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世界は日本の一挙手一投足を見守っている──エリクソン・ジャパンのヤン・シグネル社長

2012.03.02

Updated by Naohisa Iwamoto on March 2, 2012, 17:30 pm UTC

スペイン・バルセロナで開催されている「Mobile World Congress 2012」(MWC 2012)には、世界各国のベンダーや通信事業者、サービス事業者が集まり、ビジネスの拡大を狙っている。MWC 2012の会場で、エリクソン・ジャパンの代表取締役社長に1月に就任したばかりのヤン・シグネル氏に、グローバルから見た日本のモバイル産業の状況について聞いた。

──日本のモバイル産業は、グローバルからはガラパゴスに見えているのでしょうか。

▼エリクソン・ジャパン代表取締役社長のヤン・シグネル氏
エリクソンAPACイノベーション・センター所長、エリクソンCEO上級アドバイザーも兼任する
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シグネル社長:そんなことはありません。日本のモバイル産業の動向には、グローバル企業が常に注目しています。なぜなら、日本は先を行く市場だからです。日本がどんな動きをとるか、日本で何が起こるかをウォッチしておくことは、今後の自国やグローバルの動向を知る情報源になるのです。「閉じて独自の進化をする日本の市場には興味がない」などといったことはありません。

日本は常に先を進んでいます。そのために、先行している分だけのリスクを負わなければならない。グローバルのスタンダードとは、必ずしもベストの選択肢を指すわけではありません。そこには政治的な面も色濃くあります。先行した結果、日本の後に世界が付いてこないこともあるでしょう。しかし、そのリスクも先行しているからこそのものだと認識すべきです。

──日本では、スマートフォンの普及によってトラフィックやシグナリングの爆発が問題になって来ました。

シグネル社長:いま、世界でトラフィックなどの増加が現実の問題になっているのは、米国、日本、韓国といった地域でのことです。ヨーロッパはそれらの地域に比べると、ペースがスローだと思います。エリクソンでは、2015年にはトラフィックは現状の25倍にも膨らむと推測しています。データそのもののトラフィックも、通信を制御するためのシグナリングのトラフィックも、いずれも増え続けるのです。これは世界で共通する問題です。無線網における容量の確保と、IP網の最適化の双方が必要でしょう。無線網では効率の高いLTEへの移行や、セルを分割し基地局の数を増やすといった対策が考えられます。

一方で無線網を支えるIP網のオーバーホールも急速に必要になってきています。今後スマートフォンのマルチタスク化が進むと、問題はより深刻になるでしょう。Facebookのアプリがいつもマルチタスクで動いていて、常にネットワークとやり取りする可能性があるのです。要するにスマートフォンが常に基地局を探知し続けることになりますから、IP網には一層大きな負担がかかります。

ただし、日本の状況は他の国に比べると良いように思います。日本には光ファイバーが全国に敷設されているという大きな資産があります。これをどう使いこなすかさえ考えれば、解決に近づくと考えています。ルーターなどのバックホールの機器は、うまく状況をみながら設置をプランニングしていけばいいのです。ただし、成長は思っているより早いということを念頭に置かなければなりません。

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──事業者は収益を増やすために、1人1台を超えた利用を模索しています。

シグネル社長:先進国の携帯電話サービスの加入者は、もう大きくは増えないでしょう。しかし、「加入者」でなく「加入」の数を見れば、まだまだ伸びる余地があります。これがビジネスの原動力になります。M2Mが注目されるのは、まさにそのためです。ネットワークに接続してメリットのある機器は、すべてつなぎ込みたいと考えているのです。その数は500億にも上るでしょう。

▼MWC 2012のエリクソンブースの入り口。広大なブースにテクノロジーからマネタイズまで多くの展示がある
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ただしM2Mと一口に言っても、タイプの異なるものが含まれています。オンラインカメラで映像を送り続ける場合と、自動販売機の欠品情報を送信するソリューションでは、トラフィックがまったく異なります。ピークアワーに送信しなくていい自動販売機型のデータは、事業者から見ればすでに投資が終了した設備から生み出される収益になります。ピークアワーの送信が必要で追加投資がかかるM2Mデータと、ピークアワー以外の送信による利益を生み出すM2Mデータの間のバランスをとることが重要だと考えています。

M2Mのソリューションは数限りなくあると思います。ネットワークに接続した「コネクテッドカー」などもその1つでしょう。現在、M2Mの広がりを制限してしまっている要因は「想像力」です。実際には今まで以上に多くの成功分野が考えられるのではないでしょうか。

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──事業者は今後、どのような点で競争力を確保すればいいとお考えですか

シグネル社長:先ほども言いましたが、加入者はもう簡単には増えません。事業者間で加入者の取り合いが起こるわけです。そこで重要なのは、どれだけユーザーに優れた体験を提供できるかということです。手厚い待遇を提供できれば、ユーザーはその事業者から離れ難くなります。

▼MWC 2012で展示していたVIPカスタマーコールのデモ。顧客を取り巻く通信状況をグラフや地図を使って即座に知ることができる
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そこで重要になってくるのが「OSS/BSS」(Operation Support Systems/Business Support Systems)です。ユーザーが何かの問題を感じてサービスセンターに電話をかけてきたとき、すぐにそのユーザーがどこにいて、どんなトラブルが発生しているのかがわかれば、対応の仕方が変わってきます。さらに瞬時に助教の分析や解決策の提案ができれば、よりよいユーザー体験を提供できるでしょう。エリクソンはこの分野に力をいれて、事業者に提案しています。

こうしたジャンルでも日本から学ぶ点は多いと考えています。エリクソン・ジャパンは日本のユーザーへのきめ細かいエクスペリエンスの提供にとどまらず、そこから得られたノウハウをグローバルのユーザーサポートにも広げていく役割も持ちたいと思います。スマートフォンへのシフトと、LTEの普及は、いずれもグローバルへの移行です。これらが日本のモバイル産業を再度グローバルの舞台へと立たせる力になると考えています。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。