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初期ユーザーの評価は上々、ルーター型端末の登場以降の伸びに期待――NTTドコモ「Xi」の現状と展望

2011.04.22

Updated by Naohisa Iwamoto on April 22, 2011, 12:01 pm JST

次世代のワイヤレス通信サービスの担い手として注目されているのが、第3.9世代(3.9G)とも第4世代(4G)とも呼ばれる携帯電話方式「LTE」(Long Term Evolution)である。第2世代(2G)携帯電話のGSM/GPRSや第3世代(3G)携帯電話のW-CDMAなどと比べて、高速なデータ通信サービスを提供できる上に周波数利用効率を高められるメリットがある。

国内ではLTEを使ったサービスがNTTドコモから提供されている。2010年12月24日に提供が始まったばかりの「Xi」(クロッシィ)がそれだ。この記事では、商用サービスの開始から4カ月あまりが経ったXiの現状や、今後の展開計画などについて整理していく。

▼2010年12月24日にサービス提供を始めた「Xi」の概要(提供:NTTドコモ)
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3月末で2万5000契約超 エリア内での速さに評価

まず、Xiのサービス状況を整理しよう。Xiは前述のとおり2010年12月24日にサービスを開始した。データ通信速度は屋外では下り最大37.5Mbps、一部の屋内エリアでは下り最大75Mbpsを誇る。既存のFOMAハイスピードは下り最大7.2Mbps(2011年6月以降、14Mbpsに対応予定)であり、その高速性は群を抜いている。

サービス開始時のエリアは、東京、名古屋、大阪の市街地など、データ通信のトラフィックが高い地域。人口カバー率として7%からのスタートだ。当初は端末として、データ通信専用端末を提供している。

料金は、1年後の2012年4月30日までのキャンペーン期間中で、2年契約の「Xiデータプランにねん」の場合に月額上限額が4935円、通常の「Xiデータプラン」の場合に同6405円となる。キャンペーン終了後は、月間5GBまでの通信量が定額になる準定額制に移行する計画だ。

2010年12月24日にサービスを開始してから、Xiの契約数は着実に増えている。累計の契約数は2010年12月末が1200契約、2011年になって1月末に5000契約、2月末に1万1700契約、3月末には2万5600契約にまで伸ばした。

▼Xiのサービス提供以来の月間純増数と累計契約数(TCA事業者別契約数より)
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NTTドコモ 経営企画部 経営企画担当課長の大井達郎氏は「契約は毎月倍々以上の伸びで、口コミ効果などによりググっと上がっている。利用者の方々には好評をいただいている状況だ」と現状を分析する。一方で、当初の目標には及ばない結果だった。「2010年度末に5万契約、2011年度末に100万契約という目標に対して、2010年度末は未達だった。端末がデータカード型しかなく、ユーザーも利用シーンも限られる現状ではやむを得ない」(大井氏)。NTTドコモとしては昨年度末の数値で一喜一憂するのではなく、今後に期待するというスタンスだ。

▼NTTドコモ 経営企画部 経営企画担当課長 大井達郎氏。「利用者からの要望が強ければ、エリア展開を前倒しにする施策もあり得る」。
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インフラの整備は着々と進んでいる。2010年度内に1000局の目標を掲げていた基地局は、「1000局を上回る実績を達成した。エリアの拡充は計画通りに進んでいる」(大井氏)という。利用者からの声を見ると、「エリア内では高速に通信できるというプラスの評価が多い反面、サービスエリアが狭いことを指摘する声は多い」(大井氏)。始まったばかりのサービスでは一般的にエリアに対する不満が多く上がり、Xiもその例に漏れない。

しかし、3GのFOMAが始まったときと大きく異なるのが、エリア外での挙動だ。Xiの端末は、Xiのエリア外では3GのFOMAデータカードとして利用できる。Xiのエリアを出ても下り最大7.2MbpsのFOMAハイスピードを利用できるのである。大井氏は「Xiエリア内では高速に通信でき、エリア外でもカバーエリアの広いFOMAとして利用できるという、サービス全体として評判が良い印象」だと説明する。

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飛躍は端末のバリエーション増加以降 ルーター型やスマートフォン型を計画

落ち着いたスタートを切ったLTEサービスのXi。2011年度末に100万契約を目標に掲げるNTTドコモは、この後の展開をどのように計画しているのだろう。

まず端末のロードマップを再確認する。すでに発表、発売されているのはデータ通信専用の端末である。USB型のL-02Cはサービス開始と同時に発売された。ExpressCard型のF-06Cは本稿執筆時点(4月20日)では、4月発売予定とアナウンスされている。いずれもパソコンに直接挿して、データ通信を行うタイプの製品である。

▼Xiの端末提供・エリア拡充のロードマップ(提供:NTTドコモ)
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Xiの本領を発揮する製品として期待されるのが、モバイルWi-Fiルータータイプの端末だ。複数のWi-Fi機器を同時に接続して、インターネットアクセスができるモバイルWi-Fiルーターは、3GやWiMAXでデータ通信端末の主流になってきている。パソコンだけでなくタブレット端末やゲーム機などがWi-Fi接続機能を備える時代になり、モバイルWi-Fiルーターへの需要が高い。高速なXiならば複数の機器を接続してもストレスなく利用できる効果が期待できそうだ。NTTドコモでも、モバイルWi-Fiルーターが一般ユーザーにLTEを広める起爆剤になると考えている。「2011年度早々にモバイルWi-Fiルータータイプの製品を投入する計画で準備を進めている。この製品が出てから利用が大きく広がると予想している」(大井氏)。

その次のステップでは、音声通話もできるハンドセット型の端末が登場する。NTTドコモでは、2012年の冬・春商戦モデルとしての販売を計画している。例年通りならば11月ごろの発表で、世の中の流れとアプリケーションを考えるとスマートフォンタイプの製品としての登場が予想される。Xiの良さは、「ハンドセット型の端末でも十分に効果を感じてもらえると思う。Webサイトの表示の速さ、アプリやコンテンツのダウンロード時間の短さなどで体感できると考えている。速さをウリにしたサービスの提供も検討している」(大井氏)。

エリアの拡充については、現段階まで発表当初からの変化はない。2014年度に人口カバー率で70%まで引き上げる計画だ。エリアの充実に向けて「高トラフィック地域にLTEの基地局を打っていくのが基本方針。駅の近辺、高速道路周辺、一般道など、利用者が移動中でも高速につながるように動線上での拡充を第一に進める」(大井氏)と説明する。

その先のステップとして大井氏は、「押さえておきたいエリアは家庭。基地局の設置の仕方との兼ね合いもあるので簡単にはいかないが、利用者のライフスタイルの変化に追従するためには家庭での無線の利用をサポートできることも重要だと考えている」という。

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2014年度には1500万契約を計画 効率の高いLTEへのシフトへ

Xi対応端末を今後も増やしていくというNTTドコモ。当面はLTEの高速性などを示しやすい高機能端末からの展開だが、普及が進めば高機能端末だけでなく廉価版端末へのLTE導入も検討していく。2014年度の契約数目標は1500万。大井氏は「その時点でNTTドコモの利用者の4分の1程度を見込んでいる」という。データ通信や各種のサービスの利用が多いユーザーが中心となって、Xiの普及を牽引していくとの見方だ。

Xiのサービスエリアは前述したように2014年に人口カバー率で70%を目指している。ただし、その先にXiで100%を目指すとは言っていない。その理由として大きいのは、3GのFOMA網が全国に行き渡っていること。Xi端末はエリア外ではFOMA端末として利用できるので、端末が"利用できない"エリアはFOMA端末と同じレベルで少ない。投資効果を考えると、全国津々浦々までXi化する必然性はない。また、すべてのインフラをXiにシフトすることも現実的にはあり得ない。なぜなら国際ローミングに使われている3GのFOMA網を廃止してしまうと、海外からの渡航者にサービスを提供できなくなるからだ。そうなると、Xiはトラフィックの比較的多い全国の主要都市から周辺エリアまで拡大し、残りはFOMA網でエリアを補う形態に落ち着く可能性は高い。

端末やエリアの拡充でユーザーに訴求していくXiには、事業者としての狙いもある。「周波数利用効率が既存のHSPAにくらべて約3倍まで高められるLTEは、限りある周波数リソースを有効に活用できる技術。Xiへのシフトは、ネットワーク事業者の観点からも推進していきたい」という。

LTEならではの使い方を提案 音声やモバイルクラウドも視野に

Xiに代表されるLTEは高速・大容量・低遅延の3点が特徴とされている。普及を推進するためには、こうした特徴を生かしたネットワークサービスなどの提供が求められる。

高速性はブラウジングなどで日常的に体感してもらうほか、直近のサービスとしては「動画系のサービスなどでの訴求が中心となるだろう」(大井氏)。このほか、HSPAの4分の1程度に抑えられる低遅延を利用して、同時通訳や仮想現実感(AR)技術を応用した歴史教材などのアプリケーションも検討に上っているという。これらは、実際の情報処理はネットワーク側で行い、モバイル端末はその結果を表示するクラウド型のアプリケーションとなる可能性が高い。クラウドをNTTドコモのネットワークに取り込んだ形のモバイルクラウドを実現できれば、さらに高いレスポンスのサービスが提供できるという。

▼LTE時代にはネットワーク側のリソースと連携してサービスの高度化を目指す(提供:NTTドコモ)
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一方、現状のXiのネットワークではサポートしていない音声通信は、音声通信もできるハンドセット型の端末が登場したときには「CSフォールバック」という手法で対応する。これは、1台の端末でデータ通信はXiを主に利用、音声通信はFOMAを利用するというもの。こうすることで、広いエリアで音声通信の利用を担保する。

技術的には、LTEが利用するオールIPネットワークの上で音声通信もまかなう「VoLTE」(Voice over LTE)の開発も進んでいる。NTTドコモでは「音声もデータもすべてLTE化できれば、周波数利用効率は高くなるメリットはある」(大井氏)としながらも、現段階では具体的な計画などは明らかにしていない。商用網での実証実験などもまだ行っていない段階で、技術的な課題をまだ洗い出せていないという。将来の方向も含めて、検討中だそうだ。

未曾有の大震災で、携帯電話のネットワークには、災害時に弱点があることが露呈してしまったが、LTE化が進むと変化はあるのだろうか。大井氏は、断定的なことは言えないと前置きした上で、「ネットワーク構造が既存の携帯電話システムと異なるので、輻輳(ふくそう)などを起こしにくい要因になる可能性はある。音声もLTE化したVoLTEになれば、回線交換の3G以前の音声通話よりも災害時などに安定した通信ができるとも考えられる」とコメントしてくれた。

さまざまな側面での展望が開けるXi。NTTドコモは将来のエースに大きく期待をしながら、じっくりと育てていくようだ。

201104221201-6.jpg大井 達郎氏(おおい・たつろう)
株式会社NTTドコモ 経営企画部 経営企画担当課長。LTEサービス「Xi」(クロッシィ)の推進業務を担当。


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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。