先日イギリスのある大手ソフトウェア会社の方とお会いしました。この会社、ケンブリッジにあり、ケンブリッジ大学の研究者や卒業生が中心になって立ち上げた会社で、世界中の大企業にあるソフトウェアを提供している有名企業であります。この会社の製品は、投資銀行や中央官庁などでも使われおり、業界では知らない人はいない、と言われています。
同社はケンブリッジ大学だけではなく、米国の超有名大学やシリコンバレー界隈から人を採用し、少数精鋭で製品を開発してます。コストカットのために、インドやエジプトなどには開発作業を外注していません。品質を保つために、殆どの作業をケンブリッジ周辺で行っています。
開発に関わる人材はどこの会社も欲しがる精鋭ぞろいですが、同社はスタッフの退職率が低いことで有名です。それには秘訣があるのです。この会社、就労環境を極力自由にし、開発者が床でゴロゴロしながら仕事しようが、仕事中にゲームをやろうが、何を食べていようが、どんな服装だろうが、自由にしてるというのです。
職場には無料のゲームや食べ物が沢山用意されてます。オフィスのインテリアには莫大なお金をかけて、会社にいたくなるような環境を作り上げます。組織体制は可能な限りフラットにしています。
また、ケンブリッジ大学の卒業生を採用したいので、オフィスはケンブリッジに置いています。イギリスのテクノロジー系の会社には、コストカットのために、土地の値段の安い所に移転する会社も少なくないのですが、この会社は、優秀な人に引っ越す手間などをかけなくないので、あえて会社を移転しないそうです。
面白いなと思ったのは、この会社、社員旅行をやっていることです。クリスマスや様々な季節の行事には、会社負担で外国まで旅行に行き、従業員の仲間意識を高めているそうです。強制ではないのですが、楽しい旅行なので殆どの人は参加するそうです。社員旅行というよりも、部活やサークルの合宿の様な雰囲気の様です。
このように、従業員がなるべく自由に働ける様にすることで、楽しい雰囲気を作り、転職しない環境を作っているのです。もちろんそれなりの報酬も払っていますが、高い報酬を払っても転職する人は転職します。EUの調査でも、仕事の満足度は、仕事のペースややり方や働く場所を自由に決められたり、自立的に進められればられるほど高い、という結果がでています。また、高い報酬から得られる幸福は一時的な物で、仕事のやりがいや職場の雰囲気の方が、従業員の幸福度に貢献する、という調査もあります。
実際この会社には優秀な人が留まっていますので、正しいことをやっているのでしょう。
ちなみに、この様に従業員に取って快適な職場環境を作るにあたり、この会社は、「職場環境を作ることを専門にやっているコンサルティング会社」に仕事を依頼しています。どんな食べ物を提供するべきか、どんなイベントをやるべきかなど、様々な会社でやってみて成功したことを知っている会社の「知識」や「ノウハウ」にお金を払っているのです。
日本だと人事部がお金をかけるのは、あまり意味のないコミュニケーション研修や、従業員を3日間監禁して洗脳する様な研修ですから、発想が違いますね。
「グローバル人材」を引きつけたいなら、日本の会社は、職場環境を改善しないといけません。優秀な「グローバル人材」は、朝礼があって、ぶすっとした顔の中年がドブネズミ色のスーツを来て安物の事務机に座っていて、漫画を読んでいると怒られて、サービス残業という名前の無償労働があって、宴会は愚痴大会で、みんな不幸、という 「強制収容所のような職場」には、いくらお金を積まれても来ないのです。
英語を公用語にする暇があったら、無償労働や従業員の虐待を止めたらどうでしょうか。
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