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長岡花火に見るアドボカシーマーケティング

2014.08.05

Updated by Ryo Shimizu on 8月 5, 2014, 15:23 pm JST

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 先週末、地元の新潟県長岡市に戻って花火を見てきました。

 生まれてからずっと見ていたのですが、今回は東京から何人か連れていくことにしたので初めてチケットを買ってみました。といっても、長岡花火は大部分の人は河川敷や近くで適当にレジャーシートを敷いて観覧しています。

 
 この長岡花火、東京に来てから改めて見てみると凄まじく豪華です。
 今年もわずか人口27万人の地方都市に100万人以上が集まり観覧しました。東京の隅田川花火大会が80万人ですから、その規模を想像していただけるのではないかと思います。

 特に10年前、中越地震の復興を祈願して始まった全長二キロメートルの巨大さを誇るスターマイン「フェニックス」は平原綾香(震災時真っ先に駆けつけて避難所を慰問した)の「ジュピター」を、今年は5分に延長され、平原綾香本人が生で歌い、それにあわせて2000発の花火が打ち上げられました。感動と恐怖さえ覚えます。

 しかしこの花火、基本的にスポンサーをしているのは地元企業と市民だけ。
 しかもスポンサーをしたところで殆ど知られないので、告知効果は限りなくゼロに等しいです。
 

 打ち上げ前のアナウンスでスポンサーの名前が読み上げられますが、これが聞けるのは会場の有料席だけで、そこは殆どは東京や群馬など県外からのお客さんなので、地元企業が告知しても効果はほとんど期待できません。

 しかも、スポンサーしている地元企業は、岩塚製菓のような製菓会社(B2C)もあれば、北越紀州製紙のように直接個人向けに商品を販売していない(B2Bしかしていない)会社もあります。

 にもかかわらず、年々豪華さを増すこの花火大会、一体全体なぜ行われているのでしょうか。

 ひとつは、「北越魂(ほくえつたましい)」と呼ばれる使命感です。
 北越とは「越中・越後地方」のことを指します。「越後」に「後」がつくことをきらったため地元では北越と呼ばれます。

 もともと長岡は、明治維新のとき、政府にも幕府にも組みしない武装中立を目指して戦争を行ったという歴史があります。つまり幕末にスイスのような独立国となることを目指していたのです。

 かつて王子製紙が長岡の北越製紙(東証一部上場。創業は長岡市、本社東京)に敵対的買収を仕掛けた際、当時の北越製紙の三輪社長は「創業100年の歴史の中で築いてきた自主独立路線の北越魂を死守する」と語り、業界一位の王子製紙と野村証券の連合軍に対し、北越製紙は三菱商事、日本製紙の協力を得て勝利しました。

 そして花火大会の起源は、1945年8月1日から2日にかけての深夜に受けた空襲にさかのぼります。その1年後となる1946年8月1日、長岡まつりの前身となる「長岡復興祭」が開催され、以後、空襲で亡くなられた方々への慰霊の念、長岡復興に尽力した先人への感謝、平和への願いを伝えるものとして翌年から毎年8月1日に開催されるようになりました。

 この花火大会を、税金ではなく市民の寄付と地元企業のスポンサードだけで行うことにどのような意味があるのでしょうか。

 長岡花火大会の開催には3億円が掛かっています。
 これは殆どの人が無料で見ることが出来ます。長岡大学の推計によるとこの経済効果は38億円に達するそうです。

 そのうち約半数は飲食や宿泊費ですが、3億円の予算で38億円の経済効果があるとすれば充分もとは取れるわけです。

 一見、消費と直接関係しない北越紀州製紙(TOB戦争後に紀州製紙を買収し社名変更した北越製紙)は、長岡祭りでは単独でベスビアス超大型スターマインを打ち上げているほか、フェニックス花火などにも協賛として名を連ねています。

 他にも多くの直接消費者と関係のない地元企業がスポンサードしています。これは、むしろ福利厚生の一種と言えます。

 自分たちの働く会社が、花火を上げる。それは地元で働く人々やその家族にとって、とても誇らしいことです。父親や母親が働いている会社が、長岡花火を打ち上げている。子供達は小さな頃からそうやって北越魂を受け継いで行くのです。

 
 そう考えると、長岡花火は長岡市全体で行うアドボカシーマーケティングの一環と考えることもできます。
 アドボカシーマーケティングとは、MIT(マサチューセッツ工科大学)のグレン・アーバン教授が提唱したマーケティング手法の一つで、「一時的には自社の利益に反しても、顧客にとっての最善を追求することで、長期的な信頼を獲得する」という手法です。

 有名なのはアマゾンに買収された米Zapposの例です。
 Zapposは、基本は靴屋さんなのですが、ここで靴を買うと、凄いサービスがついてきます。24時間年中無休のコールセンター、送料・返送料は無料、365日以内はいつでも返品可能、迅速(最短8時間)な配送、自社に在庫がなければ3社以上の他社サイトをチェックしてあれば顧客に伝えるという徹底したサービスぶりで、10年間で急成長を遂げました。

 一見するとかなりコストがかかりそうな方法をとっていますが、凄いのは75%という圧倒的なリピーター率です。損して得とれ、ということの見本ですね。

 花火観覧は無料ですが、観覧するためにレジャーシートやお菓子が売れます。
 近隣の住民はスーパーで買い物し、遠方からの観光客は地元にお金を落とします。

 そしてなにより、住民が長岡で生まれ育ち、暮らして来たことを誇らしく思うことが出来ます。
 それが長岡全体の生産性を上げ、明日への活力となるのです。

 Zapposや長岡花火のような大胆な顧客サービスはなかなか挑戦するのは難しいですが、成功すればとてつもない効果を得ることが出来ます。

 私も経営者として何かできないかという思いから、福島ゲームジャムを立ち上げたりしていますが、まだまだ得とれ、まではなかなか行きません。でもこういう活動を通してなにか後世に残せることがあれば、と日々考えています。

*   *   *

(編集部より) 公開時の原稿内での長岡花火大会の起源について、「空襲を受けた恨みを忘れないため」という記述が誤りであるという指摘をいただき、執筆者である清水氏と相談の上、当該部分の記述を訂正いたしました。読者の皆様にはご迷惑をおかけいたしましたことをお詫びいたします。(9/5 14:10)

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清水 亮(しみず・りょう)

ユビキタスエンターテインメント代表取締役社長CEO。1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

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