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メイカームーブメントと防衛テックの不都合な、しかし、地続きな関係

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メイカームーブメントと防衛テックの不都合な、しかし、地続きな関係

August 5, 2026

yomoyomo yomoyomo

雑文書き/翻訳者。1973年生まれ。著書に『情報共有の未来』(達人出版会)、訳書に『デジタル音楽の行方』(翔泳社)、『Wiki Way』(ソフトバンク クリエイティブ)、『ウェブログ・ハンドブック』(毎日コミュニケーションズ)がある。ネットを中心にコラムから翻訳まで横断的に執筆活動を続ける。

平和の本質は戦争をしないことにあるのではない。戦力を放棄することにあるのでもない。戦争について考えないことが許されることにある。
(東浩紀『平和と愚かさ』)

およそひと月後の9月5日と6日に、Maker Faire Tokyo 2026が開催されます。今年は、2014年以降ずっと会場だった東京ビッグサイトから有明GYM-EXに会場を移しての開催となりますが、やはり盛況が予想されます。

雑誌『Make: Technology on Your Time』日本版に翻訳者として参加していた関係で、ワタシはMaker Faire Tokyoの前身であるMake: Tokyo Meeting時代から参加してきましたが、ものづくりの祭典がこれだけ息長く続いていることに、関係者に深い敬意を払わずにはいられません。

メイカームーブメントの歴史については、FabSceneに今年3月に公開された記事「メイカームーブメントは死んだのか——「特別」が「当たり前」になるまでの20年」、そして6月に公開された動画「個人がハードウェアを作れるようになった、本当の理由」に詳しいですが、電子工作の参入障壁を著しく下げたオープンソースのマイコンボードArduino、部品を自己複製できる圧倒的に安価なオープンソース3DプリンターRepRap、そしてこれまでバラバラにものづくりに取り組んでいた人々に「メイカー」という共通のアイデンティティを与えた雑誌『Make』3つが生まれた2005年が、メイカームーブメントの始まりと言えます。

それから10年近く、メイカームーブメントは右肩上がりの成長を続けました。それに伴い、このムーブメントが可能にしたスタートアップも数多く生まれました。

2012年刊行の『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』において、メイカームーブメントから生まれた起業家たちがDIY精神を産業に高め、起業家や個人発明家のエネルギーと創造力が製造業を再構築する、とデジタルなものづくりとインターネットの融合が「新産業革命」を起こすとぶちあげたクリス・アンダーソンは、WIRED誌編集長を退任し、ドローンの開発・製造を行う3D Roboticsの経営に専念した時、「時代の風は我にあり」との自信があったのではないでしょうか。

しかし、2010年代も後半に入ると、雲行きが怪しくなります。思えば10年前に書いた「メイカームーブメントの幼年期の終わりと失敗の語り方」も、曲がり角に差し掛かったメイカームーブメントを扱っていますが、前述のFabSceneの記事にあるように、メイカースペースの閉鎖が相次ぎ、ハードウェアスタートアップはオープンソースハードウェアの理想を断念したり、量産の壁にぶちあたったりし、さらにはムーブメントに名前を与えたMake誌の版元であり、Maker Faireの勧進元であるMaker Mediaも事業を停止するなど、メイカームーブメントは「終わった」とまで言われてしまいます。

確かにメイカームーブメントは産業革命までは起こしませんでした。しかし、安価な部品、オープンな設計、そしてメイカー人材は、ものづくりのインフラとして残りました。その影響が鮮明に、そして不都合な形で現れている分野の一つが、ドローンです。

ムーブメントが挫折に至る前、ドローン市場に大きな可能性を見出したのは、当然ながらクリス・アンダーソンだけではありませんでした。B2Bテクノロジー専門メディアLight Readingの2015年の記事に、注目すべきドローンスタートアップ10社が選ばれています。果たしてこの記事に選ばれた10のスタートアップは、10年余り経った現在、どうなっているでしょうか?

結論を先に書くと、IPO(株式公開)を果たした企業はゼロで、閉業にいたった企業が4社(Airware、PrecisionHawk、Vires Aeronautics、SkyWorks Aerial Systems)、買収されて事業が残っている企業は3社(3D Robotics、Skycatch、Kespry)、現在まで独立して活動している企業は3社(Sunlight Photonics、DroneDeploy、Skydio)になります。

アンダーソンの3D Roboticsは、Light Readingの記事でも当時の期待を反映してか真っ先に挙げられており、民生用ドローン大手の中国企業DJIの有力な対抗馬として期待されましたが、2015年に発売した中心製品のSoloが出荷遅延や初期不具合でコケてしまい、翌年には工場やオフィスの削減と大規模な人員削減に追い込まれます。しかし、建設・測量向けのSite Scanに軸足を移し、売却先であるEsriのクラウド型ドローンマッピング製品に資産が残りました。ハードウェアスタートアップとしては失敗だったものの、ソフトウェア資産として事業が残っている点は、他の買収された企業にも共通します。つまり、買収されたのは「ドローン企業」という看板ではなく、業務データを取得して処理し、統合する能力だったわけです。

独立して事業を継続している3社にしても、地上ロボットと360度カメラによる視覚データを統合するロボティクス・AI企業となったDroneDeployや、商用展開の情報が見えず、研究開発色が強いSunlight Photonics改めSunlight Aerospaceは、もはやドローンの機体は製造しておらず、そうした意味で「ドローン企業」として独立して存続しているのは、Skydioだけと言えます。

先月、そのSkydioの共同創業者にしてCEOであるアダム・ブライのインタビューが、The VergeのDecoderポッドキャストで公開されており、その内容はとても興味深いものでした。

かつてSkydioは、画像認識と自律飛行によって、操縦者が細かく操作しなくても障害物を避けて飛ぶドローン製品を目指しましたが、やはり消費者市場でDJIの価格と製造規模に太刀打ちできず、技術優位だけでは収益化できませんでした。

そこでSkydioは、自律飛行能力の信頼性や米国国内での製造供給が評価される、公共安全、重要インフラ、そして防衛分野向けに事業の軸足を移します。米中間のサプライチェーン問題、安全保障問題も追い風になり、Skydioは国内製造と中国に依存しないサプライチェーンを強調して競争優位を得ます。昨年末には米陸軍が短距離偵察システムTranche 2としてSkydioのX10Dを選定しており、今年の4月にはシリーズFの1.1億ドルの資金調達を実施しています(企業評価額は44億ドル)。

中国に依存しないサプライチェーンに関しては、やはりドローンに注力する米国の防衛テック企業のアンドゥリル・インダストリーズの共同創業者であるパルマー・ラッキーもインタビューで強調してますが、アダム・ブライの以下の発言によると、Skydioの方針は、アンドゥリルほど地政学的な戦略に根差したものではなかったようです。

2014年当時のシリコンバレーの常識は、第一に「ハードウェアには手を出すな」、第二に「ハードウェアをやるなら、必ず中国に外注しろ」というものでした。

私たちは、その道を選びませんでした。正直に言えば、最初から地政学的な理由で米国内製造を選んだわけではありません。その道を選んだのは実用的な理由でした。米国では航空宇宙機器、エンジニアリング、製造が密接に結びついており、これらを並行して進めることで、より優れた製品をより迅速に作り出せると考えたのです。

今では、それが国家安全保障上の決定的な戦略課題となり、私たちにとっても重要な戦略的優位性になりました。米国内で10年間製造してきた経験が活きています。製造は難しく、ハードウェアは難しいですから。製造は間違いなく難しいんですよ。工場を運営し、製品のサプライチェーンを自社工場に統合することは、極めて複雑で厄介な取り組みですが、今ではかなり上手くこなせるようになっています。

ブライは、ドローンの歴史を大きく三段階に整理します。まず、ラジコン飛行機を電動化した娯楽用品であり、操縦に技能が必要だった「玩具としてのドローン」、次にGPSによる位置保持や高性能カメラが搭載され、やはり熟練した人間の操縦者が必要だった「空飛ぶカメラとしてのドローン」、そしてドッキングステーションと連携し、ネット経由で遠隔操作し、自動飛行させる「自律型インフラとしてのドローン」です。

この第三段階に至ると、もはやドローンは単体の製品ではなく、自律飛行ソフトウェア、クラウドサービス、各組織の業務システムとの連携、飛行データの管理などが一体化された、ドローンを使った業務基盤の販売へ移行しています。そして、ブライは自律飛行こそSkydioの技術的中核であり、ドローンは「空を飛ぶ自動運転車」に近いと表現します。

インタビュアーのニレイ・パテル編集長は、一般消費者向け市場から撤退し、(社会的なインパクトがあり、成長性が高いとブライが言う)企業や政府向けに事業ターゲットを変えたことで、中国企業であるDJIが排除された市場で高価格製品を販売できているだけではないか、多くの自治体ではDJIの安価なドローンで用が足りるのではないかと突っ込んでいます。

ブライは、現時点では中国のほうが製造業は優れており、深圳のような電子部品や金型のメーカー、そして製造技術者が集中するエコシステムが米国にないことを認めた上で、米国に同様のエコシステムが作れない「物理的法則」はないと主張します。またブライは、米国におけるDJIなど中国製ドローンの規制を大筋で支持しています。

続いてパテルは、警察のドローン利用について質問します。米国では年間約3億件の緊急通報があるが、通報から15~20秒で自律ドローンが到着する社会は今より良いものだとブライは明言し、警察用ドローンを「空飛ぶボディーカメラ」と表現します。ドローンは通報があった特定の場所へ飛び、そこだけを撮影するので、市民のプライバシーと警察活動の透明性を守りながら、より良い結果を得ることができるとブライは主張します。

この点で、自動ナンバープレート読み取りカメラを製造するFlock Safetyのような、固定カメラによる常時監視とは異なると言いたいわけです。このインタビューでもブライが語るように、Flock Safetyには撮影データの利用について会社が公に説明してきたことと実際の運用に齟齬がある疑いにより非常に大きな反発が起きており、アメリカ全土でその監視カメラが破壊されているのが報じられています

パテルは、Skydioのドローンが監視社会につながらないか重ねて問いますが、ブライはSkydioは「透明性ダッシュボード」を提供しており、ドローンが何の通報に対応し、いつどこを飛行し、カメラが地上のどの範囲を撮影したかを公開できると弁明します。しかし、米国では警察の軍事化が進み、軍が国内都市に展開されることもあるため、警察と軍事利用を明確に分けることは難しく、Skydioのドローンも現在は個別の通報対応のみだが、やがては常時監視や予防的警察活動へ拡大する可能性があるのでは、とパテルは警戒を示します。

そして、インタビューのクライマックスは、Skydioのドローンが兵器化されたら、その使用に制限を設けるかという質問です。Skydioは軍がドローンに武器を搭載するのを阻止する方針であるかのような印象を与えていたが、現在はその立場はとっていない、とブライは認めます。米陸軍は、Skydioのドローンに手榴弾投下装置を取り付ける実験を行っており、社内外でそれを止めるべきという意見もあったが、ブライはドローンの兵器利用の是非を民間企業が決めるべきではないという立場をとります。

自らの命を危険にさらしている人たち、そして究極的には民主的に選出された指導者に対して責任を負っている人たちこそが、どのような手段を用い、どのように活用するかという生死にかかわる決定を下すのに最も適した立場にある、という強い信念を私は持っています。シリコンバレーのオフィスに座り、自分たちはとても賢く、技術に精通していると思い込むのは簡単です。そして、その技術をXやYやZのような用途に使うのは邪悪だとか悪いと決めつけ、ポリシーを策定したり、使用を禁止しようとする。しかし、それは結局のところ見当違いだと思います。実際、危険なほど見当違いです。民主的なプロセスも、軍人の判断能力も十分に評価していない。軍には、こうした問題を専門に考える優秀な人々で構成された政策部門があります。彼らが常に完璧な判断を下せるわけではありませんが、この問題をとても重く受け止めているのです。

ドローンの軍事利用についての質問がインタビューのハイライトになった背景には、ウクライナ軍がドローンを使った無人機攻撃によってロシア軍に甚大な人的損害を与えているという報道も影響していると思われます。ブライもインタビューの中で、ウクライナ軍とロシア軍が使っているドローンは、一般消費者向け製品の系譜を強く引いており、一般消費者向けドローンのサプライチェーンは、軍用・企業向けドローンのサプライチェーンと非常によく似ており、両者を完全に切り離すのは難しいことを認めています。

FabSceneの動画「個人がハードウェアを作れるようになった、本当の理由」の最終章でも、ウクライナのメイカーたちが3Dプリンタと市販の電子部品を組み合わせ、FPVドローン(小型無人機)を量産しだしたことに触れています。一度は「死んだ」と言われたメイカームーブメントは、個人がモノを作る際に立ちはだかっていた障壁を著しく下げる「インフラ」になっていたわけですが、それは極端に言えば、個人でも兵器を作れる時代になったとも言えるわけです。

これをショッキングと言うのは間違っているかもしれません。3Dプリンタを使い、家にいながらにして銃を製造しようとした話は、既に2012年にありましたし、メイカームーブメントと軍事技術が地続きなのは、(Maker Faire Tokyoで毎年お見かけしないことがほぼない)SF作家の野尻抱介も明確に書いている通りです。

主催者はこんなこと言われたくないだろうけど、いまどきの戦時急増兵器はさながらMaker Faireだ。各地の戦場を見ていると、「自分でも半年集中すれば作れるな」という兵器がよく出てくる。
MFに出展するような人材をどれだけ持てるかがその国の軍事力を決める。人がいれば半年で作れるので。— 尻P(野尻抱介) (@nojiri_h) September 22, 2024

ドローンの軍事利用を本格的に扱った初期の書籍となると、グレゴワール・シャマユー『ドローンの哲学 遠隔テクノロジーと〈無人化〉する戦争』が挙げられると思いますが、思えばこの本は、ドローン戦争の非対称性、殺傷責任の希薄化、戦争と警察活動の境界の崩壊を既に見越していました。

そして、フランク・パスカーレ『New Laws of Robotics: Defending Human Expertise in the Age of AI』は、シャマユーの議論を踏まえながらも、自律兵器やAIによる軍拡について議論を拡げています。

パスカーレは、アイザック・アシモフのロボット工学三原則を置き換えるものとして、以下の新たなロボット工学四原則を提案します。

・ロボットシステムやAIは、専門家を置き換えるのではなく、補完すべきである
・ロボットシステムとAIは、人間のふりをしてはならない
・ロボットシステムとAIは、ゼロサムの軍拡競争を激化させてはならない
・ロボットシステムとAIは、常にその開発者、操作者、所有者の身元を明示しなければならない

ここでロボットやAIの軍事利用にもっとも関係するのは、三番目の「ロボットシステムとAIは、ゼロサムの軍拡競争を激化させてはならない」でしょう。パスカーレ自身、これが米国、ロシア、中国、イスラエル、英国などの自律兵器開発競争を念頭に置いたことを認めていますが、彼はロボットの自律性そのものが、より強力な攻撃(防御)兵器の開発につながり、そして人間の判断の排除に突き進む軍拡のフィードバックループを作り、人間同士を軍拡に追い込むことを危惧しました。

しかし、現在の防衛テック企業は、自律化は少人数での多数のシステム運用を可能にすることで抑止力を向上させ、結果として人命を護ることにつながるという、パスカーレと逆の因果関係を主張しています。

防衛テック企業でも軍拡についての主張には濃淡があり、アンドゥリル・インダストリーズは「比類なき抑止力(unrivaled deterrence)」を目指しており、勝てる規模まで軍拡を加速すべきという、パスカーレと正反対の立場になります。パランティア・テクノロジーズはもう少し穏当に米国の「意思決定上の優位性(decision dominance)」を重視しますが、やはり技術優位が抑止につながるという立場です。Skydioは、消費者向け市場という出自があるためか、件のインタビューでも人間中心の姿勢を強調していますが、ドローンの自律性に積極的なのは上記の通りです。

少し前にGoogle DeepMindの研究者アレックス・ターナーが、退社にいたった詳細な経緯をブログ記事にしています。米国政府が、自律型致死兵器や大量監視への利用制限を設けない契約を求めており、明らかに一線を越えているように見えるのに暗澹たる気持ちになりますが、先週末に録画しておいたNHKスペシャル「揺らぐ世界秩序 “平和国家”日本の防衛力強化はどうなる」を見ていて、防衛テックとの関わりはとっくに対岸の火事でなくなっているのを再認識させられました。

既に日本の防衛省はパランティア・テクノロジーズと契約を結んでおり、アンドゥリル・インダストリーズが日産自動車の追浜工場の取得に向けて協議していることが報じられています。特に後者に関しては、ロイターの記事にもあるように、戦後の日本の経済成長をけん引してきた自動車工場が防衛装備の工場に生まれ変わることは、平和国家を掲げてきた日本にとって象徴的な変化となるでしょう。今や、VCが日本の「再軍備」について明言するところまで来ています。

ワタシ自身は、データ主権の観点からパランティアとの契約には明確に反対です。またその一方で、日本は「死の商人」になることなく独自の防衛産業を残していく必要がある、という小泉悠の意見に与するものですが、果たしてその舵取りを今の日本政府に期待できるでしょうか。

冒頭でも書いたように、今年もMaker Faire Tokyoは、電子工作、ロボット、自作楽器など、さまざまなものづくりの試みやDIY技術に溢れ、盛況でしょう。この文章で書いた内容に反するようですが、願わくは、それが何よりも平和なもの、つまり「戦争について考えないことが許される」場になることを心から願います。

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