ノキアソリューションズ&ネットワークス シニア・テクノロジー・エキスパート 野地真樹氏

「クラウド」が変える2020年のモバイルネットワーク

2015.12.24

Updated by Naohisa Iwamoto on 12月 24, 2015, 13:49 pm JST Sponsored by NOKIA

ITの世界では広く受け入れられている「クラウド」。そのクラウドが、通信事業者が構築するモバイルネットワークの姿を変えそうだ。すでに実用段階に入ったSDN(Software Defined Network)やNFV(Network Functions Virtualization)などによるコアネットワークのクラウド化はもちろん、モバイルネットワークの末端に位置する基地局なども含めてクラウド技術を活用したアーキテクチャが採用される公算が高い。ノキアソリューションズ&ネットワークス(以下、ノキア)でシニア・テクノロジー・エキスパートを務める野地真樹氏に、クラウド化への動向を聞いた。

ノキアソリューションズ&ネットワークス シニア・テクノロジー・エキスパート 野地真樹氏

野地真樹(のぢ・まさき)氏
ノキアソリューションズ&ネットワークス シニア・テクノロジー・エキスパート。国内通信機器メーカーで移動通信システムのインフラ設計業務や、LTE基地局開発のプロジェクトを統括し、2011年のノキアシーメンスネットワークス(現ノキアソリューションズ&ネットワークス)に入社。ソリューションマネージャー、ストラテジーマネージャーを経て現職。最新技術やソリューションの紹介、5Gシステムの日本法人における検討推進などの業務に携わる。

「もう全部クラウドに入っていくだろうとノキアでは思っています」。ノキア シニア・テクノロジー・エキスパートの野地真樹氏は、こう切り出した。ノキアではコアネットワークのクラウド化だけでなく、無線基地局のクラウド化を実現するソリューション「Nokia Radio Cloud」を2015年3月に開催されたMobile World Congress 2015(MWC 2015)で発表し、商用機器を使ったデモを行う段階に達している。モバイルネットワークのクラウド化は、どのような方向性にあると考えるか?という質問に対する回答が、冒頭の言葉だ。

野地氏は続ける。「これまでは、コアネットワークの機能であるEPC(Evolved Packet Core)や、VoLTE(Voice over LTE)などの各種サービスを実現するIMS(IP Multimedia Subsystem)をクラウド化するための検討が中心に進められてきました。今後は無線基地局などの“ラジオ”部分がクラウド化されて、それらがSDNでつながるといったビジョンを描いています」。コアネットワークをNFVでクラウド化するだけでなく、クラウドによってラジオ部分も含めたモバイルネットワーク全体が融合されていくという方向性だ。

プログラマブルワールドの実現のインフラへ

クラウド化が求められるのはなぜか。それは、今後のモバイルネットワークには、異なる機能や性能を要求する様々なアプリケーションへの柔軟な対応が求められることが大きな要因だ。標準化の議論が正式に始まり2020年の商用化を目指す「5G」(関連記事:「5G」ってようやく標準化が始まったってホント? 5Gの疑問をノキア研究員に直撃)でも、現行のLTEよりも高速大容量のモバイルブロードバンドを実現するだけでなく、超低遅延、高信頼性、膨大なIoTデバイスの収容やデバイスの低消費電力化など、様々なユースケースへの対応が検討されている。モバイルネットワークそのものが、ガチガチにハードウエアで固められていては、こうした要求に柔軟に対応することができない。

ノキアでは、今後のネットワーク社会の姿を、プログラム可能な世界の意味から「プログラマブルワールド」と名づけている。IoTが一般化し様々なモノがネットワークにつながり、インテリジェンスを持って連携して動くような世界だ。「プログラマブルワールドを実現するためには、ネットワーク自体もプログラマビリティーを持つ必要があるでしょう」(野地氏)というのが、ノキアの見立てだ。

「将来的なネットワークの姿の1つとして、プログラマブルコアがあります。コアネットワークの上にはAPI(Application Programming Interface)が設定されていて、アプリケーションが直接コアネットワークにアクセスしてインフラ情報を収集したり最適化したりすることを可能にするものです。アプリケーションが多様化することにより、ネットワーク側への要求も多様になります。そうした要求に対応できるネットワークを作るには、柔軟性を担保できるようなプログラマビリティーが必要になると考えています」

プログラマビリティーを持つネットワークを具現化する方策の1つがネットワークのクラウド化になる。コアネットワークだけでなく、基地局も含めたモバイルネットワーク全体をクラウド化することで、アプリケーションからの要求に柔軟に対応できるプログラマビリティーのあるネットワークを構築しようという考えだ。今すぐにすべてをクラウド化したネットワークが実現できるわけではないが、今後のネットワークアーキテクチャを考える上で、必要な視点であろう。

ネットワーク機能をクラウド上に適切に分散配置

モバイルネットワークのクラウド化を実現するには、ネットワークが備える機能を適切に分割して、クラウド上に配置することが求められる。野地氏は、その1つの例として、低遅延のネットワークへの要求を挙げる。

「LTE-Advancedやそれに続く3GPPのRelease13で議論されていくLTE Proでは、いかにネットワークの遅延を減らすかが注目されています。5Gの要求条件としても低遅延は大きな項目です。そのための解としては、無線インターフェースの送信間隔を縮めて、できるだけ早く応答できるようにする方法が議論されています。しかし、いくら無線インターフェースを調整しても、コンテンツそのものや演算処理をする部分が物理的に遠くにあると、応答を一定以上は早くすることができません。コンテンツを蓄積したり、演算処理したりする機能を、ユーザーの近くに置く考え方が求められます」

こうした考え方は、エッジコンピューティングの一種と言える。すでにノキアでは、基地局にサーバー機能を用意してローカルで利用するコンテンツやサービスを提供できるようにする「Liquid Application」というソリューションを提供している。ネットワークの様々なリソースを、クラウドをインフラとして柔軟に分散配置できれば、ユースケースに適したネットワークサービスの提供が容易になる。

野地氏は「モバイルネットワークをクラウドで設計できれば、コアネットワークだけでなく、基地局やコンテンツを蓄積するサーバーなどの機能をクラウドの上で分散配置することが可能になります。アプリケーションが要求する機能を、クラウド上で適切に構成してサービスとして提供できるのです」と語る。

▼低遅延を要求するアプリケーションに対しては、エッジコンピューティングとクラウドを組み合わせることで、端末の近くで通信を折り返すことが可能
低遅延を要求するアプリケーションに対しては、エッジコンピューティングとクラウドを組み合わせることで、端末の近くで通信を折り返すことが可能

例えば高速モビリティへの対応を求めるアプリケーションに対してはコアネットワークでセントラライズした形でサービスを提供する一方、スマートメーターなどのモビリティを求めないアプリケーションに対しては、基地局に近いローカルで処理するといったことが、柔軟に構成できるというわけだ。

このように、クラウドでネットワークの機能を提供することを考えると、クラウドで処理することが適している機能と、ハードウエア的にアンテナサイトに配置しないと処理が難しい機能との線引きをする必要がある。

野地氏は「5Gが目指している分散型クラウドのアーキテクチャの考え方が、業界として意識している方向性だと思います。クラウドとハードウエアの切り口をどのレイヤーに設定するかで、ネットワークにとってのメリットとデメリットがあります。アンテナサイト側に機能を多くもたせると、アンテナサイトを収容するフロントホールのネットワークの条件を緩和でき、ネットワークが構築しやすくなります。一方で、コアネットワーク側に機能を多く持たせると、協調制御などがしやすくなります。いろいろな切り口を踏まえて、3GPPで議論・検討していく必要があると考えています」と説明する。

Nokia Radio Cloudを実機で実現したノキアのソリューション

モバイルネットワークをクラウドに載せて、機能を分散することでメリットを得るための試みは、ノキアでは構想段階から実機でのデモンストレーションの段階に移っている。それが冒頭で紹介したNokia Radio Cloudである。コアネットワークに接続する基地局までの無線アクセス回線であるRAN(Radio Access Network)をクラウド化するため、一般に「クラウドRAN」と呼ぶ。コアネットワーク側のEPCやIMSといった機能だけでなく、アンテナサイト側のRANも含めてクラウド化が実現できることを示しているのである。

「Nokia Radio Cloudでは、基地局の機能を分散化して、クラウドサーバーに一部を収容しています。従来の基地局は無線部分のRF(Radio Frequency)、ネットワーク部分の機能としてL1、L2、L3という複数のレイヤーの機能を備えていました。一方、MWC 2015でデモを実施したNokia Radio Cloudでは、アンテナサイト側にはRFとL1を収容し、上位レイヤーに当たるL2とL3の機能をクラウドサーバーに収容することで、RANの機能の一部のクラウド化を実現しました」

▼アンテナサイトとクラウドサーバーに基地局の機能を分散したNokia Radio Cloud(クラウドRAN)のデモ構成
アンテナサイトとクラウドサーバーに基地局の機能を分散したNokia Radio Cloud(クラウドRAN)のデモ構成

クラウドサーバーで集中処理することで、可用性の向上や設備投資の最適化といった、いわゆるクラウド化におけるメリットが基地局にも適用できるようになる。ノキアでは、さらにコアネットワークの中心的な機能であるEPCも、同じクラウドサーバーで動かす構成を実現した。分散クラウドで基地局の近くにEPCの機能が配置できれば、少ない遅延でネットワークの処理が完了するというわけだ。

一方、スモールセルなどによりアンテナサイトを多く配置しやすくするためのソリューションとして、「C-RAN」(Centralized RAN)がある。これは、基地局のRF部分を受け持つRRH(Remote Radio Head)を分散配置し、基地局のL1以上に相当する処理を集約して1台のサーバーでまかなう方法だ。RFに機能を限定したRRHならば大量に配置する際のコストが低く済み、さらにアンテナサイト間の干渉制御などをサーバーで集中して管理できるメリットがある。一方で、RRHと集中処理するサーバーの間は無線信号を送る必要があるため、光ファイバーを敷設しなければならないというデメリットがあった。

「Nokia Radio Cloudのデモ構成ではL1の処理までをアンテナサイト側で実行します。送る信号は無線信号そのままではなくなるため、帯域幅の要件が緩和されイーサネットなどの配線で済みます。L2、L3といった上位レイヤーの処理は、イーサネットで接続した先の分散クラウドで集中処理する仕組みです。高い周波数帯を利用することが想定されている5Gではアンテナサイトを多く設置する必要があり、さらに64本などの多数のアンテナをまとめたマッシブMIMOの導入も想定されています。無線信号をそのまま伝送するC-RANでは実現可能なフロントホールの回線がなくなってしまいますが、Nokia Radio Cloudではその懸念を払拭できます」(野地氏)。

アンテナサイトとクラウドの間の機能の線引きをどうするかは、今後の議論や実証によって最適な解が求められることになるだろう。とは言えRANのクラウド化は、5Gを視野に入れた今後のネットワークアーキテクチャに影響を及ぼすことは間違いない。

もう1つ、ノキアがモバイルネットワークのクラウド化に向けて提案しているソリューションがある。それが、通信事業者の用途に向けたクラウドサーバー「AirFrame」である。ノキア自身が通信事業者のデータセンターに必要なコンポーネントをすべて開発、提供するという考えを具現化したものだ。

野地氏はこう説明する。「AirFrameは、テレコム向けの処理に必要な遅延対応やリアルタイム処理に対応できるようにアクセラレーターを搭載している点が特徴です。汎用のITサーバーでは、十分に機能させることが難しい専用部分の性能をアクセラレーターの搭載で確保できるようにしました」。

ただし、ハードウエアを開発して提供するといっても、それはノキアの世界への囲い込みを意味するわけではないようだ。野地氏はAirFrameを含めたデータセンターのコンポーネントの提供をオープン指向で捉えていると言う。「ノキアはコンピューティングのオープン化を推進するエンジニアコミュニティーの『オープンコンピュートプロジェクト』(Open Compute Project、OCP)に加盟していて、将来的にはOCPが定義した規格に則ったクラウドサーバーを商用化する可能性もあります」(関連情報:ノキア、OCPに参加 AirFrame Data Centerソリューションの強化を図る

すでにノキアは、AirFrameを使ったNokia Radio Cloudのデモを国内でも公開し、実用化への足がかりをつかんでいる。川崎にあるR&DセンターにはAirFrameが設置され、外部のネットワークで評価するトライアルを行う準備を進めている段階だ。アンテナサイトにはオールインワンタイプのスモールセル製品や、既存のFlexiなどのマクロ基地局製品を使い、ソフトウエアの変更でNokia Radio Cloudへの対応が可能だと言う。

▼2015年10月に開催したノキアのプライベートイベントでは「AirFrame」の実機を使ったNokia Radio Cloudのデモを実施した
2015年10月に開催したノキアのプライベートイベントでは「AirFrame」の実機を使ったNokia Radio Cloudのデモを実施した

基地局からコアネットワークまでの機能や要件のうちどの範囲をクラウドサーバーに載せることが最も効率的で柔軟なネットワークアーキテクチャを生み出すかは、今後の研究や実証の結果を待つ必要があるだろう。クラウド化の進展はモバイルネットワークを運用する通信事業者の戦略にも依存する。しかし、今後のアプリケーションの多様化と、それに伴う要求条件への対応を考えると、モバイルネットワーク全体をクラウドのリソースとして提供するネットワークアーキテクチャは、1つの現実解として注目しておく必要がありそうだ。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。