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国防・安全保障向けのセキュリティ・スマートフォン「Boeing Black」の情報漏えい対策

2014.03.03

Updated by Hitoshi Sato on March 3, 2014, 06:00 am JST

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アメリカにある世界最大の航空宇宙機器メーカーのボーイングが、防衛・安全保障の分野で使用するために盗聴などへの対策を施したスマートフォンの開発を計画している。「Boeing Black」と呼ばれる端末で、現在ボーイング社は米連邦通信委員会(FCC)に申請書を提出しているようだ。

主に防衛・安全保障関係の政府機関にのみ販売され、製品に関する技術情報や運用に関する情報は一般には公開されないようだ。通話やデータ通信は暗号化されて保護されるので盗聴されにくい。「Boeing Black」はセキュリティとモジュール構造に重点を置いて設計された端末である。「Security + Modularity = Productivity」を謳い文句にしている。

また「アメリカで組み立てられている」から政府機関向けにも安全であるということも強調している。現在、多くのスマートフォンが中国や新興国で組み立てられていることに対するけん制のようである。

さらに生体認証スキャナー、衛星トランシーバー、太陽光充電器とも接続できる。さらに端末を無理に開けようとすると、保存データやソフトウエアを消去し、端末の操作自体を不可能にしてしまう。

AndroidOSを搭載。4.3インチのqHDディスプレイで、外形寸法は131.9mm×67.6mm×13.25mm、170g。暗号モジュールのセキュリティ要件「FIPS 140-2」に準拠した暗号化ストレージ、ハードウエアベースのRoot of Trust暗号化エンジン、信頼性の高いモジュール、フレキシブルに設定可能なOSセキュリティポリシーにより、端末、データ、通信の安全性を確保する。

スマートフォンは「小さなパソコン」であり、そこには多くの重要なデータや情報が格納されている。さらに電話であるから、音声通話も行うし、メールやSMS(ショートメッセージ)で多くの情報がやりとりされる。怪しいサイトへのアクセスやアプリのインストールで気が付かないうちに情報摂取をされている可能性も高く、サイバー攻撃の標的にされやすい。また端末を物理的に破壊してデータを取ろうとすることもあるだろう。

スパイ映画の世界のような話だが、現在はどこから情報を摂取されたり、漏えいしてしまうかわからない。「Boeing Black」のような端末は防衛・安全保障関係の政府機関だけでなく、民間企業や個人にとっても必要かもしれない。セキュリティは常に「いたちごっこ」で、完璧はないから今後もこの分野での研究開発の継続が求められる。そのうち世界中のハイエンドな端末はこのような装備がデフォルトになって「安全性」をウリにしているかもしれない。

【参考動画】 Boeing Black Smartphone Overview

【参照情報】
Boeing Black Smartphone

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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。

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