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エリクソンが5Gと3GPP Release 13をテーマに技術説明会を開催

2014.05.16

Updated by Asako Itagaki on May 16, 2014, 10:40 am JST

5月15日、エリクソンは報道関係者を対象に、藤岡雅宣CTOによる「2020年に向けた移動通信の進化~5Gと3GPPリリース13を中心に~」と題した技術説明会を行った。その概要を紹介する。

5Gは「ネットワーク社会のためのネットワーク」

現在の3GPPで標準化が進められているRelease 12の機能凍結は2014年9月を予定しており、次のRelease 13の機能凍結はは2015年12月を目途にしている。次のRelease 14からは「5G」として標準化されることになる。「Release13は当初マイナーチェンジと考えられていたが、5Gに入る前のLTE最後の標準としてもっと大きいリリースになると考えられている」とのことだ。

エリクソンは5Gを「ネットワーク社会のためのネットワーク」と位置付けている。ネットワーク社会とは「何時でも何処でも、誰でも何に関しても、何の制約もなく情報へのアクセスとデータ共有ができる社会」というエリクソンのビジョンであるという。

5Gの無線アクセス技術(Future Access Wireless:FWA)は、既存無線アクセス技術の進化と新たな無線アクセス技術で構成される。課題の一つはスペクトルの拡張で、2020年頃までは6.5GHzあたりまでの周波数を、2020年以降の5G時代には10GHzよりも高い周波数に拡張することで、大量の周波数が利用可能になりトラフィック容量の拡大が見込めること、また大きな帯域幅の実現で超高速データレートの提供が期待できる。

▼高周波無線の伝搬特性により、ミリ波レベルの高周波の適用分野としては到達距離の短さを活かしたスモールセル展開や無線バックホールなどが適している。
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使用する無線通信技術も使用するスペクトルによって異なるが、藤岡氏によれば「10GHzぐらいまでは従来のLTEを進化させた技術を適用、10GHzから30GHz程度になると新しい数Gbpsの無線アクセス技術、それよりも波長の短いミリ波の領域になると、超高密度向けの新しい技術が必要になる」という。

5Gが対応すべき新たなユースケースとしては、各種センサー類に代表される「低コスト、低消費電力、小さいデータ量、膨大な数のデバイス」による大量のMTC(Machine Type Communication)と、遠隔操作やスマートグリッドなど「超高信頼、超低遅延、超高可用性」が求められるミッションクリティカルなMTCの2つを挙げた。これらを考慮すると、5Gに求められる要素は従来のモバイルバンドのユースケース拡張とは異なってくる。

▼5Gのスコープ。カバレッジ、キャパシティ、速度、周波数効率など従来求められていた要件に加え、低遅延、信頼性、大量デバイスへの対応、などの要件も満足する必要がある。
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5Gに必要な技術要素の代表的なものとしては、「マルチアンテナ/マルチサイト伝送」「高密度実装」「新たな波形」「電波利用形態」「セルラーの概念の超越」などが挙げられていた。

電波利用形態については、現在FDD(周波数分割方式)とTDD(時間分割方式)が利用されているが、TDDリソースの動的割り当てや、さらに進んだ上下動帯域同時送信(Full duplex)方式導入の可能性にも言及した。また、デバイス間(D2D)通信については「移動しない基地局があってセルが構成される」という従来のセルラーの概念を超え、デバイス間の直接通信やデバイスによるリレー方式の通信、近くにある複数端末が使用している帯域をシェアするジョイントセッション、基地局が移動する(フローティングセル)などに対応することが将来の無線アクセスに置いては不可欠であるとした。

5Gの具体的なあるべき姿については、欧州ではMETISプロジェクトが先行して検討をはじめている。エリクソン、NSN、フアーウェイなどの大手ベンダー、キャリア、大学および研究機関などが参加しており、日本からはNTTドコモも参加している。プロジェクトの目標は「ネットワーク化された情報社会における将来のモバイル無線通信システムの概念設計」であり、さまざまなシナリオを定義して目標を検討する。

▼METISプロジェクトの目標
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METISプロジェクトは2015年に終了予定となっている。次期EU研究・革新プログラムとしてHorizon2020が発足しており、その中5G関連のプロジェクト提案調整のためのプログラムとして5G PPP(5G Intra-structure Public Private Partnership)プロジェクトが発足した。

▼5G PPPが扱う4分野。無線ネットワーク技術、固定通信との協調、ネットワーク仮想化、ネットワークマネジメントについて扱う。
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5Gのコアネットワークについては、5G用のコアネットワークは規定されないが、LTE用パケットコア(Evolved Packet Core)の進化とSDN/NFVに基づくコアアーキテクチャの進化により実現される。

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LTE最後の標準となるRelease 13

「LTE最後の標準」となるRelease 13は、現在のRelease 12と5Gのギャップを埋める仕様となる。一番大きな課題は容量と通信速度である。

▼Release 13でのLTE高度化
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以下に主要なトピックの概要を紹介する。

Licensed-Assisted Access(LA-LTE)は、無線LANなどで使用されている免許不要周波数帯域でLTEベースでのアクセスを行い、免許を受けたスペクトルとあわせて一つのネットワークとして管理する。免許不要周波数でもLTEで通信することにより信頼性と品質についてはある程度の保障ができ、なおかつWi-Fiよりも周波数利用効率で利用できる。被免許帯域とのキャリアアグリゲーションで活用することにより、スモールセルの性能を強化できる。「異なる技術、異なる事業者との平和的共存を可能する技術」である。

遅延時間削減については、スタディアイテム(検討項目)として、可能なソリューションを検討する。無線接続が確立されたUEでE2E遅延が30msから10msに短縮など大幅な削減を目標としており、検討項目の例としてはデータ送信要求発生前の事前グラントによる上りリンクへの即時アクセスや、TTI短縮による処理時間削減などが挙げられた。

MTC(Machine Type Communication)高度化については、Release12で規定した「カテゴリー0」の考え方をさらに進めて、複雑さの軽減によるコスト削減、処理時間緩和、無線帯域の縮小、消費電力削減などを目指す。また、カバレッジ改善によるデータ送信繰り返しを防止する。

MTC高度化に向けては、ボーダフォンがMTE LTE-M SIG(Special Interest Group)を立ち上げている。方向性のオプションとしては大きく、現状のLTEを高度化して実現する方向と、新たな周波数帯に200kHz狭帯域の無線技術を規定する方向がある。また、LTEを高度化する場合も、LTEキャリア200kHz幅とサブキャリア幅15kbpsを規定して運用する考え方もある。200kHz幅はGMS(2G)の帯域幅なので、200kHz幅の標準を採用することで、まだまだ欧州では現役で使われている2Gの帯域の巻取りが容易になる。

マルチアンテナ技術は都心やビルのあるエリアを対象にした三次元方向のトラフィック分布に対応する「上下方向ドメイン技術」で、50~100%の性能改善のポテンシャルがあるとする。Release12での上下方向モデルが出発点となっており、Release 13ではさらに進化する。

モビリティ高度化、すなわちハンドオーバーのための技術については、ビームフォーミングによるエラー耐性の確保と、限定的なマクロセルを前提としない多様なセル導入形態に対応したセル感知技術が必要となる。

周波数の不足に対する対応としては、Licensed Shared Access(LSA)を活用した柔軟な周波数利用が検討されている。周波数使用権の中に共用ルールを追加し、新たな参入希望者が既に既存ユーザーに割り当て済みの周波数帯であっても承認制でその一部を利用することが許される。使っていない時間帯、場所を管理するサーバーの標準化が検討されており、ヨーロッパでは2.3GHz帯で議論されている。

WiFi統合については、現状では無線LANのセルラーネットワークへの統合は限定的であり、アプリレベルでの統合では事業者が制御できなくなるという問題がある。Release 13ではネットワーク制御モビリティなどRANレベルでの統合が期待される。

D2Dについては、Release 12ではセルラーカバレッジ内にある端末の発見と放送型通信については対応していた。Release 13では、カバレッジ外の端末の検出、P2P通信、グループ通信について検討を行う。

サードパーティへの露出については、事業者が3GPPの機能のうち何を第三者に対して解放術以下の見極めを行う。M2M向けのAPIとしてoneM2M(M2Mの国際連携組織)と協力して仕様を策定する。

最後に、ETSI NFVとの協力について。NFVで必要機能の分析と、3GPPでの新たな作業の必要性をの検討を開始している。3GPPではRelease 13の枠組みで検討を進め、Release 14で正式作業化を想定する。運用保守関連の検討項目が6月にレビュー・承認される予定となっており、3GPPネットワーク要素が仮想機能として実装された場合のネットワーク管理機能の標準化が必要ではないかとされている。また、システムアーキテクチャにおいても、サービス要求条件、セキュリティとの関連も含め検討されている。

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。