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7月24日「アナログ停波」が持つ意味(前編)

2011.08.24

Updated by WirelessWire News編集部 on August 24, 2011, 18:30 pm JST

7月24日、東日本大震災の被災地3県を除く全国44都道府県で、アナログテレビ放送が終了した。視聴者はテレビというメディアのデジタル化をどのように理解し、節目となるこの日をどのように迎えたのか。独自に調査を実施した東海大学文学部教授 水島久光氏に、ご寄稿をいただいた。前後編に分けて掲載する。(編集部)

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(cc) Image by Rodrigo Carvalho

技術―ラチェットと連続性

2008年に『テレビジョン・クライシス』(せりか書房)という本を書いた。その原稿を編集者とやり取りしているときから、僕は「この本の賞味期限は、2011年の7月24日までだからね」と半ば冗談っぽく言い続けてきた。

僕は単純に技術決定論の立場をとるわけではない。しかし"決定的"とまではいわないが、とりわけコミュニケーションやメディアの問題を考えるとき、それがどんなテクノロジーに支えられているかは、かなり重要な意味をもつ。テレビをはじめとするマスメディアには、その機能を発揮するために、大量のオーディエンスに対して一方向かつ同時的にメッセージを発信する技術の組み立てが必要だったのだ。

デジタル・ネットワークが世界を覆い、新しい物好きの人々は口々に「マスメディア」の時代は終わったというようになった。確かに技術の歴史には「ラチェット」があって、一度回った歯車は、二度と元には戻らない。ではその技術の上に乗ったメディアも役目を終えるのだろうか。

僕はどうも、軽々しくそうした気分にはなれないでいる。その理由を、先の本では訴えてきた。メディアは確かに技術の産物ではあるが、その一方で社会を構築する装置でもあるからだ。とりわけ「マスメディア」は、これまで民主主義の理念とともにあった。どれだけその実現に寄与してきたかと問われれば、クエスチョンがつく部分も少なくはない。だが結果はどうあれ、制度を見る限りそのことが期待されてきたのは事実だ。というか、そのこと自体がまだ十分検証されていない。

新しいメディアが、その責務をどうやって引き受けるのか。そもそもそれはできるのか、全く未知数だ。もちろん端から「ダメだ」と決めつけているわけではない。民主主義のあり方自体も、見直す必要も出てくるだろう。でも新しい技術が新しいメディアのかたちを要求するのならば、せめて一からの「ガラガラポン」だけは避けたい。時代は変わっても、社会システムの連続性は確保されなければならない―それが歴史的理性なのだと思う。

2011年7月24日、テレビの送り手にとっても、既に受信可能な状況を手に入れた視聴者にも、取り立てて何かが起こるわけではない。地上デジタル放送への移行は2003年12月から順次進められてきたことだ。むしろこの日は、地デジ化の完了というよりも、アナログ放送の終了ということの方が大きな意味をもつ。なぜならサイマル放送が続いている限り、デジタル技術は全面開花することはできなかったからだ。つまり、この日にこそ放送技術の「ラチェット」は回ったと考えるべきだ。

2001年に改正電波法が可決されて以来、国、自治体、放送界、家電など関連事業者とその団体は、無事に「移行」が完了することをひたすら目指して作業を続けてきた。その点でいえば、いま関係者は皆、ほっと胸をなでおろしていることだろう。しかしこの間、「移行」が何を意味しているのか、「移行後」はどのようなメディア環境を構築すべきなのか―技術基盤が完全にデジタル化しても、「テレビ」は「テレビ」であり続けることができるのか―などの大事な問題について、十分に議論されてきたといえるだろうか。思い返してみれば、制度の見直し、広告ビジネスの方法など、さまざまな課題が棚上げになってきたといえる。...にも拘わらずこの静けさ。ある意味、僕らは歴史の節目に立ち会っている。なのに、なぜ誰も声を上げないのだろうか。

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とりあえず調べてみよう

アナログ停波に向かう日々の中で、僕はこの「節目」をどう理解すべきかについて考え続けてきた。しかしまず悩ましかったのは、実態把握の難しさだった。メディアの問題であるにも関わらず、ほとんど情報が出てこない。総務省とNHKが定期的に調査を行っていたようだが、その主たる狙いは未対応世帯数の把握にあったようで、新聞記事以外プレスリリースもwebには上がっておらずよくわからない(新聞記事の例:毎日新聞7月7日)。しびれを切らせた僕は、友人の勧めもあり、7月24日当日を挟んだ前後に、自前で簡単なネット調査を行うことにした。

まずは単純に、「移行」の実態を把握しておきたかったということがある。先の総務省とNHKの調査によれば6月末段階で、約29万世帯が未対応。この数字をもとに業界では、停波当日の未対応世帯は約10万に上ると推計していた。この数値の検証ももちろんとも重要だが、僕はなによりその内訳を知りたかった―単に対応が遅れただけなのか。何か移行の障害があるのか。それとも本当に"新しい物好き"たちが言うように、この出来事はテレビが見捨てられる契機になるのか。

この日を境に物理的に受信不能状態になる人たちばかりではない。アナログ停波と完全デジタル化は、テレビを見続ける人々のメディア・コンタクト(接触)の形態を、それ以前と違うものに変えていくはずだ。おそらく今後は、時系列でその変化を追いかけていく必要があるだろう。そのためにもこの「節目」時点の実態を、ベンチマークとして押さえておくべきだ。

しかしそれ以上に、僕はこの「静けさ」の意味を探りたかった。人々はこの「移行」をどのように受け止めてきたのだろうか。この10年間には、少なからず紆余曲折があった。それは単に「周知」が上手くいったか否かという次元に回収されるものではない。「テレビ」というメディアそれ自体の存在論的地位にかかわる問題として振り返る必要があるのだ。

ほぼ100%の人々に普及し、民主主義への寄与を期待された社会装置だったはずのテレビ。しかしそれは一方で、怠惰な享楽と暇つぶしにいざない、メディアに無自覚な時間消費形態を創出するという顔も持っていた。

実態はどちらに振れていたのか。そして今日のソーシャルメディア旋風が巻き起こした"一億総ユーザー化"の流れは、デジタル時代の社会化(socialization)システムを、どのように形作っていくのか―そこに落とし穴はないのか? マスメディアとの関係は?...。

最近のネット調査は価格的にも、設計のしやすさの面でも非常に手頃になっている。調査会社(マクロミル)に最初の問合せをしたのが7月15日。設問10問以内、男女20〜60代以上(20〜30代、40〜50代、60代以上の6セル各50サンプル割り付け)計300サンプルでの実施を決め、18日に調査票案を送り、21日〜22日の"直前状況"での実査が可能となった。また"駆け込み"対応や、移行後の不具合の発生等の状況、また重要な項目に関してはこの「節目」をまたいだ数値の検証も必要と考え、10日を目安に同じサンプル数で(直前調査の対象者を除き)事後調査も行うことにした(実施日は8月4日〜5日)。

なお事前調査の実施直前に、調査会社(マクロミル)が自社で「地デジに関する調査」(実査日7月14日〜16日;有効回答数520)を行っていたことが判明。調査項目の見直しの際に大変参考になったことを付記しておく。(公開調査データはこちら

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調査項目

事前調査、事後調査の質問項目は、以下のとおり。

●事前調査

Q1 現在、ご家庭において保有しているテレビの台数と、地上デジタル放送移行に対応している台数(地上デジタル放送を見ることができるテレビ:今現在)を教えてください。また、その内何台を地上デジタル放送への対応のために購入したかお答えください。

Q2 ご家庭での地上デジタル放送への対応方法について、当てはまるものを全て選択してください。

Q3 ご家庭での地上デジタル放送への移行について、いつ頃対応をしましたか。対応した一番早い時期についてお答えください。まだ何も対応していない方は、今後の予定についてお答えください。

Q4 地上デジタル放送への移行に対応したきっかけは何でしたか。当てはまるものを全て選択してください。

Q5 地上デジタル放送に対応して、すぐ地上デジタル放送を見ることができましたか。

Q6 あなたが地上デジタル放送への移行が必要なことをはじめに知ったのはいつですか。

Q7 なぜ地上デジタル放送に移行しなければならないか、あなたはその理由をご存知ですか。

Q8 地上デジタル放送に移行しなければならないことについて、あなたはどのようにお考えですか。当てはまるものをいくつでも選択してください。

Q9 今後、テレビとあなたとの付き合いかたはどのように変化していくと思いますか。当てはまるものをいくつでも選択してください。

Q10 あなたと同居の家族構成をお尋ねします。当てはまるものを一つお選びください。

●事後調査

Q1 現在ご家庭で保有しているテレビについて7月24日までに、地上デジタル放送への対応をなさいましたか。最も当てはまるものをお選び下さい。複数ある場合はメインで視聴しているテレビについてお答え下さい。

Q2 地上デジタル放送への対応をした方にお伺いします。その後、不具合なく視聴できていますか。複数ある場合はメインで視聴しているテレビについてお答え下さい。

Q3 現在、ご家庭に地上デジタル放送が視聴できなくなったテレビ受像機がある場合、今度どのようにする予定ですか。(複数回答)

Q4 地上デジタル放送の新しい機能について、既に体験されたものを全てお選びください。またその中で、便利である・役に立つとお感じになったものについて全てお選び下さい。

Q5 地上デジタル放送への移行に関して、国、自治体、放送局・電器メーカーなど、企業・関連団体の告知や情報提供、移行支援などの対応は十分だったと思いますか。

Q6 各放送局では、アナログ放送の終了に併せて特番を放送しました。ご覧になりましたか。ご覧になった方は、ご感想として当てはまるものを全てお選びください。

Q7 地上デジタル放送に完全移行してから、テレビとあなたとの付き合いかたは変わりましたか? 当てはまるものをすべてお選び下さい。

Q8 なぜ地上デジタル放送に移行しなければならなかったか、あなたはその理由をご存知ですか。

Q9 地上デジタル放送に移行しなければならなかったことについて、あなたはどのようにお考えですか。当てはまるものをいくつでも選択してください。

Q10 あなたと同居の家族構成をお尋ねします。当てはまるものを一つお選びください。

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事前のQ2,3,4、事後のQ1は直接的には対応状況を聞いているが、どれほど「意識して」それを行ったかを把握する意味がある。また実態についても詳細にデータを取ることを考えた(NHKと総務省の調査では、世帯単位の対応状況の数値しか出していなかった)。

今や家庭では、テレビは複数台を所有し、個室視聴は当たり前。そのすべての受像機について「地デジ」化がおこなわれたかを事前Q1では訊いている。もし部分的にしか対応していなかった場合、そのメインテレビは再び家族視聴を復活させることはできるのか。

認知や行動の時期についても事前のQ3、Q6で尋ねているが、その区分は均等に設定していない。10年間にわたるプロセスの中に、2003年12月(三大都市圏で送波開始)、2006年12月(全47都道府県庁所在地で開始)、2009年5月(エコポイント制度導入)2010年8月(完全移行1年前)という有意なポイントを設定し、それとスコアとの関係を見た。

事前調査のQ9には、今後のテレビとの関係性がどう変化するかを推し量る狙いがあるが、事後調査ではそのあたりを詳しくQ4とQ7で詳しく訊いた。またQ3では対応しなかった受像機の使い道(テレビ以外のモニター)の可能性も尋ねている。

また事前調査のQ6,7,8、事後調査のQ5,6,8,9,は、「地デジ化」そのもの、あるいはこうした「節目」に際してどのようにテレビについて考えているかについて尋ねている。今回の政策遂行は、プライベート空間に埋め込まれたメディアの社会性が、どれだけ人々に意識されているかをみるいい機会であると考えた。

なお、ネット調査を用いたことや、サンプル数の問題から、数値には微妙な偏りが出ることは当然危惧される。よって補正の必要が出たときのために、別途留め置きの調査票も100程度回収したが、結果を見て特に必要がないと判断した。

以下、結果と分析については、後編で。

続く

 
文・水島 久光(東海大学文学部教授)

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