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自動運転の時代

2024.09.20

Updated by Ryo Shimizu on September 20, 2024, 05:05 am JST

今年も何度目かの世界一周に行ってきた。
世界一周と言っても、そういう名前の航空券を買っただけだ。

世界一周チケットは、いろいろな航空会社から発売されている。有名なのはスターアライアンスとワンワールドのものだろう。
どちらもかなり安く世界を一周することができる。エコノミーで50万円くらい、ビジネスで70万円くらい、ファーストでも120万円くらいだ。

何故こんなに安いのかというと、その代わりに制約が激しいからだ。
世界一周で最低5箇所で降りなければならない。西回りか東回りかどちらか一方向へしか飛ぶことはできず、航空会社によっては取れる便と取れない便がある。
また、例えばANAで世界一周航空券を買おうとすると、ANAに電話して4時間くらいは待たないとならない(Webサイトには2時間と書いてあったが筆者が経験したのは4時間まちである)。

スターアライアンスの世界一周航空券を毎回買っていたのだが、このサイトは実はルフトハンザが運営していて、ちょうどチケットを買おうというタイミングの時にWindowsが世界同時機能不全に陥っていて決済ができなかった。仕方なくANAに電話して買うことになったが、特にヨーロッパ圏内の場合、ルフトハンザの方が融通が効くのでANAだと若干不利だった面は否めない。また、ANAは電話でしか買えない。スーパーフライヤーズカードを持っていても関係なかった。

仮に年に二回、ヨーロッパとアメリカに出張するとすると、シーズンにもよるが、それぞれエコノミーでも20から30万円くらいかかる。しかし世界一周チケットを使えば50万円で住む。仮に三箇所に行こうとするともっとかかる。したがって、世界一周チケットはかなり割安ということになる。

出張族の間ではよく知られたチケットだが、それを実際に使うとなるとかなり過酷だ。
午前1時着、午前4時発みたいな接続は当たり前にあるし、経由地によっては事前にビザを取らなければならないこともある。
旅行会社のパックツアーではないのでトラブルがあっても自分で解決しなければならない。

絶えず移動しているので時差ぼけがなかなか治らない。
そんなわけで、筆者もこんな時間(日本時間AM4時台)にはすっかり目が覚めてしまって、この原稿を書いている。

今回の世界一周でもみるべきところはたくさんあったが、特に驚いたのは、やはり最終日のサンフランシスコで出会った自動運転タクシーWaymoだった。

このWyamoが、サンフランシスコのダウンタウンを、尋常じゃない数走っている。
Waymoを呼ぶのは簡単で、Uberと同じようにアプリからピックアップを依頼すれば良い。

すると程なくしてWaymoが現れる。
ジャガーのセダンをベースとした車両で、トランクはマシンで埋まっているのか使えなかった(勘違いかもしれないが)
ハリネズミのようにセンサーで武装され、周囲の状況をリアルタイムでトラックする。

車内にはカメラがあり、乗客がおかしなことをしないか見張っている。

巨大なコンソールには、周囲の自動車や歩行者の状況が表示され、きちんとセンシングされていることがわかる。

最初に乗ると感動がすごいが、何度か乗ると手放せなくなる。
Waymoが対応してない地域にはUberで行かなくてはならないが、これが実に辛い別れという気がする。

必然的に、人間の運転とAIの運転を比較してしまうが、AIの運転のほうが圧倒的に安定している。

また、WaymoはUberと同価格だが、チップを払うという余計な神経を使わなくていいというのが心理的に楽だという現地の人の声もあった。

我が国でも以前から自動運転の研究は盛んに行われてきた。
国内でもお台場や函館など、一部の地域限定ではあるが自動運転の実験が試みられてきたこともある。
決して技術的に劣っているわけではないのだがライドシェアすら自由化されていない我が国で、自動運転が普及するには法的・文化的なハードルが高い。

そして海外のUberドライバーに比べると、我が国のタクシー運転手の方々は皆優秀で、カーナビの導入以降は道を間違えることもほとんどないし、料金が極端に高いわけでもない。

日本のタクシーで主流になってきた背の高い車種やプレミア感のある車種もゴージャスな気分になれる。これは今の所自動運転にはない価値だ。

ただし、ずっと自動運転よりも人間の運転のほうが価値があり続けるかというとそれは甚だ疑問で、例えば人間の運転手の運転するタクシーではプライバシーを保つのが難しいケースもある。

仕事の重要な話、特に公開企業の業績に関わるような話は原則としてできないし、人間の運転手の場合、こっちが酔っ払っているように見えたら乗車拒否されることも普通にあり得る。特に金曜日の夜の繁華街などはタクシーが捕まらなくて閉口することもしばしばだ。人間の運転手は貪欲なので、水揚げ最優先のアルゴリズムで行動する。必ずしも顧客の利便性を優先するわけではない。そういう時に、人間の運転手があえてのせたがらない客を乗せるし自動運転タクシーの需要はすでにあると言っていいだろう。

また、人間の運転手相手だと乗る方も気を遣う。
筆者などは繁華街から帰る時に、たとえ歩いて2キロの距離であってもできるだけタクシーを使いたいことが多い。
その分早く帰れるし、早く帰ったら他のことに時間が使えるからだ。

その時にわざわざ「近くてすみません」と謝りを入れたり、場合によっては乗る前に「近くですけどいいですか?」と聞くこともある。
でもそもそもタクシーに気を使わないと使えないというのは変な話だ。自動運転なら、近くに行くのに使ったとしても舌打ちをされる心配はない。

アメリカでは長らくタクシー運転手が仕事を失った人のための社会の受け皿という側面を持っていたが、サンフランシスコの街には以前よりかなり減ったとはいえ路上で寝転ぶ人々がまだまだ居て、その脇を何台もの自動運転タクシーがすり抜けていく。

世界中で、時には当局を欺き、法律さえも変えながらUberはライドシェアというビジネスを急拡大させてきた。

ウーバー戦記という本に詳しいが、アメリカとて決して最初からライドシェアが合法だったわけではないし、それどころかUberは最初からライドシェアをやっていたわけですらなかった。最初は週末の夜にタクシーが捕まらないという金持ちの不満を解消するための完全に合法なハイヤー配車サービスにすぎなかったのだ。

Uberが素人の運転する車を紹介するライドシェアに乗り出したのは、ライバルのLyftが法律を無視してそれをやり始めたからだ。
アメリカという国は、とりあえず法律はともかくやってみて、後から裁判で決着をつけるということが繰り返し行われてきた。電動キックボードのシェアサービスのLimeもそうだ。YouTubeの著作権問題も、napstarも、Googleの検索も、全部そうである。

今やUberは全米各地で既成事実化してる。アメリカに日本でいう二種免許がないわけではない。しかし、その法律はUberを支持する圧倒的多数の市民によって次々と変えられた。Uberを一度展開した地域から、あるタイミングでUberをやめる。なぜやめるのかというのをユーザーに訴え、Uber反対派の議員を名指しし、市民に糾弾させ、法律を変える。そういう、革命家のような行動の積み重ねで世界に展開してきたのだが、我が国では利便性よりモラルが勝った。Uberは同じことを日本ではできなかったのだ。

しかしWaymoは、自動運転の技術と経験を日々積んでいる。
一日ごとに圧倒的多数の実働データを蓄積している海外の自動運転技術に、法的・文化的問題でぐずぐずしている我が国はついていけるのか。

普通に考えると、Waymoをそのまま輸入して都内で展開するほうが、ゼロから自動運転車を作るより早くて確実に思える。
むしろそのほうが、グズグスしてる日本の現状を強制的に変更する契機になるのかもしれない。日本は常に外圧で自らのやり方を変えさせられてきた。

問題はそれがいつ起きるのかということだ。
来年か、それとも10年後か。

10年も経てば海外の自動運転技術には永久に追いつけないほど致命的な差が生まれているだろう。
自動運転車は単なるタクシーの代替とは根本的に異なるものだ。

仮にトラックやバスが自動運転に移行すれば、流通や人の移動が大きく変わる。

深夜もバスが運行するようになって繁華街の人々は終電や終バスを気にしなくなるかもしれないし、長距離トラックが無人化されれば食品や生活必需品の価格はもっと下げられるようになる。経済が根本から変わるチャンスが無人運転には含まれている。

Amazonのようなサービスは翌日配達よりも早くなり、都内なら30分以内に大半の品物を届けてくれるようになるかもしれない。

また、自動運転の蓄積によって得られる膨大なデータセットは、それ以外のAIの構築にも大いに役立つ。
この最も重要な社会実装に、いつ、誰がどれだけ真剣に取り組むのか。果たして我が国にそれをやり遂げるだけの力を持った人間はいるのだろうか。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。

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