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WhatsAppを手に入れたFacebookが欲しい「広告以外の収入」

2014.02.24

Updated by Hitoshi Sato on February 24, 2014, 06:00 am JST

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(cc) Image: by Jan Persiel

Facebookは2014年2月19日、世界最大のメッセンジャーアプリ「WhatsApp」を最大190億ドル(約1兆9,000億円)で買収することを発表した。この金額の大きさについて国内外のメディアで様々な議論を呼んでいる。しかし「不要なものなら1円でもいらないが、どうしても欲しいものや必要なものなら、お金を出す」というのが「買い物の基本」である。今のFacebookは190億ドルを払ってでもWhatsAppを手に入れたいのだろう。

WhatsAppの利用者は全世界で4億5000万人、そのうち70%がアクティブユーザーである。毎日100万人の新規ユーザー登録がある。メッセージ量は全世界の通信事業者が扱うショートメッセージ(SMS)に相当する。日本ではメッセンジャーアプリは「LINE」が有名で多くの人に利用されている。また最近は楽天が9億ドルで買収した「Viber」が注目を集めている(参考レポート)。しかし、欧米ではメッセンジャーアプリといえば「WhatsApp」であるくらい圧倒的に利用者が多く、私も欧米の知人らとのコミュニケーションのために「WhatsApp」を利用している。

モバイル広告は絶好調なFacebook

今回買収を行うFacebookの最近の業績を見ておこう。同社は2014年1月29日、2013年第4四半期(10~12月)の決算を発表した。モバイル広告が好調で、売上高は前年同期比63%増の25億9,000万ドルで過去最高を記録した。純利益は前年同期の約8倍の5億2,300万ドルだった。収益の大半は広告である。広告による売上高は前年同期比76%増の23億4,000万ドルで、総売上高の91%を占めている。またモバイル広告が拡大しており、広告収入全体に占める割合が前期の49%から53%に拡大し半分を超えた。

Facebookの日間アクティブユーザー数(DAU)は22%増の7億5,700万人、月間アクティブユーザー数(MAU)は16%増の12億2,800万人。そしてモバイルからのDAUは49%増の5億5,600万人、MAUは39%増の9億4,500万人。モバイルからだけアクセスするユーザーのMAUは89%増の2億9600万人と大きく伸びている。

▼Facebookの売上高推移(Facebook社業績発表資料より) 売上高のほとんどが広告に依存していることがわかる。
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期待以上に伸びなかったFacebookメッセンジャー

Facebookには「Facebookメッセンジャー」という彼ら自身のサービスがある。これは2011年3月にメッセンジャーアプリ「Beluga」を買収して、それを元にして登場したものである。Facebookメッセンジャーは欧米を中心に利用している人も多いが、2013年11月にOn Device Researchが発表した調査によると、アメリカでもWhatsAppの方がFacebookメッセンジャーよりも多く利用されている。「Beluga」を買収してサービスを開始したにも関わらず、WhatsAppやLINE、Viberほどメジャーなアプリではない。そもそもFacebook自身がコミュニケーションのプラットフォームであるから、Facebookメッセンジャーとの使い分け、棲み分けがユーザーにとっても理解できないのだろう。

▼アメリカで週に1回はアクセスしているメッセンジャーアプリ(On Device Research調査)
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Facebookが新興国市場を狙っているという誤解

新興国ではPCは保有していないがモバイルは利用している人が非常に多い。そのようなモバイルがコミュニケーションの中心となっている市場ではWhatsAppの存在感は非常に大きい。Jana Mobileの調査によると、新興国市場においてはWhatsAppがFacebookメッセンジャーよりも圧倒的に多く利用されていることがわかる。

▼新興国市場におけるメッセンジャーアプリの利用で、どのアプリを利用しているか(クリックで拡大)
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(Jana Mobileを元に作成)

たしかに、新興国市場は人口も多く成長の余地も大きい市場ではある。このような点からも、FacebookとしてはWhatsAppが強い新興国市場への足掛かりにしたいから買収を行ったという議論も見受けるが、FacebookがWhatsAppを買収したのは新興国市場の開拓が目的なのだろうか?

WhatsAppのビジネスモデルは、1年目は無料であるが、2年目から0.99ドル(年)が徴収されるビジネスモデルである。4億5,000万のユーザーがいたら、年間最大で約4億ドルの収入がある。しかし、2年目から0.99ドル(年)がかかるからといって、本当に全員がちゃんと支払っているのかというと疑問である。特に新興国市場においてはプリペイドが主流で、クレジットカードを持っていないという若者が多い。先進国のようにキャリアの課金決済手段も整備されていないところも多い。それでもWhatsAppを利用している人がたくさんいる。彼らは本当に2年目以降に支払を行っているのだろうか。WhatsAppにとっての優良顧客の大半は欧米を中心とした先進国であろう。

WhatsAppを手に入れたFacebookがやりたいこと

WhatsAppは買収後も、Facebookメッセンジャーとは独立したブランド、サービスとして存続するとのことである。これは上述の通りFacebookはBeluga買収後にFacebookメッセンジャーを導入したものの、想定以上に成長しなかったことから、今更あえて多くのリソースを投入してWhatsAppとサービス統合しようとは思わないだろう。

WhatsAppのビジネスモデルは広告に依拠していない。ユーザーからの利用料金の徴収である。Facebookの収益の90%以上は広告収入である。Facebookとしてもいつまでも広告に依存した収益構造を続けていくよりも、事業の多角化を図り「広告以外の収入」の拡大を目指していく必要がある。現在のFacebookでの「広告以外の収入」の伸びは広告収入に比べると小さく、これから大きく成長するには何かしらのテコ入れが必要だった。

そのためモバイル広告の収入が順調なFacebookとしては、今のうちに「広告以外の収入」確保に向けてWhatsAppの買収に動いておくことが賢明と判断したはずだ。Googleも以前からWhatsAppの買収を検討していたと報じられている。他社に買われてしまう前にFacebookとしてはWhatsAppを手に入れておきたかった。そんなFacebookにとって最大190億ドルの買い物は、決して高いものではない。

【参考動画】FacebookのWhatsApp買収を報じるCNNニュース

【参照情報】
Facebookのリリース
Facebookの業績発表
Messenger Wars: How Facebook lost its lead

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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。