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Firefox OSがつながるモノとコミュニティの新たな世界 〜Mozilla Open Web Day in Tokyo レポート〜(下)

2014.10.16

Updated by Yuko Nonoshita on October 16, 2014, 15:00 pm JST

10月5日、東京のアーツ千代田3331にて開催された「Mozilla Open Web Day in Tokyo」イベントの後編。ここでは、トークセッションの模様を紹介する。

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Web x Fab をテーマにしたトークセッションでは、Mozilla Japan の瀧田佐登子代表理事とFabLab Japan 発起人である慶應義塾大学の田中浩也教授が、インターネットとものづくり、さらにネットとモノをつなげるIoT(Internet of Thing=モノのインターネット)について語った。

ここで言うFabとは、コンピュータやネットと、3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機器を使い、身の回りの道具や電子製品を自作する活動全体を指す。田中教授は、FabとはDIYとWebの融合であり、ものづくりのためのデザインや設計図はオープンソースのようにオンラインで公開され、日本で作ったものが、翌日にはアメリカでも手に入れられ、さらに次の日には新しいアイデアが加えられて再配布されるということが起きていると紹介した。具体的な動きとしては、3Dプリンターのフォーマットを標準化する取り組みに参加しており、多様な人に多様なことをしてもらうための環境を整えているという。すでに、一部のデータは標準化の元でオープンデータがダウンロードできるようになっており、ホワイトハウスやスミソニアン博物館の展示物のモデルを出力できるようになっている。

こうした標準化、オープンデータの動きは、ウェブの世界は以前からあるものと瀧田氏は指摘。プログラムやコードだけでなく、実際のモノもマッシュアップできるようになったのは、インターネットが世界をバリアフリーにし、ウェブという共通プラットフォームが築かれたためとコメントした。ウェブとモノとの親和性は高く、家電製品をコントロールしたり、センサーから環境情報を収集したりできる、IoTが急速に注目を集めている。製品だけでなく、個々の部品にRFIDタグを埋め込み、ウェブから情報を読んだり改変したり、やがては自己修復することも可能で、モノ同士がつながって自律的に動き、やがて人のようになるのではないかという話にまで拡がった。

ウェブにしても、ものづくりにしても、新しい動きが始まっているのはまちがいないが、それを言い表す言葉が無く、説明するのが難しいというのが、両者の共通した課題であるようだ。いずれにしても、ウェブとものづくりの世界は急接近しており、互いで活動する人たちやアイデアが刺激し合いながら、進化していくことはまちがいなさそうである。

▼ものづくりとウェブの親和性は高く、様々なシーンに拡がっていることが紹介された。
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次のセッションでは、Web × モノ× くらし、をテーマに、引き続きモノとウェブのつながりと関係性について語られた。角川アスキー総合研究所の遠藤諭氏が注目する様々な技術について、ウェブアプリケーション開発などを手掛ける羽田野太巴氏が独自の視点でコメントするという流れで、話題はドローンやウェアラブル、ブラウザOSデバイスまで幅広く拡がった。

ドローンについては、手のひらに乗るサイズで、ウェブやアプリから操作できる製品が登場し、組み込み以外の専門家も参加するオープンな開発が進んでいると指摘。ITイノベーションとして重要なポイントになっており、ベンチャーも増えるなどこれから進化が期待されている。一方で、同様に話題になっているウェアラブルは、一般にはまだ受け入れられにくいのではないかと羽田野氏は指摘。理由として、実用性よりファッション性が求められ、ポストスマホを期待されているが機能は越えられないことをあげ、普及の可能性があるとすれば、用途が明確な産業用で、その場合も機能は特化されるので一般での普及は難しいという。遠藤氏は、ウェブがモノに入るのがウエアラブルであり、利便性と身に付ける必要性のバランスがとれた時が、普及ポイントになるのではないかとコメント。そこでは価格もポイントになるとしている。

羽田野氏は、社会に技術やスキルは拡がるが、一般に伝わるのは時間がかかり複雑になっていると言い、ウェブがすべてに浸透するとシンプルになるかもしれないが、それでも、エコシステムやビジネスは複雑になっていくだろうと指摘する。遠藤氏は、ドローンや3Dプリンターのようにプロだけの技術が一般に拡がり、共有できるようになっており、すそ野が広がれば、ウェブが誰でも作れるようになったように、ものづくりも当たり前になるとコメント。それこそがオープンな社会であり、新しいイノベーションがたくさんおこるようになってほしいとコメントをしめくくった。

▼話題のドローンやウェアラブルなど。様々なモノがウェブを通じて自分たちの生活に入り込んで身近になることで新たなイノベーションにつながるという。
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最後に行われた、KDDI Firefox OS プロジェクトチームよるセッション3は、事前に重要発表があるとの告知もあったことで、大勢の参加者が詰めかけた。最初に、同社がFirefox OSに取り組みはじめた経緯として、2012年に正式なプロジェクトがスタートしたことや、同年7月にサムスンのデバイスでOSを動かして見せたことが紹介された。翌13年2月にスペインのバルセロナで開催されたモバイル関連の国際イベントMWC(モバイルワールドコングレス)でオリジナルデバイスの開発を発表してから、しばらく情報ががなかったが、壇上で田中孝司社長からのビデオメッセージが公開され、その中で、今年のクリスマスに製品を発売することが発表された。ビデオではモザイクがかかっていたが、実機がすでに完成していることがわかり、会場の期待感は一気に高まった。

KDDIの発表はそれに終わらず、イベントの数日前に発表された、開発ボードの「Open Web Board」や、アプリ開発ツールとなる「Gluim」、モバイルにプリインストールされる予定の「Framin」が次々と発表された。ボードの発売時期は未定だが、OS開発者の支援活動として開催するハッカソンでの配布を予定している。インターフェイスはHDMIとUSBのtypeAポートなどを搭載し、短距離無線もサポートしており、既存の組み込みコミュニティやウェブ開発者を巻き込み、スマートフォン以外の開発も積極的に進めるとしている。

合わせて、アイデアソンも開発し、情報プラットフォームとして「au Firefox OS Portal Site」を公開すると発表。開発ツールのGluinは、グラフィカルで初心者でも扱いやすいレシピと呼ばれるプログラムを使うが、それらのライブラリーを公開したり、参加者同士が意見交換や共同作業ができる環境としていく。Webアプリケーションの開発と同じ感覚で開発できるFirefox OSの特性を活かし、幅広い分野からの参加者を期待したいとしている。

会場からは、KDDIが今後どこまでオープンな開発環境に関わっていくのかという質問があったのに対し、オープンソースの力は無視できず、コミットする度合いは高いと回答。いろいろなデバイスにあわせたツールを提供していくことが大事であり、開発環境を拡げるには、OSの開発者だけに任せず、今後はさらにオープンソースコミュニティ全体へ広く関わりを持っていきたいともコメントした。

▼セッション3では、Firefox OS Phone の発売が今年のクリスマスになることが田中孝司社長のビデオメッセージで発表された。
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▼Firefox OS で開発ができる「Open Web Board」は発売前にハッカソンを通じて配布を予定している。
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今回のMozillaのイベントは、FirefoxブラウザやOSの話題だけでなく、ウェブやオープンソースがモバイルやものづくりの世界にも影響をもたらしていることを実感できる内容であった。また、今までこうしたイベントは、仲間内の集まりだけに終わるイメージがあったが、本当の意味で開かれた、誰でも参加できる内容であり、幅広い人たちがイノベーションを実感できるものになっていたのではないかと感じた。

【参照情報】
Mozilla Open Web Day in Tokyo
セッション1 動画
セッション2 動画
セッション3 動画

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野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。