考えだ。
また、このグラフにはWindows Mobileのデータも盛り込んである。このモバイルOSは昨年出された「Windows Phone 7」まで、PC用Windowsと同じように混乱したネーミングの悪影響を被っていたが、上記の整数を用いたナンバリングで整理すると次のようになる:Pocket PC 2000がバージョン1、Pocket PC 2002がバージョン2、Windows Mobile 2003がバージョン3、Windows Mobile 2003 SEがバージョン4、Windows Mobile 5がバージョン5、Windows Mobile 6がバージョン6、そしてWindows Phone 7がバージョン7。なお、Windows Phone 8の発売時期や、それがどんなものになるかは現時点では不明なため、グラフからは除いてある。
上掲のグラフをみると、Windowsのアップグレード間隔が他のOSにくらべて少し長いことが分かる。しかしここで私が伝えたいのは、このアップグレード間隔が短いほど、開発元のOSベンダーは戦略的に優位に立てる、ということだ。OSのアップグレード・サイクルが速ければ、それだけ新しい機能を(新バージョンに)盛り込むことができる、そしてそれがより多くの収入につながることはいうまでもない。ただし、上記の折れ線グラフではそのことが少し判りづらいと思えたので、もっと良い方法として、下のような同心円状のグラフで示す方法を考えてみた。
[中心から外側に向かって伸びる直線は各OSごとのバージョン2〜8までのアップデート、直線に付された目盛りは投入間隔を示す月数]
これは航空戦での旋回能力 -- 相手の内側に回り込む能力からヒントを得たアイデアで、中心からの距離が短いほど素早く新バージョンのOSを投入することができることを示す。
このグラフからは、パソコン用OSについてはアップルのOS X(緑線)のほうがWindows(青線)よりも頻繁にアップグレードを投入してきていることがはっきりとわかる。また、モバイルOSのほうがパソコン用PCよりも投入間隔が短いことも読み取れる。唯一の例外はWindows Mobile(橙)だが、これは同OSのアーキテクチャーやビジネスモデルに関する課題によるもの。いっぽうAndroid(紫)については、これからどうなるかが興味深い。いままでは短い間隔で新バージョンが投入されてきたものの、Ver. 3.0からはタブレット向けも加わってきたため、新バージョンの投入ペースもわずかに遅くなっている。
だが、ここでもっとも注目すべきは、パソコン用OSとモバイルOSの新バージョン投入間隔の大きな開きである。マイクロソフトはWindow 8でこの2種類のOSを一本化しようとしているが、それぞれのOSのエコシステムはまったく異なる。この2つのOSについては、顧客、OEM、ユーザーの行動パターンがすべて違っている。そこで気になるのは、Window 9やWindow 10といった将来のバージョンでは開発期間(投入間隔)はこれまでよりも短かくなるか、という点だ。マイクロソフトのOS部門はこの新しい投入サイクルで動くことができるのだろうか。
さらに、マイクロソフトにとってそれ以上に問題になるのは、同社にとってもっとも大切な法人顧客が、一回おきにしかOSのアップグレードを実施しないことだ。上のグラフではWindowsの投入間隔が約35ヶ月になっていても、実際のところ大口の法人顧客では更新サイクルが60ヶ月近くまで伸びている。
この投入間隔と更新サイクルの開きには目を見張るものがある。消費者向けの端末なら、12ヶ月おきに"over-the-air"(無線ネットワーク経由のDL)でのバージョンアップも可能だが、それにくらべて従来の企業向けWindowsでは更新間隔が5倍も長くなる。別の見方をすると、法人用パソコン向けのWindowsが1回アッグレードされる間に、平均的なモバイル端末ユーザーは5回も新しいOSに触れることになるともいえる。マイクロソフトは法人顧客のゆっくりとした更新ペースに安心感を覚えるかも知れないが、将来を見据えた場合、彼らは適切な顧客とは言い難い。
こうした更新サイクルの違いがもたらす影響については読者の判断に委ねるが、マイクロソフトには新しいクラスのコンピュータとして複数の端末を扱っていく上で、オペレーション面の重大な非対称性があるというのが私の考えだ。
(執筆:Horace Dediu / 抄訳:三国大洋)
【原文】
・OS turning circles: Questioning Windows' maneuverability
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