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ウェアラブル端末はどうすれば流行るのか?

2015.03.19

Updated by Ryo Shimizu on March 19, 2015, 06:53 am UTC

AppleWatchの発売が迫っています。
無数のラインナップを用意したAppleの鼻息の荒さとは対照的に、筆者の身近なところでは本当にそれを欲している人をあまり見かけません。

4万円から200万円という幅広い値付けも印象的ですが、従来のApple製品と違い、あまりにもバリエーションが多くて選びにくいという問題もあります。

この喜劇的な状況を逆手に取った「Apple Watch診断」のようなジョークサイトも産まれました。自分の名前を入力すると最適なApple Watchを提案してくれるというものです。

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筆者も試しにやってみると、見事(?)18Kのイエローゴールドケースと診断されました。お値段218万円なり。

おいそれとは買えませんね。

筆者はもともと腕時計はしない主義ですが、例外的にスーツを着る時はファッションとして機械式の腕時計を身につけることがあります。

機械式腕時計は毎日身につけていないと、その都度使う前に時刻を合わせたり日付を合わせたりネジを巻いたりといった面倒な手間がかかります。

そうした手間がかかってもなお、機械式腕時計を身につけたい、と思う瞬間はあるのです。

ただ、こういう用途にApple Watchが向いてるかと言うと、そこには甚だ疑問を感じざるを得ません。

たぶんApple Watchは機能性だけ見たら機械式腕時計とは比較にならないでしょう。
ではファッションとして身につけるか、と言うと、これも微妙です。

汎用的な電気製品にファッション性を取り入れ、無数とも思えるバリエーション展開を最初からしようとしている点についてはApple Watchは極めて野心的な商品だと思います。

ただ、根本的に本当にこれが人々の求めているものなのか、という点はまだ疑問です。

スクリーンショット 2015-03-19 7.12.33.png

筆者は二年ほど前に、アメリカのKickstarterというクラウドファンディングで大成功を収めたPebbleというスマートウォッチを購入しました。

Pebbleは小型の電子ペーパーをあしらった時計で、iPhone/Androidと連携してアプリを転送したり、時計の見た目を変更したりできるようになっています。

電子ペーパーの反応もなかなか良く、値段も$99と手頃なので出張にいったついでに買ってきたのですが、どうもすぐに飽きてしまいました。

なぜ飽きてしまったかはよくわからないのですが、盤面が自由に変えられるというのは逆にいえば盤面を変えたくなってしまうということでもあります。

変わってしまうものに、執着を持つと言うのはなかなか難しいものです。
筆者がデジタル腕時計ではなく機械式腕時計にある種の執着を持つのは、メカニズムが可視化されているからです。

細かい仕組みはもちろん解らないまでも、なにか歯車がギリギリ回っていたり、ゼンマイを巻き上げたりといった一連の動きの総体は、まるでサーカスのように見えます。

それに比べると半導体は動作がまるで見えないので筆者のように、コンピュータの内部の仕組みを知っている人間でも、味気ないものに見えてしまいます。

つまり執着をしにくいのです。

まだ問題があります。
Apple WatchもAndroid Wearもそうですが、スタンドアローンでの動作が制限されてしまいます。
常にスマートフォンと接続しておかないと完全な動作が期待できないのです。

これでは時計として困ります。

ここにひとつの矛盾が生じます。

時計として時刻を確認するだけならば、おそらく依然として旧来からの機械式時計やクォーツ時計で全く問題ないでしょう。むしろ未だにその機能だけを考えれば非常に優れています。

しかしスマートウォッチが提供するのは時計機能だけではありません。

時刻を伝える、という機能はむしろオマケです。

では何をするのかというと、主にはSNSやメールの通知です。

しかしSNSやメールの通知をそんなに頻繁に受け取りたいと思っている人は果たしてどれくらいいるのでしょうか。

PebbleをTwitter、Facebook、メール、LINEと連動させていた時は、ひっきりなしに通知が来て常に腕時計が震動していました。

これはもう通知の意味を成しません。
通知の意味をなさないので一旦は通知を部分的に切ったり、抑制したりしました。
しかし頻繁に来ないからといって便利なわけでさえないのです。
頻繁に来なくなった変わりに、今度は他の作業を邪魔されます。

原稿を書いてると通知、会議してると通知。
仕方が無いのでLINEを見てみると、極めて緊急性の低い内容のメッセージで落胆しました。
つまり、日々の生活に割り込んでまで送られて来る通知というのは、よほどのものでないと価値が無いのです。
これは筆者だけに限らないでしょう。

スマートウォッチから通知されない生活が当たり前なので、みんなカジュアルにFacebookメッセージやLINEを送ってきます。もちろん送る人を責める筋合いはありません。

しかしスマートウォッチの通知機能を活用するには、社会全体が「スマートウォッチに送るんだ」という意識を持たなければ常に不愉快な通知しか送れないことになり、この有効性は非常に疑問です。

従って筆者はスマートウォッチは流行しないのではないか、という立場をとってきましたが、先日考えが変わる出来事がありました。

極めて私事ですが、昨年からダイエットを始めています。
一時期あまりにも体重が増えすぎたので、12月から今月までにウォーキングなどの軽い運動と食事制限で9キロの減量を行いました。

さすがにそれだけ減ると体重が下げ止まるので、もう一息減らすためにジョギングを始めたのです。
するとこれがかなり難しいことが解りました。

最大の問題は、荷物です。
ジョギング中はできるだけ荷物は持ちたくありません。

しかし最低限、携帯電話と財布くらいはどこか身につけておく必要があります。

ところが意外とこれをちゃんと仕舞えるカバンがないのです。

それを身につけて走るわけですが、非常に邪魔です。
さらに最近流行のフィットネス系アプリをインストールすると、走りながらいろいろな情報を収拾してくれますが走っているのでせっかくの画面を見ることができません。

あれは一体なんのために誰が作ってるのか、ということも疑問ですが、こういう時こそ、ウェアラブル端末があればいいのに、というタイミングだと思いました。

ジョギング中にGoogle GlassやApple Watchで移動速度や距離などの各種情報を確認できたら便利です。できれば電話機能は内蔵して欲しいですが。ついでにこれがいわゆるお財布ケータイになったらもっと便利です。

ところがGoogle GlassもApple Watchもスタンドアローンでは動作しません。
これではなんとも中途半端です。

身体の揺れが少ないスポーツ、たとえばスノーボードとかサイクリングとかならまだいいかもしれませんが、スタンドアローンのApple Watchがあればそれにこしたことはないと思います。

実際、アメリカのRecon社はスノーボード用HMDゴーグルとサイクリング用HMDグラスを販売して成功を収めています。

しかしウェアラブル端末がスタンドアロンにならず、いつまでもスマートフォンの周辺機器のままでは、これ以上発展するのは難しく感じます。

根源的な価値がどこにあるのかがまだ明確ではありません。

たとえばスマートウォッチがあればスマートフォンを持ち歩かなくて良くなるならばそれはひとつの革命です。

文字入力をどうするとか、バッテリーをどうするとか、課題はあるでしょうが解決策もあるはずです。
スマートフォンではTwitterとFacebookとLINEしかしない、というユーザは少なくありません。そういう人たちに特化したスマートウォッチなら或いは流行るかもしれません。

そうでないならば、スタンドアローンでなくてもスマートウォッチならではの価値をもっとアピールするべきです。

ところがGoogleもSAMSUNGもAppleも、「スマートウォッチでなければならない理由」をどうもまだうまく説明できていないように見えます。

カッコイイ、というだけで売るとすれば、今回は売れたとしても次に続かなくなってしまいます。
一度買えば充分です。
スマートウォッチが成功するためには、ハードウェアそのものではなく、それを使うとこれまでできなかった何ができるようになるのか、そういうことをもっと追求し、アピールしなくてはなりません。

少なくとも通知はあんまりです。
フィットネスは、用途を限定すればアリでしょう。

しかし全ての人がフィットネス機能を必要としているわけではないので、ごく普通の人にどうアピールするかというのは未だ問題です。地図機能なんかは便利だと思いますけどね。

ただ、グラスに地図が表示されてもちょっと困ります。注意がそれれば事故になるかもしれません。

また、地図はしばしば広い画面でみたくなるのでスマートウォッチの小さな画面で見て有効かどうかはわかりません。
ひとつウェアラブル端末の使い方で面白いなと思ったのが、筆者の個人ブログで連日紹介していますが、「データの見えざる手」の著者である日立中央研究所の矢野和男氏らが開発した「ビジネス顕微鏡」です。

ビジネス顕微鏡はスマートフォン以前に開発されたのでスマートウォッチに比べるとだいぶ原始的です。
赤外線の受発光機能と、三軸の震動センサーしかありません。

しかしこれで何が解るかと言うと、「その人の幸福度」や「運のよさ」がわかるというのです。

そんな馬鹿な、と思う方は、ぜひ本書をお読みになって下さい。

筆者らが10年近くに渡り人の動きを研究してきて、人間の行動を運動方程式にあてはめたり、熱力学にあてはめたりして意外な発見を行っています。

これによると、人間は誰かと話をしているときに身振り手振りが大きい人ほどより高い幸福感が得られ、高い幸福感を得られる組織は通常の組織よりもクリエイティビティが300%は上がる、ということなのです。
300%というと尋常な上がり方ではありません。
クリエイティブな仕事をしている人は今すぐにでもこの考え方を取り入れるべきです。

本書によると人の幸福度は加速度を計測すると解ります。

さらにスマートウォッチなら、赤外線を使わずとも、そのとき近くにいる人をBluetoothなどで計測することができます。これで人的なネットワーク関係をあぶり出すことができます。

幸福度が仕事の生産性に大きな影響を与えるのであれば、経営層は真剣に彼らの仕事ぶりを振り返るべきでしょう。

意外とスマートウォッチのキラーアプリケーションはそんなものなのかもしれません。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。