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モンゴルの携帯電話事情(4) - 韓国のスマートフォンが大量に流通する中古市場

2014.07.14

Updated by Kazuteru Tamura on July 14, 2014, 18:09 pm JST

モンゴルの携帯電話市場では中古市場が活発化している。モンゴルで正規に流通しているスマートフォンは基本的に移動体通信事業者を通じて販売されているが、大多数のモンゴルの人々にとっては新品のスマートフォンは高価であり、まだまだ手が出せない。そんな背景があり、モンゴルでは中古市場が活発化している。

中古市場が主流のモンゴル

モンゴルには中古携帯電話を取り扱う店舗が集まるTEDY mobile phone shopping centerがある。ウランバートル市内の中心部にあり、モンゴルで最も多くの中古携帯電話が集まっている。モンゴルでは中古携帯電話の店舗数は決して多くはなく、TEDY mobile phone shopping centerのように多数の店舗が集まっているのはモンゴルで唯一である。ホテルやスーパーのスタッフなど誰もが知っており、そこでスマートフォンなど携帯電話を購入するという。それだけTEDY mobile phone shopping centerはモンゴルにおいて中古携帯電話が流通する最重要拠点であり、いわばモンゴルの携帯電話市場の中枢と言っても過言ではない状態である。

2階と4階に多数の中古携帯電話を取り扱う店舗が入居しており、中には修理専門店も見られる。中古のスマートフォンは基本的に移動体通信事業者やメーカーの保証がないものが多く、故障した場合はその修理専門店に持ち込む。なお、3階にはパソコン関連を取り扱う店舗が入居し、1階には移動体通信事業者であるMobiComの旗艦店が入居する。2階や4階で中古のスマートフォンを購入し、1階のMobiComの旗艦販売店でSIMカードを購入していくケースは非常に多いという。モンゴル最大の移動体通信事業者であるMobiComの旗艦販売店が入居しているということからも、TEDY mobile phone shopping centerがいかにモンゴルの携帯電話市場で中心的な存在なのかが分かる。

▼TEDY mobile phone shopping centerには数多くの中古携帯電話販売店が入居している。開店直後の早い時間帯であったため人はまばらであるが、昼過ぎからは混んでくる。そのため、開店直後に行けばゆっくり見られるだろう。
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韓国向けスマートフォンで溢れる

モンゴルでは正規に流通するスマートフォンは基本的に移動体通信事業者を通じて販売されている。しかし、中古市場ではこれらのスマートフォンが中古として出回ることは非常に少ない。それはすなわち、モンゴルで流通する中古携帯電話は、モンゴルで正規に販売された携帯電話の中古品ではないということだ。

大半の店舗で韓国の移動体通信事業者のロゴが入ったスマートフォンをよく目にする。韓国のスマートフォンには韓国の移動体通信事業者のロゴが入るため、一目瞭然である。あちこちにSK Telecom、KT、LG U+のロゴが入ったスマートフォンが並べられているのである。

モンゴルと韓国は人的往来が多く、特にモンゴルから韓国へ出稼ぎに出るモンゴル人の出稼ぎ労働者は多い(産業が発達していないモンゴルでは出稼ぎに海外に出る人が多いが、その出稼ぎ先のトップは韓国だ)。その出稼ぎ労働者が持ち帰ったスマートフォンがモンゴルの中古携帯電話市場に溢れることになっている。余談ではあるが、ウランバートル市内ではハングルや韓国にちなんだ施設名や通り名が数多く見られ、滞在するだけでも韓国との関係性の深さを感じさせるほどである。また、モンゴルの移動体通信事業者でモンゴル2位のSkytelと同3位のUnitelには韓国企業が出資したことがあり、同4位のG-Mobileは韓国企業と提携して韓国のモバイル向け地上デジタル放送と同じ規格を導入しており、韓国との関係性は移動体通信業界にも浸透している。

モンゴルで流通する韓国のスマートフォンは出稼ぎ労働者が持ち込んだものが多いため、最新ではなく型落ちのスマートフォンが多い。韓国はハイエンド中心の市場で価格も高いが、型落ちとなれば価格も手頃になる。また、Samsung ElectronicsやLG Electronicsよりも、Pantechのスマートフォンが多いことも特徴的である。空港やホテルなど、至る所でPantech製のスマートフォンを見かけた。ブランド力でSamsung ElectronicsやLG Electronicsより劣るPantechのスマートフォンは価格が安く、安価なスマートフォンを優先的に選ぶ出稼ぎ労働者には選ばれやすい。そして、その中古品が大量に出回るわけだから、街中でよく見かけたのも納得である。。

▼韓国向けのスマートフォンが大量に並べられている。韓国最大の移動体通信事業者であるSK Telecom向けのスマートフォンが多い傾向にある。Samsung Electronics、LG Electronics、Pantechなどのスマートフォンを確認できる。
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▼ウランバートル市内ではSamsung ElectronicsやLG Electronicsのスマートフォンよりも比較的安価なPantechのスマートフォンを見かける機会が多かった。その中でも安価なPanetch VEGAなどは数多く見られた。
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韓国向けの珍しいスマートフォンも

中古市場ではモンゴル向けのスマートフォンは殆ど見られない。モンゴル向けのスマートフォンが少ない一方で、韓国向けのスマートフォンは無数に販売されている。大量に韓国のスマートフォンが流れてくるだけあって、韓国向けの珍しいスマートフォンが流れてくることも少なくないのである。

韓国から撤退済みのHTCやMotorola Mobilityが開発した韓国向けスマートフォン、そして携帯電話の開発から撤退した韓国メーカーであるKT TechやSK Telesysのスマートフォンまで並んでいる。これらのメーカーは韓国で売れないために撤退を余儀なくされたのだが、そういったスマートフォンほど価格が安くなり、出稼ぎ労働者にとってはありがたいスマートフォンとなるのである。

韓国のウェブサイトでも取り上げられることが少ないような、仮想移動体通信事業者(MVNO)向けのスマートフォンまで販売されている。筆者は韓国でも中古携帯電話の販売店を視察しているが、韓国向けの珍しいスマートフォンはモンゴルの方が入手しやすいのではと思うほどである。

▼SK Telecomのロゴが入ったスマートフォンが並んでおり、中には韓国から撤退したMotorola Mobility製のスマートフォンも含まれている。
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▼KT向けに投入されたHTC EVO 4G+も販売されている。HTCも既に韓国市場から撤退している。
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▼KTの仮想移動体通信事業者(MVNO)として提供するCJ Hello Mobileのicube-830は非常に珍しいが、そんなスマートフォンでも売られている。中国のKONKA製である。韓国では安価なスマートフォンとして販売されているため、モンゴルからの出稼ぎ労働者は価格を重視して優先的に選んだのだろう。
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▼流通する数は少ないがLG U+向けのスマートフォンも販売されており、日本のNEC CASIO Mobile Communicationsが開発したCASIO G'zOne CA-201Lも見られた。なお、NEC CASIO Mobile Communicationsはスマートフォンの開発から撤退している。
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▼スマートフォンの開発から撤退したSK Telesysが開発したSK-S100は多くの店舗で販売されているのを確認できた。
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中古市場の活性化が新品市場を大幅に縮小させる

韓国はハイエンド中心に市場であり、型落ちの中古で価格が安くても普通に使用する分には十分すぎるスペックである。モンゴルでは移動体通信事業者が正規に価格を抑えたスマートフォンを売っているが、出稼ぎ労働者が持ち帰った中古のスマートフォンはそれらよりもスペックが高くて快適に使えるのに価格は安い。そのため、中古市場が活性化して、モンゴルの移動体通信事業者が正規に販売するスマートフォンは伸び悩むのである。

TEDY mobile phone shopping centerでは中古のスマートフォンが集まるが、モンゴルの移動体通信事業者が販売したスマートフォンの中古は僅かであり、その数は10%にも遠く及ばないくらいに少ない。中古のスマートフォン市場が活性化することによって、新品のスマートフォンの需要がなくなり、次から次へと出稼ぎ労働者の帰国と同時に持ち込まれる中古のスマートフォンが市場を占有していくのである。

中古のスマートフォンが増えることで、中古のスマートフォンを安心して使える環境も構築されている。TEDY mobile phone shopping centerには修理専門の業者も入居しており、保証書がない中古のスマートフォンでも修理してくれる。中古のスマートフォンでも修理してもらえるのであれば、わざわざ保証書が付く新品のスマートフォンを高くで買う必要もなくなる。

韓国向けスマートフォンが多い中で、モンゴル向けスマートフォンの中古品も入念に探せば見つけることができた。モンゴルではSIMカードはプリペイド式が主流であり、一人で複数のSIMカードを持つことも普通となっている。そのため、デュアルSIMの需要は高く、そのことを知っている販売員はデュアルSIMに対応していることを推しており、価格も高く設定されていた。ただ、モンゴルでは価格が重視されており、デュアルSIMよりも安価なスマートフォンが選ばれるという。

このように、中古品が主流で特に価格が安いスマートフォンの流通が多くなる傾向は、モンゴルの経済状況を反映している。また、韓国向けスマートフォンの多さから、韓国との国際関係の深さが見て取れる。モンゴルの携帯電話市場はモンゴルの国自体を映し出していると言っても過言ではないだろう。

▼TEDY mobile phone shopping centerには中古のスマートフォンを修理する業者も入居している。机に道具を広げて修理している様子を確認できた。
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▼モンゴル向けスマートフォンの中古品も見つけることができた。中国のHisense製で、モンゴルの移動体通信事業者であるG-Mobileが自社ブランドで販売するG-Mobile U1が販売されていた。
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田村 和輝(たむら・かずてる)

滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。