[Deloitte Mobile Survey 2012 #4]携帯電話料金 〜スマートフォン・シフトがもたらす新たな料金モデルの可能性
2012.12.04
Updated by WirelessWire News編集部 on December 4, 2012, 16:30 pm JST
2012.12.04
Updated by WirelessWire News編集部 on December 4, 2012, 16:30 pm JST
デロイトが独自に行った、モバイルコミュニケーションについての5大陸15ヶ国に渡るオンライン調査「2012年グローバルモバイル消費者調査」の結果について、特に新興国と日本について焦点を当てて報告するこの連載、第4回目になる今回は携帯電話料金に関して得られた調査結果を中心に報告する。
本調査は15カ国26,000人を対象とした調査であるが、本報告では成長著しい新興国の中でもアルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコの結果を中心に記載している。なお、本調査はオンライン調査であることもあり、同新興国の結果については比較的、高所得かつアーリーアダプター中心の回答であることに留意されたい。
まず初めに、各国の月額の携帯電話利用料を比較してみよう。
意外なことに日本を含めた比較対象国の中でブラジルが最高額(月額5,893円)という結果が出ている。一方で、ブラジルの主要キャリアが発表しているARPU(Average Revenue Per User、1契約あたりの月額売上)は本調査結果ほど高くなく、20-30レアル(1,000円程度)のレンジで収まる。この違いは、本調査の対象が所得の高い層に集中しており、通話時間やデータ通信の上限が大きい高額プランに偏っているためであると推察される。実際にブラジルのスマートフォンの料金プランでは、日本円に換算すると数万円となるケースもある。本調査でも、月額利用料が301レアル(約12,000円)以上との回答が、スマートフォンユーザーの約15%を占めている。本調査対象に所得が高い層が多いことを鑑みると、ブラジルほどではないにせよ同様の傾向は他の新興国にも該当すると考えられ、データを分析する上で注意が必要である。
また、この事象から都市部の富裕層は先進国と同様に携帯電話をヘビーユースする一方で、郊外の所得が低い層は通信費を節約に励むという、携帯電話の利用スタイルが二極化している様相が窺われる。通信費の節約術としては、一人が複数のプリペイド方式のSIMカードを購入し、発信先の通信キャリアに合わせてSIMカードを切り替えることで通信費を節約する方法がポピュラーであり、新興国向けの携帯電話では複数のSIMスロットを有するデュアルSIM対応商品も珍しくない。
なお、現状は高ARPUのヘビーユーザーは限定的であるが、今後の新興国における上位中間層・富裕層の急増を背景に、携帯電話のヘビーユースする高ARPU層は拡大していくものと考えられる。
▼図表1 : 携帯電話利用料(月額)
換算為替レートは以下の通り
ARS1=17.13円、R$1=39.19円、PESO1=6.00円、RUB1=2.48円、R1=9.54円、TRY1=43.80円 (2012年8月末時点)
出典 : デロイト 2012年グローバルモバイル消費者調査
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続いて、スマートフォンとフィーチャーフォンに分けて月額利用料を見てみよう。図表2に顕れているように、どの国でもスマートフォンがフィーチャーフォンの月額利用料を上回っている。ARPU上昇率の平均は約44%であり、先進国と同様に新興国においてもフィーチャーフォンからスマートフォンへの移行はARPU向上に有効であることが分かる。
各国・地域ごとに事情は異なるが、一般に新興国では加入障壁の低いプリペイド方式を前提とし、契約者基盤拡大を優先してきた。契約者は富裕層〜上位中間層だけでなく下位中間層〜低所得者層にまで拡がり、価格競争の激しさが増す中で、結果的にARPU低下が経営課題として浮かび上がっている。今後、新興国の通信キャリアは、下位中間層および低所得者層における新規加入拡大を継続する一方で、ARPU改善に向けて富裕層および上位中間層をターゲットにスマートフォン・シフトを推進するという、所得層を意識したセグメンテーションが重要となる。
注:所得層について、一般に世帯年間可処分所得別に以下のように区分されており、本稿も以下の区分に沿って用語を使用している。
富裕層:35,000ドル以上
上位中間層(アッパーミドル):15,000ドル以上〜35,000ドル未満
下位中間層(ロウアーミドル):5,000ドル以上〜15,000ドル未満
低所得者層:5,000ドル未満
▼図表2 : スマートフォン・フィーチャーフォンでの携帯電話利用料(月額)
換算為替レートは以下の通り
ARS1=17.13円、R$1=39.19円、PESO1=6.00円、RUB1=2.48円、R1=9.54円、TRY1=43.80円 (2012年8月末時点)
出典 : デロイト 2012年グローバルモバイル消費者調査
では、スマートフォンの中でも、OS別のARPUを比較するとどうだろうか。結果は、日本を除く全ての新興国でiOSのARPUがAndroidのARPUを上回っている。この違いは、世界の携帯電話の端末メーカーが展開している新興国向けローエンドAndroid端末の普及が影響していると考えられる。低価格なAndroid携帯を選ぶ、価格に敏感な消費者は利用料金も低く抑えるため、結果的にAndroidのARPUが低くなっていると推察される。連載の第二回「デバイス普及状況と機種」でも言及しているように、iOSを搭載するiPhoneは新興国にとっては高額な端末であり、購入者は経済的な余裕がある層に限られるため、利用料も高くなる傾向にあるようだ。
なお、アルゼンチンにおけるiOS利用者について十分な調査結果が得られなかった。背景として、アルゼンチンでは国内で製造されていないスマートフォンが禁輸措置の対象となり、iPhoneはアルゼンチン国内では入手不可能な状態にあることが影響していると考えられる。
▼図表3 : OS別でのスマートフォン利用料(月額)
換算為替レートは以下の通り
ARS1=17.13円、R$1=39.19円、PESO1=6.00円、RUB1=2.48円、R1=9.54円、TRY1=43.80円 (2012年8月末時点)
出典 : デロイト 2012年グローバルモバイル消費者調査
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スマートフォン・シフトが進む中、データ通信量と料金体系の関係は消費者、通信事業者の双方の関心が高まっている。消費者にとっては、スマートフォンは常時のデータ通信を前提としているため、携帯電話利用料におけるデータ通信が与えるインパクトは大きくなっている。また、通信事業者にとっては、スマートフォン・シフトによる加速度的なトラフィック増大、ネットワークの輻輳という難題に直面しており、従量制への移行を含めデータ通信に対するプライシングの見直しが喫緊の課題となっている。
データ通信量を基準とした課金方式に対する消費者受容性に関する調査結果を図表4に示す。この結果から主に2つの特徴が認められる。
▼図表4 :望ましいデータ通信量を基準とした課金方式
出典 : デロイト 2012年グローバルモバイル消費者調査
一つ目は、消費者の「無制限データ通信の定額プラン」への意向が強いことである。本調査では、何らかの形でデータ通信量が無制限のプランを望む割合が全ての国で50%を超えている。音声通話が時間という知覚可能な指数に基づきチャージされることと異なり、データ通信はアクセスするコンテンツによって異なる、消費者自身でのコントロールが難しい通信量に従いチャージされる。そのため、日々のデータ通信量を気にしながら利用することは、消費者心理への負担が大きいと考えられ、「無制限データ通信の定額プラン」の利用意向が強い結果に繋がっていると考えられる。
二つ目は、無制限且つ定額の対象を「データ通信全体」ではなく、「特定のサービス・アプリケーション」に局限することを望む消費者が多いことである。この点について、次項にて詳細に見ていく。
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「よく使うサービスやアプリごとにデータ通信量無制限の月額利用料を支払うことが望ましい」と答えた回答者に対し、対象としたい具体的なサービス・アプリケーションを尋ねた結果が図表5である。
▼図表5 : 定額料金で利用したいサービス・アプリケーション
パーセンテージは各国の回答者比率を示す
出典 : デロイト 2012年グローバルモバイル消費者調査
利用意向の高いサービス・アプリケーションとしては、SNS(Social Networking Service)、動画共有サービス、VoIP(Voice over Internet Protocol、インターネット経由での音声通話)、IM(Instant Messenger、インターネット経由で短いリアルタイムメッセージをやりとりする)、ウェブメールが目立つ。一般に通信キャリアのネットワーク上で展開されるサービスはOTT(Over The Top)サービスと呼ばれているが(用語解説)、OTTサービスとネットワークのバンドル・プランとして実現性のあるコンビネーションは何か、考えてみよう。
最も実現性が高いコンビネーションは、VoIP、ウェブメール、IM、SNSといったOTTコミュニケーションサービスであろう。VoIPは音声通話、ウェブメールは携帯メールサービス、IMはSMSを代替する。また、SNSはメッセージやチャット機能を提供し、携帯メールサービスやSMSを代替するだけでなく、友人リストは携帯電話の連絡先も代替しうる。OTTコミュニケーションサービスは携帯電話がこれまで提供してきた便益を代替する点を訴求することが出来れば、ネットワークとのバンドル・プランに対し消費者の理解を得る可能性は十分にあろう。
しかし、OTTコミュニケーションサービスは通信キャリアの収益を現に侵食していると見なされており、OTT事業者と通信キャリアの提携・協業のハードルは高い。通信キャリアが独自にOTTコミュニケーションサービスを展開するというシナリオも十分に考えられ、実際に先進国の通信キャリアではVoIPプレイヤーへの対抗策としてVoLTE(Voice over LTE、LTEが提供するIP通信上での音声通話を実現する技術・参照情報)を打ち出し、商用化を急いでいる。
また、動画共有サービスとネットワークをバンドルするアプローチはどうだろうか。CGV(Consumer Generated Video)の見放題では多くの消費者には魅力的には映らないだろうが、映画やドラマ、音楽映像などのプロフェッショナル・コンテンツと組み合わせたプランであれば消費者に受け入れられる可能性は高くなる。
欧米ではHuluやNetflixなど、プロフェッショナル・コンテンツの見放題というコンセプトは既に消費者から高い支持を得ている。このコンセプトにネットワークの使い放題というプラスアルファをプレミアムサービスとして位置づければ、データ通信量を気にしながら動画を見ていた消費者にとっては選択肢になる。また、携帯電話での動画視聴は通信速度が十分に得られず、度々中断するなどストレスを感じることも多いが、モバイルCDN(※)を活用しストレスのないユーザーエクスペリエンスを提供することで、より付加価値性を高めることが可能だ。
※注:CDNは、Contents Delivery Networkの略称であり、キャッシュサーバーを分散配置し、ユーザーとWebサーバ間の通信距離を短くすることで、コンテンツ配信に最適化されたネットワークを意味する。近年は、モバイルネットワークへのCDNソリューションの取込みが注目を集めている。(参照情報)
図表5に顕れているように、新興国ではOTTコミュニケーションサービスに対する支持は強い。この支持の背景には、音声通話やメール、SMSのコストを出来る限り押さえたいという節約意識が存在するのであろう。新興国でOTTコミュニケーションサービスとネットワークのバンドル・プランを提供する場合、訴求すべきポイントは「低価格」であり、その実現のためには例えばユーザープロファイルや行動履歴と連動した広告を合わせて提供する手法などが考えられる。
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新興国の携帯電話料金に対する主な考察は、以下の通りである。
都市部の高所得者層は携帯電話をヘビーユースする一方で、郊外の所得が低い層は料金を節約するという、二極化の傾向が見受けられる
新興国でも先進国と同様にARPU向上に向けたスマートフォン・シフトが経営上の課題である
スマートフォン・シフトは、消費者の「無制限データ通信の定額プラン」の利用意向を強め、通信会社にはトラフィック増によるネットワークの輻輳という難題をもたらす
新しい「無制限データ通信の定額プラン」として、音声通話、メール、SMSの代替財であるOTTコミュニケーションサービスとネットワークのバンドル・プランが有望である
次回は、新興国におけるキャリアの選択・乗り換えに関する結果を分析する。
【調査目的】
世界15ヶ国のモバイル利用状況を把握するとともに、今後の利用状況予測に関する情報を提供する。
【調査概要】
●対象国:全15ヶ国
アメリカ、アルゼンチン、イギリス、カナダ、クロアチア、ドイツ、トルコ、日本、フィンランド、ブラジル、フランス、ベルギー、南アフリカ、メキシコ、ロシア
●調査方法:各国公用語によるオンラインアンケート
アルゼンチン、ブラジル、クロアチア、メキシコ、南アフリカ、トルコについては、サンプルが都市部在住の専門職(比較的高所所得者層)に集中する結果となっている。その他の国については全国から回答を得ている。
●調査期間:2012年5〜6月
●分析対象回答者数:25,960名
文・田坂 創(デロイト トーマツ コンサルティング株式会社 シニアコンサルタント)
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